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社会の高齢化に伴い、認知能力を失った方の資産をどのように管理するかが深刻な問題となっています。
高齢者の財産管理を支援するために「成年後見制度」という制度があり、家族や法律家、ソーシャルワーカーなどが後見人に選任されています。しかし、この制度は、裁判所の監督のもと、成年後見人がやろうとすることにさまざまな制限があり、使いやすいものではありません。
2006年に成年後見制度の不備を補うために信託法が改正され、より使いやすい制度として「家族信託」が導入されました。今回は、家族信託の概要について解説しますので、ぜひ参考にしてください。
家族信託とは
家族信託は、健康で意識のはっきりしている時期に、信頼できる家族を受託者に指名し、彼らに財産の管理や処分を任せるシステムです。
この制度を利用することで、委託者(財産の所有者)は、自らの財産を管理し、その成果や収益を享受する受益者を指定できます。
一般的に信託と聞くと金融機関の管理を想像するかもしれません。家族信託はより個人的な財産管理に焦点を当てており、銀行による資産管理とは異なり、委託者の意向により密接に対応します。家族信託の対象となる家族には特に限定がなく、遠縁の親族や内縁の配偶者も含まれます。
家族信託の仕組み
家族信託の基本的な構成要素は次のとおりです。
- 委託者:自分の財産の全部または一部を管理・処分してもらう人。
- 受託者:委託された財産を管理・処分する人。
- 受益者:信託財産から得られる利益や処分の対価を受け取る人。
この内、委託者と受益者が同一人物であることもあり、信託の形態は非常に柔軟です。他の法的な制度と比較しても、家族信託は取り扱いやすく、多様なニーズに応じられる特性があります。
家族信託が必要な理由
族信託が注目されている背景には、高齢化と認知症の増加が挙げられます。
厚生労働省の「令和2年介護保険事業状況報告」によると、75歳以上の高齢者における要介護認定者の割合は約90%に上り、年齢が上がるにつれ認知症のリスクも高まるのです。
認知症が進行すると、銀行口座の利用が困難になり、家族も親の財産を管理できなくなります。これにより、介護を行う家族が経済的な負担を背負うケースもあります。
したがって、70歳前後までに認知症への備えとして家族信託を検討することが重要。これにより、高齢になる家族が直面する様々な問題に柔軟に対処することができ、子どもたちに無理な負担をかけないための1つの解決策となります。
家族信託はどのような場合に利用できるのか?
では、どのような場合に家族信託を利用して、信頼できる家族を指定し、財産の管理や処分をしてもらうことができるのでしょうか。一例としては、次の用途が検討されます。
- 認知症対策
- 二次相続への対策
- 共有名義人への対策
以下より、個別に解説します。
認知症対策
人間の寿命が延びている現代において、認知症対策は重要な課題となっています。身体的には長生きできるものの、判断力や家計管理能力が低下することがあります。
認知症のリスクは高齢者にとって珍しくなく、このような状況で信頼できる家族に財産管理を任せられる家族信託は、大きな安心感をもたらすでしょう。
二次相続への対策
遺言書は一次相続における財産の行き先を指定できますが、二次相続に関してはそうではありません。
しかし、家族信託では、自分の後の受益者(例えば配偶者)と、その次の受益者(例えば子供)を指定することが可能。これにより、代襲遺贈型継続信託として、一次相続だけでなく、その後の相続も計画的に管理できます。
共有名義人への対策
相続により不動産が共有名義になる場合、様々な問題が生じる可能性があります。例えば、売却には全共有者の同意が必要であり、「運用上の意見対立」「収益分配の不平等」などが起こり得ます。
家族信託では、これらの問題を回避するために共有者以外の家族を受託者に指名し、管理を委ねられます。これにより、共有者全員が受益者となり、投資利益を公平に享受することが可能。
これらの事例は、家族信託がいかに多様な状況に対応できるかを示しています。認知症、二次相続、共有名義問題など、家族が直面する様々な問題に対して、家族信託は有効な解決策を提供できます。
成年後見制度との違い
老後の財産管理には、家族信託と成年後見制度という二つの異なるオプションが存在します。これらは似ているように思えますが、実際にはいくつかの重要な違いがあります。
成年後見制度
成年後見制度では、弁護士などの他者が介入することで「本人の財産の不当な侵害を防ぐ」ことを主な目的としていますが、現状では様々な問題点が指摘されています。
- 本人の判断力が低下してから適用される制度なので、必ずしも本人の意思が反映されていないこと。
- 成年後見人が選任されると、意図した行為(遺産分割など)が完了しても、原則として判断能力が低下した人(被後見人)が死亡するまで成年後見を終了することができない。
- 成年後見制度は被後見人の財産を保護することを目的としているため、成年後見人は自分の判断で被後見人の財産を自由に管理することはできず、少額の財産を除いて家庭裁判所の監督を受けることになる。特に、居住用の不動産を売買するには許可が必要。
- 成年後見人は、家庭裁判所に報告書を提出する義務があり、事務処理に追われる
- 弁護士などの専門家が後見人を選任した場合は、被後見人の財産に応じた報酬を継続して支払う必要がある。
このような理由から、必要性があっても利用したくないと考える人が多いのです。
家族信託のメリット
家族信託のメリットには、次のものが存在します。
- 委任者の判断能力に左右されない
- 委託者の希望に沿った承継ができる
- 不動産共有をしなくても済む
- 成年後見制度より柔軟な取り決めができる
それぞれ、詳しくみていきましょう。
委任者の判断能力に左右されない
家族信託では、子供が親名義の財産を管理することが可能です。現在の本人確認の厳格化により、通常は判断能力を失った人が銀行からお金を引き出すことや不動産を売ることは難しいのです。
しかし、家族信託を利用すれば、受託者(財産の管理者)が高齢者であっても、体調不良や認知症による判断力の低下状態でも財産の管理や処分を行えます。
このように、成年後見制度と家族信託は目的は似ていますが、適用範囲、手続き、柔軟性の面で大きく異なります。成年後見制度は裁判所による厳格な監督のもとで行われるのに対し、家族信託はより柔軟で個人の意向に沿った財産管理を可能にします。
この違いを理解することで、どちらの制度が自分のニーズに合っているかを選択する助けになります。
委託者の希望に沿った承継ができる
家族信託では、委託者は信頼できる受託者を選び、自分の意志に沿った範囲で財産を託すことができます。これは、成年後見制度の場合、本人が判断能力を失った後の後見人の選任が裁判所に委ねられることとは大きく異なります。
家族信託では、委託者は自分の死後の財産管理方法まで指定することが可能で、より個人の意志が反映される形で財産の管理・承継が行えるでしょう。
不動産共有をしなくても済む
特に収益不動産の共有の場合、家族信託は有効な手段となります。例えば、兄弟で不動産を共有している場合、認知症などで契約能力が失われると全体が凍結するリスクがあります。
しかし、家族信託を利用して他の兄弟の持ち分を一人に信託することで、契約能力喪失の影響を受けずに経営を継続し、得られた家賃収入を全員で享受できます。
成年後見制度より柔軟な取り決めができる
家族信託では、成年後見制度に比べて財産管理がより柔軟に行えます。
成年後見制度では本人の財産を減らさないことが重視されますが、家族信託では、委託者が指定した方向性に沿って子どもなど受託者がより大きな裁量で財産の管理や運用を行えます。これにより、攻めの経営や将来に向けた投資などが可能。
ただし、家族信託では受託者が大きな権限を持つため、受託者への信頼が不足している場合には不適切な選択になる可能性があります。これらの点を踏まえ、家族信託を利用する際には、委託者の希望や家族の信頼関係を十分に考慮することが重要です。
倒産隔離機能を利用できる
家族信託では、「倒産隔離機能」が重要な役割を果たします。受託者が破産しても、信託された財産は受託者のものではなく委託者の所有物であるため、受託者の債権者による差し押さえの対象外となります。
しかし、受益者が強制執行を受けると、「信託受益権」が差し押さえの対象となるため、信託財産にも影響が及ぶ可能性があります。これは、信託財産を守るための一定の制限があることを意味しますので、十分に留意しましょう。
家族信託のデメリット
では、家族信託のデメリットはどのようなものがあるのでしょうか。具体手には、以下のリスクが考えられます。
- 人間関係のトラブル
- 身上監護には成年後見制度が必須
- 遺留分侵害額請求を受けかねない
- 節税はできない
- 税務申告が必要
- 損益通算ができない
それぞれ、詳しく解説します。
人間関係のトラブル
家族信託では、受託者の選定が重要です。信頼できる親族が受託者であれば理想的ですが、信頼関係が薄い親族に信託を任せると、適切な運用が行われるかどうかに関するトラブルが生じる可能性があります。
そのため、場合によっては専門の成年後見人を選任することが望ましい場合もあります。また、家族信託の受託者は財産管理にのみ責任を負い、日常生活の世話などには責任を持ちません。
身上監護には成年後見制度が必須
家族信託は財産管理に特化しており、身上監護の権限は含まれていないのが実情です。例えば、認知症の親が施設に入居する場合、受託者は入居契約を代理で行うことはできません。
財産からの支払いは可能ですが、契約自体の権限はないのです。そのため、身上監護を含む全面的な管理を望む場合は、任意後見契約の締結を検討することが推奨されます。
任意後見契約では、事前に後見人を指定しておくことができ、より広範な管理が可能です。
遺留分侵害額請求を受けかねない
家族信託を通じて後継者に財産権(受益権)を承継する際、遺留分を有する相続人が存在する場合、その相続人から遺留分侵害額の請求が行われる可能性があります。
遺留分侵害額請求は家族間の関係を損なうケースもあるため、遺留分が発生しないような信託設計や家族間での事前の話し合いを通じて、これらの問題を未然に防ぐことが重要です。
節税はできない
家族信託は、その性質上、相続税の節税対策としては機能しません。財産権(受益権)は委託者の元に残るため、財産の評価を下げることはできず、相続が発生した際には相続税と同様の税額の納付が必要。
これは、家族信託が財産の名義変更を伴うものの、根本的な財産権の移転は伴わないためです。
税務申告が必要
家族信託を行った場合、受託者は毎年「信託明細書」と「信託計算合計表」の提出が必要となります。
これは通常の確定申告に比べて追加の手間を要することを意味し、信託契約の管理には税務に関する注意が求められます。
損益通算ができない
家族信託においては、一般的な所得と異なり、「信託財産」から生じる損失を他の所得から差し引くことはできません。
これは、信託財産の利益と損失が通常の所得とは別個に扱われるためで、財産の運用においてはこの点を考慮する必要があります。
まとめ
家族信託とは、信頼できる家族を受託者として、自分の財産を管理してもらう方法です。
家族信託は、成年後見制度とは異なり、判断能力があるうちに、自分の財産を誰がどのように管理するかを決めることができるなどのメリットがあります。
所有者が認知症になってしまってからでは、対策を講じることができなくなります。早く準備すればするほど、対策の幅が広がりますので、わからないことがあれば、専門家に相談しましょう。
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