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相続には多くの法的な側面が絡むため、理解や対応が難しいことも少なくありません。なかでも「特別受益」という概念は、多くの人々にとって馴染みのないものなのではないでしょうか。
特別受益とは、被相続人の死亡前に一部の相続人に対して行われた贈与などのことを指し、これが「相続にどのような影響を及ぼすのか」「それをどのように扱うのか」は非常に重要です。
この記事では、特別受益の基本的な知識に加え、その実際の取り扱い方法までを詳しく解説しますので、ぜひお役立てください。
目次
特別受益とは
特別受益は、被相続人から生前贈与、遺贈、死因贈与を受ける利益のことを指し、特定の相続人だけが享受する場合があります。複数の相続人が存在するケースでしばしば特別受益が問題となります。
一部の相続人が生前の贈り物を受け取り、他を省みないで遺産分割を進めると、公平感に欠けると感じる人もいるかもしれません。
その贈与を特別受益として適切に計算することで、全員が納得する形で遺産を分配することが可能になります。要するに、特別受益は公平な遺産分割を支える枠組みといえます。
遺留分と特別受益の関係性
遺留分は、相続人が必ず受け取るべき最低限の相続財産として民法によって保証されています。兄弟姉妹を除く相続人が主張できる権利となります。
例として、「被相続人が次男に全財産を贈与した」といった場面では、特別受益として認識されるばかりか、他の相続人の遺留分を損なう可能性もあります。その結果、相続人は特別受益を受けた者へ遺留分の補填を求めることが可能。
遺留分の計算で考慮される特別受益は、相続開始前10年間に行われたものだけとされます。以前はこの期間制限は設けられていなかったのですが、2019年7月1日からの民法改正により新たに設定されました。
持ち戻しを考慮する場面には以下のようなケースも考えられます。
- 相続開始前1年間で相続人以外への贈与
- 贈与者や受贈者が遺留分を意識して行った贈与
- 適切でない金額での有償行為を知って行った場合
特別受益の対象となるケース
特別受益の対象となるケースとしては、次のようなものが考えられます。
- 生前贈与
- 遺贈
- 死因贈与
以下より、それぞれについて解説します。
生前贈与
生前贈与全てが特別受益として考えられるわけではありません。「結婚や養子縁組、生活の基盤となる贈与」が該当する場合があります。
2023年現在は、この表現は、一昔前よりも柔軟に捉えられるようになっています。核心となるのは「遺産として前倒しで贈られたものか」です。
以前は、持参金や結納金、結婚式の費用などが特別受益とみなされていましたが、これは家父長制を色濃く反映した時代の名残。現代では、これらの支出は社交的な義務や扶養の一環と捉えられます。
生活基盤のための贈与には、独立した成人の子への生活費、家の建設費、事業開始資金や有価証券、不動産などが挙げられます。土地や建物の無償使用も該当しますが、これらの判断は一概にはいえません。
「遺産としての前渡し」かどうかを、時代背景や被相続人の財政、他の相続人との比較を基に考慮して判断する必要があります。
死因贈与
死因贈与とは、贈与者が生前に「私が亡くなった後、〇〇をあなたに贈る」と特定の人と合意したケースを指します。この取り決めの双方が同意すれば、死因贈与が成立します。その受贈者が相続人である場合、特別受益として考えられます。
被相続人の生前の受け取りが「特別受益」に当たるのかの判断は、ケースバイケースであるのが実情。
ときとして、遺産の分配についての調停を申し立てる必要があるかもしれません。何か問題が生じた場合、弁護士への相談を検討することをおすすめします。
遺贈
遺贈とは、遺言によって「〇〇を△△に与える」と表明した贈与のことを指します。もし贈与の対象が相続人であれば、それは特別受益として扱われます。
特別受益の対象とならないケース
反対に、特別受益の対象とならないケースにはどのようなものがあるのでしょうか。具体的には、以下のとおりです。
- おしどり贈与
- 生命保険
- 死亡退職金
ここからは、個別にみていきましょう。
おしどり贈与
通常、配偶者への贈与は、過大であると特別受益として認定される可能性が考えられます。しかし、「おしどり贈与」という特例があります。
これは贈与税の非課税制度であり、20年以上の長きにわたって連れ添った配偶者に対して、居住用の不動産やその購入資金を贈与すると、110万円の基本控除を超える2000万円までが非課税となる制度です。
2019年7月1日以降の法改正で、この贈与は特別受益として計算する必要がなくなりました。
ただし、他の相続人の権利を損ねる場合は除く点には留意しましょう。
生命保険
生命保険、具体的には死亡保険金は、特定の受取人の財産として認識され、通常は特別受益には含まれません。しかし、相続財産が生命保険だけの場合や、相続財産の大部分を占める場合は、特別受益として考慮することが検討される場合があります。
死亡退職金
死亡退職金も、生命保険同様、特別受益の対象とはならないのが一般的です。
しかし、この退職金には「賃金の後払い」と「遺族の生活保障」の2つの性質があり、どちらが優先されるかによって取り扱いが変わることがあります。特定の相続人のみが大きな額を受け取る場合、特別受益としての認識が検討される可能性も。
相続関連の事項は複雑であり、各事例に応じて判断が異なる場合があります。不明点や疑問がある場合は、専門家のアドバイスを求めましょう。
特別受益の持ち戻しとは?
「特別受益として受け取ったものを返す必要があるのか?」と疑問に思う方も少なくないでしょう。しかし、実際に返すという手続きを行うわけではありません。
特別受益として受け取った額は、相続が始まる際の遺産と合わせて算定され、その合計額を基に相続分を計算します。このプロセスを「特別受益の持ち戻し」といいます。
持ち戻しの際の評価は、相続が始まる時点の市場価格を基にします。また、特別受益として受け取ったものに関する期間の制限は特に設けられていません。
特別受益の持ち戻し免除の意思表示について
さて、被相続人が意図的に示すことで、特別受益が存在してもそれを考慮せずに遺産の分割を行うことも可能です。これは「特別受益の持ち戻し免除の意向表示」と呼ばれます。
意向表示の方法には特定の決まりがあるわけではなく、遺言書にその旨を記述するのが一般的。この表示がある場合、特別受益を計算に入れずに遺産の分割が進行します。
しかし、持ち戻し免除にも制約が存在します。もし特別受益が他の相続人の法定相続分に影響を及ぼす場合、持ち戻し免除の意向表示があっても、相続分の補填を求める請求が行われることが考えられるため留意しましょう。
特別受益があった場合の遺留分の計算例
特別受益が絡むケースでの相続分の算出方法は以下のとおり。
【特別受益を受け取っていない相続人の相続額】
- (相続総額 + 特別受益額) × 法定相続比率
【特別受益を受け取った相続人の相続額】
- (相続総額 + 特別受益額) × 法定相続比率 – 贈与や遺贈の額
例えば、相続全体の額が1,000万円で、相続人が配偶者と、子供のAとBの3人だったと仮定します。Aには故人から100万円が贈与されており、Bは遺言により200万円を受け取ることとなっていれば、それぞれの相続額は以下のように算出されます。
- 配偶者 = (1,000万円 + 100万円) × 1/2 = 550万円
- 子A = (1,000万円 + 100万円) × 1/4 – 100万円 = 175万円
- 子B = (1,000万円 + 100万円) × 1/4 – 200万円 = 75万円
上述の方法は、特別受益が遺留分を侵していない場合の基本的な算出方法。もし遺留分が侵害されている場合、計算手段はさらに細かくなる可能性があります。
まとめ
相続は、単に家族の財産を継承するだけではなく、法的な側面や家族間の平等を確保するための手続きが数多く関わってきます。
「特別受益」は、そのなかでも特に注意を要する要素の一つといえるでしょう。生前贈与や遺贈などが特別受益に該当する場合にはその取り扱いや計算方法について正確に理解し、適切に対応する必要があります。
ただし、一般の方がこういった複雑な手続きや計算を自力で行うのは難しいもの。特に疑問や不安がある際には、専門的な知識を持つ専門家に相談することをおすすめします。
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