
マイホームを夫婦共有の名義で購入してたにも関わらず離婚になってしまった場合、それぞれの共有持分をどうするのかについて悩まれる方は多いのではないでしょうか。
原則として、夫婦が離婚するなら共有持分についても財産分与を行い、再分配することになります。一方で、このようなケースでは双方が納得する形で分配するに当たってトラブルに発展するリスクも考えられます。
仮に、自分の共有持分のみを勝手に売却してしまえば、離婚調停で不利になりかねません。そのような場合に備えて、本稿では離婚調停における共有不動産の扱いについて解説します。
目次
離婚する場合の共有持分の売却は不利になりやすい
共有持分の売却自体は離婚調停中であっても行えますが、一般的には不利になりやすいと言えます。その理由は、離婚時の財産分与において共有不動産を1/2で分割する必要があるためです。
財産分与において共有不動産は1/2で配分しなければならない
共有名義で購入したマイホームは、離婚する場合は財産分与の対象になります。財産分与では、婚姻中に夫婦が築いた財産は1/2に分けるのが原則であると民法で規定されていますので、マイホームについても同様の処理が必要です(※1)。
一方で、築かれた財産が夫婦のいずれかの特殊な技能や資格に基づいていると判断された場合は、どちらかの分与割合が目減りする可能性もあります。
さらに、どの財産も必ずしも1/2にしなければならない訳ではなく、双方の合意形成があれば自由に分与割合を決められます。
夫婦間で共有物分割請求をしたほうが良いケースとは?
共有物分割請求とは、もう一方の共有者に対して、当該物件を物理的、あるいは金銭的に分割して再分配する手続きです。
以下のようなケースでは、離婚前であっても共有物分割請求が検討できるでしょう。
- マイホーム購入時の出資額に大きな差がある
- 相手が離婚届に印を押さない
- 離婚調停が長引き、固定資産税などの負担が心配
基本的に、他方の共有者は分割請求の申し立てが行われれば、協議に応じなければなりません。
一方で、夫婦間の共有物分割請求については、どちらかの経済事情や離婚後の住居確保などの観点から、認められない可能性があります。
分割請求権の行使によって他方に不当な損害が発生する場合、権利濫用を判断されるためです。権利の濫用が適用されるかどうかについてはケースバイケースですので、適宜専門家へ相談するようにしましょう。
共有持分はどのタイミングから自由に売却できる?
基本的に、財産分与が確定して離婚調停に決着がつけば、分与された自分の持分については自由に売却ができます。財産分与を行わずに離婚してしまった場合であっても、後から他方に対し財産分与請求ができると、民法で定められています(※1)。
一方で、財産分与請求権は離婚してから2年が経過すると、権利が消滅してしまいます。請求権の消滅後にマイホームを売却されたとしても何も主張できませんので、必ず期間内に自分の持分を決定する財産分与を行うようにしましょう。
離婚時にマイホームの共有状態を解消する方法
離婚することになったら、基本的にマイホームの共有状態は解消しておく方が、後でトラブルが発生するリスクを低減できます。
共有状態の解消方法は、マイホームの売却だけでなく、離婚後も一方が物件に住み続ける場合やローンの残債状況によって異なってきます。
マイホームを売却する
離婚後、マイホームに誰も住まないのであれば多くの場合は売却することになるでしょう。一方で、物件取得時に住宅ローンを利用していたのであれば、ローンの残債によって対応方法が異なります。
まず、ローンを完済しているのであれば、そのまま物件を売却をして、売却益を財産分与で分割するのが一般的です。この場合、分与前に譲渡所得税の支払いも求められます。
ローンの残債があったとしても、売却価格が残っているローンの金額以上である「アンダーローン」状態であれば、同じように売却し、売却益をローンの返済に充てられます。
一方で、マイホームの売却価格がローンの残債を下回っている「オーバーローン」状態なら
、任意売却を行わなければなりません。任意売却とは、ローンの借り入れを行った金融機関の認証を得た上で売却するスキームです。
このようなオーバーローン状態では基本的にマイホームは財産分与の対象にしないのが一般的ですが、婚協議による話し合い次第では分与対象にするケースもあります。
単独名義に変更する
子供がいたり、両親と同居していたりする場合などは、離婚後もどちらか一方がマイホームに住み続けるケースも考えられます。そのような場合は、ローンを完済できていれば、離婚成立後に法務局で名義変更の手続きを行う必要があります。
この際、登録免許税と不動産取得税が課税される点についても、あらかじめ承知しておきましょう。
一方で、ローンの残債が残ってしまっていると、金融機関に契約違反とみなされ、名義変更ができない可能性もあります。そのようなケースでは、借り入れを行っている金融機関からローンの残債を一括請求されるおそれもあるため、事前に金融機関に相談することが必要です。
離婚時に共有関係を解消しないとどうなる?
離婚後も物件を共有名義のままにしておくと、売却やリフォームを行う際に、逐一他方の共有者の合意を得る必要があります。固定資産税の支払いについても、基本的には折半することになるでしょう。
離婚後の売却が難しくなる
共有名義のマイホームを売却する場合、物件をまるごと売却しようと思えば、他方の共有者の合意が必要になります。そのため、もし夫婦間でマイホームの扱いについて意見が割れたなら、売却はできません。
共有持分のみを売却するにしても、“権利の一部のみ”では利活用が難しいため、買い手探しは難航するでしょう。どうしても自分の共有持分だけでも売却したいなら、市場価格よりは低くなってしまいますが、訳あり物件の買取専門業者へ相談すれば短期で売却できます。
固定資産税を支払い続けることになる
固定資産税の納税義務を負うのは、当該資産の所有者です。そのため、離婚後も共有状態を解消していなければ、もう家に住んでいなかったとしても固定資産税を支払わなければなりません。
ただし、当該物件に住んでいない共有者は、他方の共有者へ家賃請求も行えます。そこで視野に入るのが、得た家賃を固定資産税の支払いに充てるか、家賃を請求しない代わりに固定資産税についても支払わないといった交渉方法です。
まとめ
離婚調停における財産分与では、共有名義のマイホームは現状の持分に関わらず1/2ずつ分配しますので、自分の共有持分の売却については再分配後に行う必要があります。
一方で、離婚後も共有状態が解消されていなければ、自由に売却ができなくなったり、住んでいなくても固定資産税の支払い義務が生じたりしますので、しっかりと解消しておきましょう。
参考:
※1 e-Gov 法令検索,「民法」,https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089,(2022/03/29)