共有持分への抵当権設定とは、不動産を複数人で所有している場合に、特定の共有者が自分の持ち分だけを担保として差し出す行為を指します。資金を借りる際に自分の共有持分を担保に使いたい場合に行われやすい手続きです。
しかし、共有持分への抵当権設定を行う際には注意しなければいけない点もあります。共有持分への抵当権設定には他の共有者の同意が不要ですが、共有者との関係が悪化したり不動産の管理が難しくなったりするケースも少なくありません。
トラブルを避けるためにも、抵当権を設定する際のルールや流れ、他の共有者や不動産全体に与える影響について理解しておくことが大切です。本記事では、共有持分への抵当権設定について詳しく解説します。
目次
共有持分の抵当権設定に関する基礎知識
抵当権とは、借金などの債務を担保するために、不動産のような財産を金融機関に差し出す権利のことです。債務者が返済を怠った場合に、抵当権者は不動産を競売にかけて弁済を受けることが可能になります。
抵当権の他にも不動産に関する権利には「地上権」や「法定地上権」などが存在します。地上権とは、他人の土地に建物や施設を建てるための使用権のことです。
法定地上権は、土地と建物が別の所有者に属している場合に、一定の条件を満たすと建物の所有者が土地を使い続けられる権利です。
権利の名称 | 内容 |
抵当権 | 債務不履行時に不動産を競売にかけ、弁済を受けるための担保権 |
地上権 | 他人の土地に建物を建てるために土地を使用する権利 |
法定地上権 | 建物の所有者が、土地の所有者と異なる場合に一定の条件下で土地を使用し続けられる権利 |
共有持分の抵当権設定を検討しているなら、これら権利関係をしっかりと理解しておきましょう。共有持分への抵当権設定とは
融資を受ける際に共有持分に抵当権を設定して、担保して利用したいと考えている方もいるでしょう。共有持分に抵当権を設定する際は、リスクや法律上の取扱いについて正しく理解しておく必要があります。次項より、共有持分への抵当権設定について詳しく解説します。
共有持分に抵当権設定はできる
共有名義の不動産を複数人で所有している場合でも、それぞれの所有者が持つ共有持分については個別に抵当権を設定可能です。例えば、自身の持分を担保に金融機関から融資を受けたいというケースにおいては、自分の持分の範囲内で抵当権を設定できます。
しかし、共有者全員の合意がなくても設定できるものの、対象はあくまで自分の持分に限られます。他の共有者が保有している共有持分に抵当権の設定はできません。
また、共有持分のみに抵当権が設定されている状態の不動産は、担保としての価値が低いと判断されかねません。満足な融資を受けられなくなる可能性もあるため注意が必要です。
共有者間で将来的に不動産の売却や活用を行う場合に、抵当権が設定されたままだと手続きが複雑になり、他の共有者とのトラブルの原因になることもあります。共有持分への抵当権設定は法律上認められていますが、リスクもあるため慎重に判断しましょう。
抵当権設定の民法上の規定
民法では個人が所有する財産に対して抵当権を設定することを原則として認めています。共有不動産における抵当権の設定についても、民法第369条で定められている「抵当権の設定」に従い、所有者が自分の持分についてのみ設定できます。
しかし、共有持分に抵当権を設定しても、不動産全体には効力が及びません。仮に債務不履行によって担保が実行されたとしても、競売の対象になるのはあくまで設定された共有持分のみです。
共有者の誰かが共有持分に抵当権を設定し、それが競売にかけられると新たな共有者が生まれる可能性があります。結果として、他の共有者とのトラブルに発展しかねません。
そのため、共有持分に抵当権を設定する際は、トラブルの発生を防止するために共有者同士で話し合いをしておき、専門家に相談した上で手続きを進めるのが望ましいでしょう。
共有持分への抵当権設定のメリット
共有持分への抵当権設定のメリットは、迅速な資金調達がしやすくなる点にあります。他の共有者の同意を得ることなく、自身の持分を担保として資金調達が可能です。
また、共有不動産全体ではなく自身の持分のみを担保とするため、融資額が抑えられて過剰な債務負担を避けられるのもメリットといえるでしょう。他の共有者の経済状況に左右されることなく融資を受けられるのも特徴です。
共有不動産全体に抵当権を設定する場合と比較して、他の共有者への影響を最小限に抑えられるため、共有者間の関係性を維持しやすいというメリットもあります。
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共有持分への抵当権設定のデメリット
共有持分への抵当権設定には、いくつかのデメリットが存在します。代表的なデメリットとしては、多くの金融機関が共有持分のみを担保として認めないという点が挙げられます。共有持分は評価が難しく、権利関係が複雑になりやすいのが理由です。
仮に融資を受けられたとしても、条件が厳しくなる可能性が高くなります。また、抵当権が実行された場合、新たな共有者が加わることになり、他の共有者との関係が複雑化する恐れがあります。共有物の管理や不動産の売却に支障をきたす可能性があるのもデメリットといえるでしょう。
共有持分への抵当権設定の5つの注意点
共有持分を担保にして資金調達を行うケースは少なくありません。しかし、一般的な不動産に抵当権を設定する場合と比べて、留意すべき要素も多くあります。ここでは、共有持分への抵当権設定にあたって知っておくべき5つの注意点について解説します。
1. 金融機関によっては融資が受けられない
共有持分のみを担保にした融資は、金融機関によって取り扱いが異なります。一般的に、共有持分は流動性が低く、評価額の算定が難しいため、担保価値が低く見積もられます。
そのため、多くの銀行は共有持分単独での融資を敬遠する傾向があります。融資を検討する場合は、共有持分を担保にできる金融機関があるか事前に確認しておくことが重要です。
2. 他の共有者との関係が悪化する可能性がある
共有持分に抵当権を設定すると、将来的に金融機関が担保権を実行し、競売にかけられる可能性が考えられます。競売によって新たな第三者が共有者として加わると、不動産の管理や活用に影響を及ぼすことになり、既存の共有者との関係が悪化する原因になり得ます。
家族間や親族間で共有している不動産においては、特に慎重な判断が必要といえるでしょう。
3. 共有持分の一部のみに抵当権の設定はできない
共有持分に抵当権を設定する際は、自分が所有する持分の全体に対して設定する必要があります。例えば、2分の1の共有持分を持っている場合は、2分の1全体に抵当権を設定することはできます。しかし、4分の1だけに抵当権を設定することはできません。
また、抵当権を設定する際に他の共有者の同意は不要です。自分の持分については、自分の判断で抵当権の設定が可能です。しかし、実務上は他の共有者に影響を及ぼす可能性があるため、事前に説明して理解を得ることが望ましいでしょう。
4. 見知らぬ第三者が共有者になる可能性がある
抵当権が実行されると債権者が競売を申し立て、最終的に新たな買い手が共有者として加わる可能性があります。新たな共有者と不動産の共同所有に関する意向が異なると、共有者間でトラブルが発生するかもしれません。
不動産の利用や売却について意見が対立するケースでは、共有持分の管理がより複雑化するリスクがあるため注意が必要です。
5. 売却時に抵当権の解除が必要になる
共有持分を売却する際、抵当権が設定されている場合は、金融機関の承諾を得る必要があります。一般的に、買主は抵当権が付いた状態の共有持分を購入することを避けるため、売却前に抵当権を解除しなければならないケースがほとんどです。
抵当権の解除には、借入金の完済や債権者との交渉が必要となるため、売却を検討する際は事前に金融機関と調整しておくことが重要です。
共有持分に抵当権を設定するための4ステップ
共有持分への抵当権設定は、4つの手順で進めることになります。それぞれの手順について詳しく解説しますので、共有持分に抵当権を設定する際の参考情報としてお役立てください。
STEP1:金銭消費貸借契約の締結
金銭消費貸借契約の締結は、抵当権設定において必須の手続きです。金銭消費貸借契約には借入金額、返済期間、金利、返済方法などの条件が明記されます。
共有持分への抵当権設定の場合、契約書には担保として提供する共有持分の詳細(持分割合、不動産の所在地など)も記載しなければいけません。この段階で金融機関は融資の審査を行い、共有持分を担保として認めるかどうかを判断します。
借り手は契約内容を十分に理解し、返済計画を立てる必要があります。また、他の共有者への影響を考慮し、必要に応じて事前に説明することも重要です。
STEP2:抵当権設定契約の締結
金銭消費貸借契約の締結後に行うのは、抵当権設定契約の締結です。抵当権設定契約とは借り手(抵当権設定者)が自身の共有持分を担保として提供し、貸し手(抵当権者)がその担保に対して抵当権を設定することを合意するものです。
契約書には、担保となる共有持分の詳細、抵当権の内容(極度額など)、実行の条件などが明記されます。共有持分への抵当権設定の場合、契約書に他の共有者の権利を侵害しない旨の条項が含まれることもあります。
借り手が債務を履行できない場合は、抵当権設定契約に基づき貸し手は担保となっている共有持分を競売にかけて債権を回収することが可能です。借り手は契約内容を慎重に確認し、将来的なリスクを十分に理解した上で契約を締結する必要があります。
STEP3:登記申請
抵当権設定契約の締結後は登記申請を行います。登記申請は司法書士に依頼して行うのが一般的です。抵当権を法的に有効なものとし、第三者に対抗できるようにするために登記申請は必ず行う必要があります。
共有持分への抵当権設定の場合、登記簿上で該当する共有持分にのみ抵当権が設定されることを確認することが重要です。登記申請には、抵当権設定契約書、印鑑証明書、登記原因証明情報などの書類が必要になります。また、登録免許税の納付も必要です。
登記が完了すると、法務局から登記完了証が発行されます。正しく登記を行うことで抵当権の存在が公示され、将来的に不動産が売却された場合でも、抵当権者の権利が保護されます。登記申請の手続きは複雑なため、専門家のアドバイスを受けるのがおすすめです。
STEP4:必要書類の準備と提出
抵当権を設定するためには必要書類の準備が必要です。主な必要書類には以下のようなものがあります。
- 抵当権設定契約書(原本)
- 登記完了証(登記申請後に取得)
- 印鑑証明書(発行から3ヶ月以内のもの)
- 本人確認書類(運転免許証のコピーなど)
- 不動産の登記事項証明書
- 共有持分を証明する書類(必要な場合)
これらの書類を適切に準備し、期限内に提出することが重要です。特に共有持分への抵当権設定の場合、持分の証明や他の共有者との関係を示す書類が追加で必要になる可能性があります。
全ての書類が揃い、金融機関の確認が取れれば、抵当権設定は完了します。書類の不備や提出の遅れは融資実行の遅延につながる可能性があるため注意しましょう。
共有持分の抵当権設定にかかる費用
共有持分に抵当権を設定する際には、いくつかの費用が発生します。代表的なものとしては、「登録免許税」「司法書士への報酬」「その他の諸経費」の3つが挙げられます。
費用項目 | 概要 |
登録免許税 | 抵当権設定登記にかかる税金 |
司法書士報酬 | 抵当権設定登記の報酬として司法書士に払う費用 |
その他の諸経費 | 印紙税・印鑑証明書・登記事項証明書などの取得費用 |
登録免許税は登記の際に国へ納める税金で、抵当権を設定する金額(債権額)に対して課税されるのが特徴です。司法書士報酬は、登記手続きを依頼する際にかかる費用で、内容の複雑さや地域によって金額は異なります。
その他の諸経費としては、契約書に貼付する印紙代(印紙税)、印鑑証明書や登記事項証明書の取得手数料などが該当します。また、融資を受ける場合には金融機関から事務手数料や融資手数料が請求されることも多々あります。
具体的な金額は状況によって大きく異なります。そのため、訳あり物件の買取に特化した専門業者に相談し、不動産の専門家の力を借りた上で手続きを進めるのがおすすめです。
法定地上権が認められる要件
法定地上権とは、ある一定の条件を満たすことで、特別な合意や契約を交わさなくても、土地を使用する権利(地上権)が自動的に認められる制度です。建物と土地の所有者が競売によって分かれる場合に、不動産の利用価値を維持するために設けられています。
4つの要件をすべて満たすと、法定地上権が成立する可能性があります。それぞれ詳しく解説しますので、個別にチェックしていきましょう。
抵当権設定時に土地の上に建物がある
法定地上権が認められるためには、抵当権が設定された時点で、その土地上に建物が存在していることが必要です。空き地に対して設定された抵当権には、法定地上権は基本的に成立しません。
抵当権設定時に土地と建物所有者が同一である
法定地上権が成立するには、土地と建物の所有者が抵当権設定時点で同一人物であることが求められます。所有者が異なる場合は、事前の地上権設定など別の法的処理がなされていない限り、法定地上権は認められません。
土地と建物の双方に抵当権が設定されている
土地または建物だけに抵当権が設定されている場合には、法定地上権は認められません。土地と建物の両方に抵当権が設定されており、かつ一体として担保に供されていた場合に限り、建物の存続の必要性が認められます。
競売によって土地と建物の所有者が別々になった
競売によって土地と建物の所有権が分離される必要もあります。例えば、土地と建物の両方が担保に入り、競売でそれぞれ別の人に落札されたようなケースが該当します。
このような状況で建物の所有者が土地を利用できなくなると、生活や事業に大きな影響が出るかもしれません。そのため、法定地上権という仕組みによって土地の利用権が保護されています。
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当社(株式会社ネクスウィル)は、共有持分を含む訳あり不動産の買取に特化したサービス「ワケガイ」を運営しています。共有名義の不動産は、売却の際に他の共有者との調整が必要になることが多く、単独での売却が難しいケースも少なくありません。
他の共有者が売却に協力的でない場合や、物件の活用方針が一致しない場合は、売却の手続きが長引くこともあります。ワケガイでは共有持分の売却に関する課題に対応し、スムーズな取引をサポートしています。
共有持分の単独買取にも対応し、必要に応じて法的な手続きのサポートも可能です。また、最短1日での現金化が可能なため、迅速な売却を希望する方にもおすすめです。共有持分の売却でお悩みの方は、まずはお気軽に無料査定をご活用ください。
共有持分に抵当権を設定するのは法律上問題ない!
共有持分への抵当権設定を行う際は、他の共有者への影響をしっかりと考える必要があります。
法律上は問題のない行為ですが、トラブルの原因となるケースも少なくありません。共有持分は権利関係が複雑なケースも多いです。抵当権設定を行う際は、必ず弁護士や司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。