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特別受益とは?該当するケースや財産について詳しく紹介

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相続人の一部が被相続人から多額の生前贈与を受けているケースでは、他の相続人との間で不公平感が生まれ、相続トラブルに発展する可能性があります。

このような問題を解決するのが特別受益制度です。特別受益とは、相続人が被相続人から受けた生前贈与や遺贈のうち、相続財産の前渡しと見なされるものを指します。

この制度により、公平な遺産分割が可能になります。しかし、何が特別受益に該当するかの判断は難しく、計算方法も複雑です。

そこで本記事では、特別受益の定義から具体例、計算方法、さらにはトラブル回避策まで、詳しく解説します。

特別受益とは

特別受益とは、相続人の一部が被相続人から生前贈与や遺贈によって受け取った財産を指します。この概念は、相続における公平性を確保するために民法で定められた重要な制度です。

具体的には、結婚資金や事業資金の援助、不動産の贈与などが特別受益に該当することがあります。

例えば、3人兄弟の長男が親から事業承継のために会社株式を生前贈与されたケースを考えてみましょう。

この場合、長男以外の相続人からすれば、長男だけが多額の財産を先に受け取っていることになります。特別受益の制度がなければ、残された相続財産を3等分することになり、結果として長男が著しく有利な立場になってしまいます。

特別受益の制度は、このような不公平を是正するために存在します。

特別受益に該当する財産は、相続時に一度相続財産に持ち戻して計算され、その上で各相続人の取り分が決められます。これにより、実質的な公平性が保たれるのです。

特別受益制度の目的

特別受益制度の主な目的は、相続人間の実質的な公平を図ることです。この制度がなければ、被相続人の生前の贈与や遺贈によって、相続人間に著しい不公平が生じる可能性があります。

特別受益制度は、そうした不公平を防ぎ、全ての相続人が公平に相続できるようにするための仕組みなのです。

具体的には、以下のような目的があります。

  • 相続の公平性の確保:特定の相続人だけが利益を得ることを防ぎ、全ての相続人が公平に相続できるようにする。
  • 遺産分割の円滑化:特別受益を考慮することで、相続人間の不公平感を軽減し、円滑な遺産分割を促進する。
  • 相続争いの予防:生前贈与や遺贈による不公平を是正することで、相続時のトラブルや争いを未然に防ぐ効果がある。
  • 被相続人の意思の尊重:被相続人が生前に行った財産移転の意図を尊重しつつ、他の相続人の利益も保護する。

このように、特別受益制度は相続における公平性と円滑性を両立させる重要な役割を果たしています。

ただし、何が特別受益に該当するかの判断は個々の事情によって異なるため、専門家のアドバイスを受けることが賢明です。

特別受益に該当する生前贈与の具体例

特別受益に該当する生前贈与には、さまざまな形態があります。ここでは、以下の代表例を詳しくみていきましょう。

  • 結婚・養子縁組のための贈与
  • 生計の資本としての贈与
  • 不動産の贈与
  • 事業用資産の贈与

それぞれ個別に解説します。

結婚・養子縁組のための贈与

結婚や養子縁組に際して行われる贈与は、特別受益の典型例です。具体的には、結婚時の支度金や持参金が該当します。これらは、新生活のスタートを支援する目的で行われることが多く、実質的に相続財産の前渡しと考えられるためです。

ただし、一般的な結納金や挙式費用は、通常、特別受益とは見なされません。社会通念上妥当な範囲内であれば、親の扶養義務の一環と捉えられるためです。

そのため、贈与の金額や目的、家庭の経済状況などを総合的に判断しましょう。例えば、高額な結婚資金の贈与や、新居購入のための多額の資金援助などは、特別受益に該当する可能性が高くなります。

生計の資本としての贈与

生計の資本としての贈与は、相続人の生活基盤を支えるために行われる贈与を指します。具体的には、独立時の開業資金や事業拡大のための資金援助などが該当します。また、高額な教育費、特に海外留学費用なども、この範疇に入ることがあります。

ただし、通常の大学教育費用は、近年の高等教育の一般化に伴い、特別受益とは見なされない傾向にあるのです。

判断の際は、家庭の経済状況や他の相続人との公平性などを考慮することが求められます。

例えば、私立医学部の学費や長期の海外留学費用など、一般的な教育費を大きく上回る場合は、特別受益に該当する可能性が高くなります。

不動産の贈与

不動産の贈与も、特別受益の代表的な例でしょう。親が子に自宅や投資用不動産を贈与するケースがこれに当たります。

不動産は高額な財産であることが多く、相続人間の公平性に大きな影響を与えるため、特別受益として扱われることが一般的です。

ただし、2019年の民法改正により、婚姻期間が20年以上の配偶者への居住用不動産の贈与は、原則として特別受益から除外されるようになりました。

これは、長年連れ添った配偶者の居住権を保護する目的があります。しかし、投資用不動産や別荘などは依然として特別受益の対象となる点に注意が必要です。

事業用資産の贈与

事業用資産の贈与とは、例えば家業を継ぐ子供に対する株式や農地の贈与が該当します。これらは事業承継の一環として行われることが多いのですが、他の相続人との公平性を保つため、特別受益として扱われます。

特に、オーナー企業の後継者への株式贈与は、高額になることが多く、特別受益の中でも重要な位置を占めます。

ただし、事業承継の円滑化のために、一定の要件を満たせば贈与税の納税が猶予される特例制度もあります。このような制度を利用する場合でも、相続時には特別受益として扱われる可能性があるため、専門家に相談しながら慎重に進めることが求められます。

特別受益に該当しない財産はどれ?

特別受益の概念を理解する上で、該当する財産だけでなく、該当しない財産についても知っておくことが大切です。一見すると特別受益に思われるものの、実際にはそうではないケースもあります。

ここでは、特別受益に該当しない以下の財産について解説します。

  • 生命保険金
  • 死亡退職金
  • 通常の扶養の範囲内の贈与

それぞれ個別にみていきましょう。

生命保険金

生命保険金は、一般的に特別受益には該当しません。これは、生命保険金が被相続人の財産ではなく、保険契約に基づいて保険会社から支払われる受取人固有の権利だと考えられているためです。

ただし、例外的に「保険金の額が極めて高額で、他の相続人との間に著しい不公平が生じる」場合には、特別受益として扱われる可能性があります。このような判断は、個々の事例に応じて総合的に行われます。

死亡退職金

死亡退職金も、通常は特別受益には該当しません。これは、被相続人の死亡を契機に支払われるものではありますが、被相続人の財産ではなく、雇用主から遺族に直接支払われる給付金だからです。

死亡退職金は、生前の労働の対価として支払われるものであり、相続財産とは別個の権利として扱われます。

一方で、生命保険金と同様に「その金額が極めて高額で、他の相続人との不公平が著しい」場合には、例外的に特別受益とみなされる可能性があります

通常の扶養の範囲内の贈与

親が子に対して行う通常の扶養の範囲内の贈与は、特別受益には該当しません。例えば、未成年の子どもに対する生活費や教育費、成人した子どもに対する一般的な生活援助などが、これに当たります。

ここで重要なのは、「通常の範囲内」という判断基準です。この基準は、家庭の経済状況や社会通念によって変わってきます。

例えば、一般的な大学の学費は通常の扶養の範囲内と考えられますが、高額な私立医学部の学費や長期の海外留学費用などは、特別受益に該当する可能性があります。判断に迷う場合は、専門家に相談することをお勧めします。

特別受益の持ち戻し計算の方法

特別受益の持ち戻しとは、生前贈与や遺贈などの特別受益を相続財産に加算し、公平な遺産分割を行うための計算方法です。

この過程により、すべての相続人の実質的な相続分が明確になります。持ち戻し計算は複雑に見えますが、以下の手順に従えば理解しやすくなります。

  • 手順①:みなし相続財産を算定する
  • 手順②:具体的相続分を計算する
  • 手順③:遺留分を侵害するケースを計算する

次項より、個別に解説します。

手順①:みなし相続財産を算定する

まず、相続開始時の相続財産に特別受益の価額を加えて、みなし相続財産を算定します。

例えば、相続財産が1億円で、ある相続人が2,000万円の特別受益を受けていた場合、みなし相続財産は1億2,000万円となります。

ここで注意すべきは、特別受益の評価額は相続開始時の価額で行うことです。贈与時から価値が大きく変動している場合は、その点を考慮する必要があります。

手順②:具体的相続分を計算する

次に、みなし相続財産を基に各相続人の具体的相続分を計算します。法定相続分に従って計算し、特別受益を受けた相続人はその金額を差し引きます。

例えば、相続人が3人で均等に相続する場合、みなし相続財産1億2,000万円の3分の1である4,000万円が各人の相続分となります。2,000万円の特別受益があった相続人の具体的相続分は、4,000万円-2,000万円=2,000万円となります。

手順③:遺留分を侵害するケースを計算する

最後に、特別受益が遺留分を侵害していないか確認します。遺留分は法定相続分の一定割合(直系尊属のみの場合は3分の1、その他の場合は2分の1)で計算されます。

例えば、相続財産1億円で長男が8,000万円の特別受益を受けていた場合、長女の遺留分は2,500万円(1億8,000万円の4分の1)ですが、実際の相続財産からは確保できません。

この場合、長女は長男に対して不足分の遺留分侵害額請求を行うことができます。このように、特別受益が遺留分を侵害する場合は、追加の調整が必要となります。

特別受益と遺留分の関係

特別受益と遺留分は、いずれも相続の公平性を保つための制度ですが、その性質と目的に違いがあります。

特別受益は相続人間の実質的な公平を図るものであり、遺留分は最低限の相続分を保障するものです。

特別受益の持ち戻し計算は遺産分割の際に行われますが、遺留分は被相続人の意思に関わらず法律で保障されています。

また、2019年の民法改正により、遺留分の算定における特別受益の持ち戻し期間が相続開始前10年に限定されましたが、遺産分割における特別受益の持ち戻しには期間制限がありません

このように、両者は密接に関連しながらも、異なる役割を果たしているのです。相続に際しては、特別受益と遺留分の両方を考慮に入れ、公平かつ法的に適切な遺産分割を目指すことが重要です。

特別受益をめぐるトラブル回避策

特別受益は相続における公平性を保つ重要な制度ですが、同時に相続人間のトラブルの原因にもなりかねません。こうしたトラブルを未然に防ぐためには、被相続人や相続人が適切な対策を講じることが大切です。

具体的には、以下の対応方法が挙げられます。

  • 家族への事前説明と同意を取り付ける
  • 遺言書による持ち戻し免除の意思表示を行う
  • 生命保険を活用する

それぞれ個別に解説します。

家族への事前説明と同意を取り付ける

特別受益に関するトラブルを防ぐ最も基本的な方法は、家族間のコミュニケーションです。被相続人が生前に、特定の相続人に多額の贈与をする理由や背景を各関係者に説明し、理解を求めることが重要です。

例えば、事業を継ぐ子供に会社の株式を贈与する場合、その必要性や他の子供たちへの配慮について話し合いの場を持つのが望ましいでしょう。

こうした事前の説明と同意の取り付けにより、相続時のトラブルリスクを大幅に軽減できます。また、説明の際には専門家を交えることで、より客観的で公平な議論が可能になります。

遺言書による持ち戻し免除の意思表示を行う

被相続人が特定の贈与を特別受益として扱わないよう望む場合、遺言書に持ち戻し免除の意思表示を記載することができます

これにより、当該贈与は相続財産に加算されず、受贈者の相続分から控除されることもありません。ただし、この方法には注意点があります。

持ち戻し免除の意思表示があっても、他の相続人の遺留分を侵害する場合は、遺留分侵害額請求の対象となる可能性があるのです。

そのため、遺言書作成の際は、すべての相続人の利益を考慮し、バランスの取れた内容にすることが大切です。専門家のアドバイスを受けながら、慎重に検討することをお勧めします。

生命保険を活用する

生命保険は、特別受益をめぐるトラブルを回避する有効な手段の1つです。生命保険金は原則として特別受益に該当しないため、被相続人は生前贈与や遺贈とは別枠で、特定の相続人に財産を引き継ぐことができます

例えば、事業承継のために多額の株式を長男に贈与する一方で、他の子供たちを生命保険金の受取人に指定するといった方法が考えられます。

こうすることで、相続人間の不公平感を軽減し、円満な相続の実現につながる可能性が高まります。

ただし、生命保険金の額が極端に高額な場合は、例外的に特別受益と見なされる可能性もあるため、適切な金額設定が重要です。

特別受益の判断基準

特別受益の判断は、単純に金額や時期だけで決まるわけではありません。家庭の経済状況や社会通念、他の相続人との公平性など、さまざまな要素を総合的に考慮して判断されます。

ここでは、特に疑問の多い金額と時期について詳しく見ていきましょう。

金額の大きさは関係ある?

特別受益の判断において、金額の大きさは重要な要素の1つですが、絶対的な基準があるわけではありません。

例えば、1,000万円の贈与が一方の家庭では特別受益と判断され、別の家庭では通常の扶養の範囲内と判断されることもあります。

判断の際には、以下のような点が考慮されます。

  • 被相続人の資産規模:全財産に対する贈与額の割合
  • 家庭の経済状況:一般的な生活水準との比較
  • 他の相続人への贈与状況:公平性の観点
  • 贈与の目的:生活費なのか、資産形成のためなのか

したがって、「いくら以上なら特別受益」という明確な線引きはありません。ただし、一般的には被相続人の資産規模に比して著しく高額な贈与は、特別受益と判断される可能性が高くなります。

贈与の時期はいつまで遡る?

特別受益の対象となる贈与の時期については、原則として期限はありません。相続人が成人する前に受けた贈与であっても、特別受益に該当する可能性があります。

ただし、2019年の民法改正により、遺留分の計算においては相続開始前10年間に限定されることになりました。これは遺留分の計算に関する規定であり、遺産分割における特別受益の判断には直接適用されません。

実務上は、あまりに古い贈与については証拠の提示が難しく、また社会通念上も特別受益と認められにくい傾向にあります。しかし、例えば20年以上前に受けた高額の不動産贈与などは、依然として特別受益として考慮される可能性が高いでしょう。

特別受益の立証方法

特別受益の存在を主張する際、その立証責任は主張者側にあります。長年の家族関係の中で行われた贈与の立証は容易ではありませんが、適切な方法を用いることで効果的な立証が可能となります。

必要な証拠書類の集め方

特別受益を立証するための証拠書類収集は、早い段階から計画的に行うことが重要です。まず、被相続人の金融機関の取引明細や通帳のコピーを入手しましょう。

これらは、特定の相続人への多額の送金や定期的な仕送りの痕跡を示す重要な証拠となります。

次に、不動産登記簿謄本や固定資産税の納税通知書を取得します。これらの書類は、不動産の贈与や購入資金の援助を裏付ける証拠となります。また、贈与税の申告書のコピーも有力な証拠となるため、可能であれば入手しておくと良いでしょう。

さらに、被相続人や関係する相続人の所得税確定申告書も重要です。これらの書類から、資産状況や収入の変動を読み取ることができます。特に、急激な資産増加や生活水準の向上が見られる場合、特別受益の存在を示唆する証拠となります

これらの書類を収集する際は、法的な手続きを遵守し、必要に応じて他の相続人の協力を得ることも検討しましょう。

立証が難しい場合の対処法

特別受益の立証に苦慮する場合、最も効果的な方法は「間接事実の積み重ね」「専門家の意見書の活用」です。

間接事実の積み重ねでは、先述の証拠書類を活用します。これらの書類は、直接的な贈与の証拠ではないものの、特別受益の存在を強く示唆する材料となります。

例えば、被相続人の預金口座から特定の相続人の口座へ多額の送金が行われていた記録や、相続人名義の不動産の取得時期と資金源などが重要な手がかりとなるでしょう。

一方、専門家の意見書の活用も有効な手段です。不動産鑑定士や公認会計士などの専門家による評価書や意見書は、特別受益の存在や金額の妥当性に対して客観的な裏付けを与えてくれます。

これらの方法を組み合わせることで、直接的な証拠がない場合でも、特別受益の存在を合理的に説明することが可能となります。

ただし、立証の過程では、家族関係に配慮しつつ、公平性を重視する姿勢が求められます。早い段階から証拠収集を始め、必要に応じて法律の専門家にも相談しながら、慎重に立証を進めていきましょう。

まとめ

特別受益は、相続における公平性を保つ重要な制度です。しかし、その判断や計算は複雑で、専門的な知識が必要となります。

特に、不動産や事業用資産の贈与、高額な教育費の負担など、金額が大きくなるケースでは慎重な対応が求められます。また、特別受益と遺留分の関係も考慮しなければなりません。

トラブルを未然に防ぐためには、家族間での事前の話し合いや、遺言書の活用が有効です。

しかし、これらの対策を適切に行うのは容易ではありません。相続の公平性を保ちつつ、円滑な財産移転を実現するためには、税理士や弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。

この記事の監修者

監修者プロフィール写真

佐藤 丈太郎 (税理士)

税理士の職域に留まらず、クライアントファーストで多岐に渡る業務に従事。
大規模な相続対策や節税コンサルティングを得意としている。

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