相続は多くの家庭で避けて通れない手続きですが、その中心にあるのが「遺留分」の問題です。遺留分は、法律によって保障された最低限相続すべき部分のことを指し、これが侵害された場合には、権利者が請求を行えます。
しかし、この請求権には時効が存在するため注意点が必要。この記事では、遺留分侵害額請求権の時効に関する要点と、その取り扱いについて詳しく解説します。
相続に関する権利を適切に守るために、本稿の内容をお役立てください。
目次
遺留分侵害額請求権とは?
被相続人の一定の相続人、例えば配偶者や子、両親などには、法律により一定の最低相続分が保障されています。これを「遺留分」と称します。もし、この遺留分が遺贈や生前贈与によって侵された場合、不足している部分に相当する金額の請求が許されます。この請求権を「遺留分侵害額請求権」といいます。
被相続人が遺留分を損なう形での遺贈や贈与を行った際、遺留分の権利者は、その財産を受け取った者から、自らの遺留分に該当する金額を求めることができます。
かつては「遺留分減殺請求権」との名称で呼ばれていましたが、相続法の近年の改正により、名称が変わりました。
遺留分減殺請求権との違い
「遺留分減殺請求権」のもとでは、受け取った財産を「現物として返す」ことが基本とされていました。
例えば、不動産の贈与により遺留分が侵された場合、その不動産を実際に返還することが求められ、その結果として該当の不動産は返還を求めた者と受け取った者の間で共有されるというのが通常の流れでした。
しかし、現行の「遺留分侵害額請求権」では、この「現物返還」から「金銭での請求」へと主要な方法が変わりました。この変更のおかげで、共有による不動産のトラブルを回避することが可能となっています。
遺留分侵害額請求権の時効はどのくらい?
遺留分侵害額請求権には、下記のように3つの時効・排斥期間が設けられています。
- 1年経つと時効が成立
- 10年経つと遺留分侵害を知らなくても請求権自体が消滅
- 遺留分侵害額請求権を行使したことで発生する金銭支払請求権は原則5年で時効
次項より、それぞれ個別にみていきましょう。
1年経つと時効が成立
遺留分権利者が相続の開始や遺留分侵害行為を知った日から1年以内に請求を行わなければ、その権利は時効により消滅します。
単に贈与や遺贈があったというだけでなく、その行為が遺留分を侵害することまでを認識する必要があります。
遺言の無効を主張している場合でも、特段の事情が認められない限り、時効は進行します。これは最高裁の判決に基づくものです。
したがって、遺留分侵害額請求権を行使しておくことの重要性が強調されます。
10年経つと遺留分侵害を知らなくても請求権自体が消滅
遺留分権利者が相続の開始や遺留分侵害行為を知らなくても、相続開始から10年後にはその請求権は消滅します。
この10年間を「除斥期間」と呼び、一般にこの期間中に中断や更新の事由はないとされます。
遺留分侵害額請求権の時効を止める方法
遺留分の侵害に関する請求の時効を中断するための方法として、以下の要項を含んだ通知書を内容確認および配達証明の付いた郵送で相手に送ることをおすすめします。
- 請求する側と受け取る側の詳細
- 請求対象としての遺贈や贈与、遺言の具体的内容
- 遺留分に該当する金額の支払い請求についての内容
- 請求を行う日時
内容確認および配達証明を選択する背景には、後日「通知を受け取っていない」「請求の内容を知らされていなかった」といったトラブルを未然に防ぐための証拠として活用する意図があります。
配達証明は通知の配達を、内容確認は通知の中身を確認するものとして証明するためのもの。
手続きに関して、郵便局に直接行く方法と、オンラインでの手続き、いわゆる「e内容証明」の2つの方法が存在します。具体的な書式や文字制限はあるため、通知作成前に郵便局の公式サイトで詳細をチェックするようにしましょう。
ただし、すべての郵便局で内容証明のサービスが提供されているわけではないので、訪問前にサービスの提供状況を確認する必要があります。
金銭支払請求権の時効を止める方法
時効が5年間進行し、交渉が難航している際、遺留分侵害額請求を基盤とした金銭の支払請求の裁判を行うことで、時効の進行を中断できます。
さらに、相手が金の支払い義務を認めた場合、その瞬間から時効はリセットされます。ただ、その承認から再び5年が経つと、再度時効の範疇に入るので注意が必要です。
遺留分侵害請求の時効に関する注意点
遺留分侵害請求の時効については、以下の点に留意しましょう。
- 遺言書の無効を主張している間も時効は進行
- 起算点の証明について
ここから、個別に解説します。
遺言書の無効を主張している間も時効は進行
不適切と思われる遺言が存在し、遺留分侵害額請求ではなく、遺言の無効を主張する場面が見受けられます。この際、注意すべきは、遺言の有効性を争っている期間でも、遺留分侵害額請求の時効は進行するリスクがあること。
例として、認知症の徴候があった父が「長男だけが遺産を受け継ぐ」とする遺言を残し、次男がこれを無効と判断し訴訟を起こすケースを考えると、次男の立場では「遺言は無効だから遺留分の権利侵害は考えられない」となります。
しかし、遺留分侵害額請求の時効が進行している可能性も考えられ、訴訟に敗れた場合、遺留分の請求が時効で不可能になることもあるのです。
昭和57年11月12日の最高裁の判決によれば、「遺留分権利者が合理的な根拠で遺言の無効を信じ、遺留分減殺請求をしないことは理解できるが、特定の事情がない限り時効は継続する」との趣旨が示されています。
そのため、遺言の有効性を争うケースでも、時効を防ぐために遺留分侵害額請求を行うことが推奨されます。養子関係の無効を求める際も、遺留分請求を忘れずに検討することが重要です。
起算点の証明について
遺留分の請求権利は、「相続開始や遺留分侵害の贈与・遺贈の認知時」から1年後に時効となります。しかし、「いつそのような事実を知ったか」という点を具体的に証明するのは困難です。
このような時効の起算点の証明問題を避けるため、被相続人の死後1年以内に遺留分請求を行うことが望ましいでしょう。
まとめ
遺留分は法律で保障された最低限の相続権利であり、この権利を侵害された場合には請求が可能です。しかし、その請求権には時効が関わってきます。
適切な対応を行うためには、細かい法的手続きや注意点については専門的な知識が必要。そのため、相続問題や遺留分請求に関して疑問や懸念がある場合は、迷わず専門家に相談しましょう。
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