
不動産を所有するとあらゆる権利や義務が生じるのですが、1人ではなく複数人で共有すると「共有持分権」を持つことになり、1人で所有する場合と比較して異なる点があります。
「共有持分権」とはいったい何なのか?
不動産を共有する際に発生する権利と義務について解説します。
また、共有持分権者にかかる費用や他の共有者との費用分担方法についてもご紹介します。
目次
■共有持分権とは
まず、「共有持分権」と「共有持分」という言葉の意味について説明します。
共有持分権とは
共有持分権とは、財産を複数の人で共有している際、その共有持分やそれに伴って発生するさまざまな権利のことを指します。
不動産の共有持分権者は、共有持分に応じて権利を持っていますが、「共有持分が2分の1ずつだから、建物の半分が自分のもの」という物理的な考えではなく、「不動産全体に対して2分の1の割合の権利を持っている」という概念的な考えとなります。
共有持分とは
共有持分とは、1つの不動産を2人以上で所有している際にそれぞれが持っている所有権の割合のことです。
例えば、3000万円の不動産をAとBで購入するとき、Aが2000万円・Bが1000万円支払ったとしたら、共有持分はAが3分の2・Bが3分の1となります。共有する人は夫婦であっても他人であっても問題ありません。
ちなみに、共有持分とあわせて「共有名義」という言葉が出てくることがありますが、共有名義とは不動産を共有している「人」のことを指す言葉です。
・権利の内容
不動産の所有権を持つ人には、使用収益する権利や、変更(処分)行為・管理行為・保存行為などをする権利があります。変更(処分)行為と管理行為・保存行為の具体例を下に記載します。
【変更(処分)行為】
・売却
・贈与
・長期賃貸借
・増築、改築
・大規模な修繕
・抵当権の設定
・解体
・建て替え
・分筆・合筆
【管理行為】
・短期賃貸借契約締結
・共有物の使用方法決定
・賃料の減額
・賃貸借契約解除
【保存行為】
・修繕
・無権利者に明途請求
・抹消登記請求
・法定相続による所有権移転登記
・共有者がお互いに権利を制限している
不動産を所有している人は上記の権利を持っていますが、共有持分権者はこれらを単独では決行できない場合があります。例えば「不動産の全部を売却したい」と考えたとき、共有者が反対であれば実行できません。各共有者がお互いに権利を制限し合っている状態だと言えます。重大な事項であればあるほど制限が厳しくなります。
詳細を説明します。
–変更(処分)行為は共有者全員の合意が必要
不動産を物理的に変えてしまう行為や法律的に処分する行為である「変更(処分)行為」は重大なため、共有者全員の合意がなければ成立しません。共有者が複数人おり、大多数が賛成している場合でも1人が反対の状態であれば実行することができないのです。
–管理行為は共有者の持分価格の過半数の合意が必要
民法第252条で「共有物の管理に関する事項は、前条の場合を除き、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する」と定められている通り、「管理行為」は共有持分の価格の過半数が合意すれば成立します。共有持分権者が3人おり、3分の1ずつの持分だった場合、3人のうち2人が合意すれば決行することができます。
-保存行為は各共有者が単独で判断できる
他の共有者が不利益にならないことを前提として、共有物の物理的現状を維持する「保存行為」は、他の共有者の合意なしで行うことができます。民法でも「各共有者が保存行為をすることができる」とされています。
このように「変更(処分)行為」と「管理行為」、「保存行為」は民法で決まっており、共有持分権者それぞれに権利がある反面、合意が得られなければ制限されることもあります。
■共有持分権者にかかる費用
不動産は所有していると、たとえ住んでいなかったとしてもあらゆる費用がかかります。
そこで、共有持分権者にかかる「必要費」と「不当利得」について説明します。
必要費とは
必要費とは、不動産の保存・管理・維持のために必要となる費用のことです。
不動産を所有する人は、必ずと言っていいほど負担しなければいけません。
どのようなものがあるか説明します。
–固定資産税
固定資産を所有している人にかかる市町村税です。不動産の「評価額」に対して税率を掛けて算出され、4月~6月の間に自治体から税額が通知されます。固定資産税の税率は土地・建物ともに1.4%が基本ですが、市町村によってはそれ以上の税率に定められている場合もあります。
また、不動産の所在地が市街化区域に指定されている場合、「都市計画税」が追加で課税されることもあります。都市計画税の税率は自治体によって異なります。
–修繕費
老朽化や災害によって建物などが損壊した場合などにかかる費用です。
–管理費
不動産がマンションであれば、管理会社へ支払う費用も必要となります。「管理会社への債務は不可分債務」とされており、共有者が複数いる状態でも分割して請求されるのではなく、共有者全員が債務者に対して全額を支払う義務を負っています。
土地を借りてその上の建物を共有して所有している場合、その土地の「賃料」も「不可分債務」となります。
不当利得とは
不動産に関する経費すべてが「必要費」ではないのですが、不動産に関する費用で必要費に当たらないものを「不当利得」として他の共有持分権者に請求することができます。
この場合の不当利得とは、主に下記のことを指します。
–水道費・光熱費
共有建物で水道やガス・電気を使用している場合にかかってくる費用です。
–有益費
不動産価値を増やすためにかかる費用のことです。例えば、ウォシュレットトイレに変更したり、より機能性の高い窓に取り替えたりした場合の費用は有益費にあたります。
■共有不動産にかかる費用の支払い方法
不動産を所有していると、あらゆる費用がかかることを上記で説明しました。
1人で所有している場合、「請求書が来たら支払う」という流れになりますが、共有不動産の場合はどうなるのでしょうか?
支払い方法について説明します。
・代表者が支払ったあと他の共有者に請求
共有持分権者は、持分に応じて費用負担をする必要があります。Aの共有持分が3分の2・Bの共有持分が3分の1で、30万円の費用がかかった場合、Aは20万円・Bは10万円を支払います。
しかし、「共有持分に応じて費用を負担する」ということは共有者内部で効力を持つだけで、対外的には通用しません。請求側は共有者の人数や持分に応じて分割してそれぞれに請求するわけではないのです。
そのため、まずは代表者1人が全額支払いをします。その後、共有持分に応じて割り算をし、支払った代表者から他の共有者に請求をする、という流れが一般的です。
・固定資産税を代表して払う人の決め方
固定資産税は、共有持分権者全員が全額の支払い義務を負っています。法律でも「連帯債務」であることが明記されており、持分割合とは関係なく支払う必要があります。
しかし、実際には全員に請求されるのではなく、共有者のうちの1人に納付書が送られます。そして上述した支払い方法同様、代表者がまずは全額払い、その後共有持分に応じて他の共有者に求償する流れになります。
それではどのような人に代表して送付されるのでしょうか?
一例を下に記載します。
【固定資産税の納付書が送られるパターン】
・共有持分が一番多い人
・登記簿に記載している順番が早い人
・不動産がある場所に住んでいる人
実際に住んでいる人や持分割合が多い人は、そうではない人と比べて「未回収を防ぎやすい」と判断されるため、納付書が送られるパターンが多いと言えます。
しかし上述したように、固定資産税は「連帯債務」であるため、納付書が送られていない共有持分権者にも支払い義務はあります。誰も支払いをしなければ、差し押さえなどになる可能性もあるため注意が必要です。
・もし共有者が支払わなければどうなる?
AとBが共有している不動産の固定資産税などをAが代表して全額払ったあとBに持分に応じた金額を請求しても、Bから支払いがなかった場合はどうしたらいいのでしょうか?
ご紹介します。
–債務回収の手続きをする
Bに対して差し押さえや訴訟などができます。
–持分の買い取り請求ができる
Bに支払い請求をしてから1年が経過すれば、Aは共有持分買取権を行使し、Bの共有持分を買い取る請求をすることができます。買い取り金額は、Aの未払い分と相殺されます。
■共有持分権を手放す方法
「共有持分権を手放したい」と考えたとき、どのように対処したらいいのでしょうか?
その方法をご紹介します。
–持分放棄をする
共有不動産を持ち続けることでデメリットが生じる場合、持分放棄することが認められています。持分放棄をすると、自動的にその権利が他の共有者に移行します。
民法第255条において「共有者の一人が、その持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属する」と、定められている通りです。
例えば、AとBが共有している不動産をBが持分放棄した場合、自動的にAに共有持分が移ります。しかし、このときBはAからお金をもらうことができません。さらに登記費用もBが出すことになるなど、Bの負担は大きくなります。(登記費用は誰が負担すべきか法律で決まっているわけではありませんが、放棄した人が出す場合が多いです。)
さらに移転登記にはAの協力が必要になり、協力してもらえない場合は成立できないこともあります。
また、持分を取得する側は無償で財産を譲り受けたことになりますので、「みなし贈与」と判断され、贈与税が課税される可能性がある点には注意が必要です。必ず専門家を入れるようにしましょう。
–共有持分を売却する
自分の共有持分を売却することで、共有持分権を手放すことができます。
上述したように不動産を売却するためには共有者全員の合意が必要となるのですが、自分の共有持分のみの売却であれば、独自の判断で行うことができます。一般の人に売ることは難しいですが、専門の不動産業者などが買い取ってくれる場合があります。
■共有持分権が相続された場合
自らの意思とは反して、共有持分権を持つケースがあります。
それが「相続」です。共有持分権も財産権のため相続の対象となるのです。
「相続」と聞くと資産が増えるイメージを持つかもしれませんが、共有不動産を相続してしまうと何かとトラブルや悩みを抱えやすいため、できる限り回避したいところです。共有持分権が相続されるケースをご紹介します。
・もとが共有状態の不動産を相続した場合
被相続人(親など)が共有持分権者であり、死亡された場合、自分がその権利を相続することになります。
被相続人とAが共有していた不動産を相続すると、自分とAとの共有状態になります。さらにAの死亡によりAの相続人であるBに相続され、まったく知らないBとの共有状態になることも考えられます。
連絡が取れない他人との共有状態は、お金の回収ができなかったり不動産を動かしたい(売却や解体など)場合に相談ができなかったりするなど、トラブルの元となってしまいます。
・相続人が複数いて共有状態となった場合
もとは単有の不動産であっても、相続人が複数いる場合、共有状態となることがあります。
「誰が相続するか絞ることができないから、とりあえず法定相続人(相続する権利がある人)全員で登記しておこう」としてしまうと共有状態となってしまいます。一度共有名義で登記をしてしまうと、費用や手間などの面でトラブルになったり、その後単有にする際に費用がかかってしまったりするなど、あらゆる問題を抱えてしまうことがあります。
誰に相続するか協議をしている間は、法定相続人全員の共有状態となりますが(潜在的共有状態)その後1人の名義で登記をすれば共有状態が解消され、相続当初から単有だったものとみなされます。
■お困りの場合はプロに相談しよう
共有持分権者はあらゆる費用がかかるだけではなく、それを他の共有者に請求する手間なども生じます。また、共有者が支払いに応じない場合は法的な対処をしなくてはいけないでしょう。
このようなことから負担が大きいと感じ、共有持分権を手放したいと考える人は少なくありません。
共有持分権を手放したい場合や、共有不動産のことで困ったことがあった場合、自分自身で対処しようとすると、さらなるトラブルを招く場合があります。
早期解決のためにもプロに頼ることをおすすめします。
