
借金を支払えなくなった場合、「自己破産」を考えることもあります。そのとき自己破産をすると所有している不動産はどうなるのでしょうか?自分一人の名義ではなく、もし「共有名義」の不動産の場合は他の共有者へ影響はあるのでしょうか?
今回は、自己破産したときに共有名義の不動産がどのようになるのか、またどのように対処することがベストなのかご紹介します。
目次
■自己破産とは?
「自己破産」とは、そもそも何なのでしょうか?
また自己破産をすることのメリットとデメリットをご紹介します。
・自己破産とは?
自己破産とは、債務の返済ができなくなった際に、裁判所に自分で申し立て、財産をお金に換え、債権者に分配することで負債を帳消しにする手続きのことです。「破産法」という法律で定められた正式な救済措置であり、生活を再生させるための制度です。
【自己破産を検討するケース一例】
・多重債務により支払いきれない
・給与などが差し押さえられた
・利息の支払いしかできない
このような状態が続いてしまうときに、自己破産を考えることになるでしょう。
自己破産のメリット
自己破産をすることのメリットをご紹介します。
1.借金がなくなる
借金がゼロの状態になることが、最大のメリットです。
自己破産には借金の限度額はないため、裁判所で「免責決定」の判断が行われたらすべての返済が不要となります。対象となる負債は下記の通りです。
【対象となる負債一例】
・消費者金融からの借り入れ
・住宅ローン
・車のローン
・クレジットカード滞納金
・リボ払い
・連帯保証債務
・携帯電話料金(未払い分)
・家賃(未払い分)
など
2.取り立てがなくなり精神的ストレスがなくなる
債務者からの請求や取り立てがなくなったり、給料などを差し押さえられる強制執行を止めたりすることができます。「借金に追われている」という精神的ストレスから解放されることもメリットといえます。
3.自己破産後に得た財産は没収されない
下記「デメリット」で詳しくお伝えしますが、自己破産をすると価値ある財産は失われます。しかし、自己破産後に得た財産は没収されません。また財産もすべて失うわけではなく、最低限生活するための現金や衣類・家電等は残せることになっています。
自己破産のデメリット
次に自己破産をすることのデメリットをご紹介します。
1.不動産などの資産がほぼなくなる
預貯金や価値のある財産はほとんど失われてしまいます。没収されるものは下記の通りです。
【没収されるもの一例】
・不動産(家・土地)
・売却をして20万円を超える車や宝石、保険など
・99万円を超える現金
車やバイクなどは、古くなっていれば20万円を超えないため没収を免れる可能性がありますが、家や土地などの不動産は没収を避けることができないでしょう。
2.ローンを組むことができない
「個人信用情報」に、自己破産したことが事故情報として登録されます。いわゆる「ブラックリストに載る」という状態になってしまうため、「お金を貸しても返されない」と判断され、ローンが通らなくなってしまいます。事故情報が登録される期間は5~10年ほどで、この期間は家や車を買うことが難しくなります。
3.クレジットカードをつくることができない
ローン同様、個人信用情報に自己破産の記録が残っている間はクレジットカードをつくることができません。買い物等で不便さを感じることがあるでしょう。
4.仕事が制限されることも
自己破産の手続き中、下記の業種の方は一時的に仕事ができなくなる場合があります。
しかし、自己破産を理由に会社を解雇されることはなく、資格も剥奪されることはありません。仕事が制限される期間は、破産手続き開始決定後から免責決定が確定するまでであり、2~3ヶ月または半年程度かかることもあります。
【制限される業種】
・弁護士、税理士、司法書士、公認会計士などの士業
・貸金業者、生命保険外交員などの金融関連業
・公正取引委員会、教育委員会、公証人などの一部公務員
・警備員
・旅行業者
・宅建業
・調理師
など
5.連帯保証人が借金返済をすることになる
自己破産による免責は申し立てをした本人が受けるため、保証人や連帯保証人がいる場合は、その人に支払い義務が移行してしまいます。配偶者が連帯保証人になっている場合、家族で自己破産になるというケースもあります。
■共有持分は、自己破産をするとどうなる?
自己破産をすると不動産は失われると上述しました。それでは配偶者や他人と共有している不動産を持っている場合はどうなるのでしょうか?
・共有持分を失う
破産者が持っている共有持分は、自己破産をすることによって失われてしまいます。
共有持分とは、1つの不動産を2人以上で所有している際にそれぞれが持っている所有権の割合のことです。つまり、共有持分を失うということは不動産の所有権がなくなるため、そこに住む権利や管理・売却などを行う権利がなくなるということを意味します。
・破産管財人によって売却される
破産者の財産を預かり、債権者へ配当する「破産管財人」によって、共有持分は売却されます。破産管財人は共有持分の任意売却を進めたり、他の共有者へ買い取りを持ちかけたりします。
・破産管財人によって共有物分割請求が行われる
共有持分の任意売却が難しい場合、破産管財人は共有物分割請求を行うことがあります。共有物分割請求とは、裁判所を通して分割方法などを決めることで、その方法は下記の通りです。
【分割方法】
1.現物分割:不動産を物理的に分ける方法です。建築物が建っていない土地のみの場合に適用されることがほとんどです。
2.価格賠償(代償分割):共有者の誰か1人がすべての持分を買い取り、他の共有者に代償金を支払う方法です。
3.換価分割:第三者に売却して、経費を差し引いて残ったお金を共有持分に応じて共有者全員に分配する方法です。
・競売になることもある
住宅ローンが残っており、不動産全体に抵当権が設定されている場合、競売になることがあります。しかし、共有持分にしか抵当権が設定されていない状態であれば不動産全体を競売にかけることはできません。
■共有者が自己破産した場合の影響
配偶者や他人と不動産を共有している状態で、その人が自己破産をして共有持分を失った場合、自分の持分はどうなるのでしょうか?
・自分の持分を失うことはない
自分以外の共有者が自己破産をして不動産の所有権を失ったとしても、自分自身が自己破産をしていなければ、共有持分を失うことはありません。
たとえ破産者が配偶者であっても同様です。しかし配偶者の場合、自分が「連帯保証人」になっていればその債務が自分に移行するため注意が必要です。
・知らない人との共有状態になる
破産者の共有持分は、他の人のものとなります。
例えば、夫婦名義の不動産で、夫の自己破産により夫が持っていた共有持分が失われた場合、妻の所有権は失われないためそのまま住み続けることはできますが、知らない人や不動産会社と共有している状態になってしまいます。
・管理や売却などが自由にできなくなる
知らない人や不動産会社と共有状態になってしまうと、不動産の管理や売却が自由にできなくなってしまいます。「古くなったので家を改築したい」「人に家を貸したい」などと思ったとしても、共有者が合意しなければ成立しません。コミュニケーションが取りづらい他人との共有状態は、管理や売却がスムーズにいかずストレスを感じる場合があります。
■他の共有者が自己破産したときの対処法
他の共有者が自己破産をして共有持分を失った場合、上記のような影響が出る可能性があります。知らない人と共有状態になると、管理や売却の問題以外にもトラブルを招くことがあるため、回避できる方法をご紹介します。
・任意売却をする
任意売却とは、債務者と金融機関と協議して自主的に不動産を売却する方法です。
共有者が自己破産をした場合、破産管財人と協力して、任意売却を行います。通常、ローンが残っていると勝手に家を売ることができないのですが、任意売却であれば可能になります。競売よりも高額で売れる可能性があるため、残ローンを減らすことができるでしょう。自宅を失うことにはなりますが、他人との共有状態を避けることができます。
・持分を買い取る
破産管財人や、破産者の共有持分を買い取った業者などから「持分を買い取らないか?」といった連絡が来ることがあります。自分に資産があるのであれば、共有持分を買い取り、単有にすることもいいでしょう。他人との共有状態を避けることができ、不動産の売却・管理などが自分1人の判断でできるため、メリットは多いです。
買い取り価格は通常、不動産価格から共有持分割合を算出した額になりますが、相手との交渉で自由に決めることができます。
■自己破産する前にやっておきたいこと
自己破産の手続きを進める前に、共有名義の不動産を持っているのであれば、やっておいた方がいいことをご紹介します。
①任意売却を検討する
2人以上で共有している不動産を任意売却するためには、共有者全員の合意が必要となります。「自己破産することを知られたくない」という場合でも、素直に話さなければ合意を得られないかもしれません。上述した「共有者が自己破産した場合の影響」を伝え、任意売却をすることのメリットを理解してもらいましょう。
自己破産前に任意売却をすることのメリットをご紹介します。
1.借金返済にあてられる
任意売却は競売よりも高額で売れる場合があるため、ローンなどの借金返済にあてることができます。自己破産を避けることができるかもしれません。
2.「同時廃止」になる可能性がある
自己破産には「管財事件」と「同時廃止」の2種類があります。
管財事件とは、一定以上の財産がある場合に選択されるもので、高額な管財予納金を支払う必要があります。家などの不動産を持っていると「一定以上の財産がある」とみなされて「管財事件」を選択される可能性があります。
【同時廃止の条件】
財産額が33万円未満
【管財事件の条件】
下記のいずれかに該当した場合。
・財産額が33万円以上
・法人代表者や個人事業主
・債務額が5000万円以上
・免責不許可事由がある、または調査の必要性がある
任意売却により不動産を手放しておけば「財産がない」と判断され、「同時廃止」が選択される可能性があります。同時廃止は管財予納金を支払う必要がなくなる他、破産管財人の選任もないため、「管財事件」と比べて手続きが簡単になることもメリットです。
3.他の共有者へ迷惑をかけずにすむ
上述した通り、自己破産をして共有持分を失うと、他の共有者は知らない人や不動産会社と共有状態になってしまいます。そうなると迷惑やストレスを与えてしまうことになるばかりでなく、破産者本人にクレームが来る可能性もあります。
自己破産の前に任意売却をしておくことで、このようなトラブルを回避することができます。
4.競売を避けることができる
競売になると、その情報が全国に公開されるため、あらゆる人が不動産を見に来る場合があります。そうなるとプライバシーを侵害されることもあるでしょう。
任意売却であれば、通常の不動産売買と同様、自分たちの意向で売却することができます。周囲の人にも「借金があるから競売になった」などと知られることなく、売ることができます。
②他の共有者に持分を買い取ってもらう
他の共有者が任意売却を拒否する場合、自分の持分を他の共有者に買い取ってもらうこともひとつの方法です。資産を手放しておくことで、上述した「同時廃止」を選択される可能性があったり他の共有者へ迷惑をかけずにすんだりします。
③自分の持分を業者に買い取ってもらう
他の共有者が任意売却や持分の買い取りに積極的ではない場合、専門の業者に持分のみを売ることができます。持分を失うことでその家に住むことはできなくなりますが、買い取ってくれた金額によっては、自己破産を免れることができるかもしれません。
■自己破産をする前に不動産業者などに相談を
共有持分を持っている状態で自己破産手続きをしてしまうと「管財事件」となり、費用や手間がかかる可能性があります。
そもそも自己破産にはデメリットも多いため、自身で解決できるのであれば回避したいもの。任意売却や持分売却によって自己破産を回避できるかもしれないため、手続きをする前に不動産業者などのプロに相談してみるといいでしょう。
