こんにちは。ワケガイ編集部です。
相続人が複数いるケースでは、不動産を単独で自由に売却したり、名義変更を進めたりすることができず、相続手続きが思うように進まないという問題が発生します。その際に理解しておくべきなのが共同相続人の仕組みです。
共同相続人とは、相続人が複数いる状態で、相続財産が一時的に共有されている間における相続人全員のことを指します。共同相続の状態では、遺産分割協議や名義変更、相続税の申告といった手続きにも特有の煩雑さが伴います。
そのため、相続人の確定方法や共有状態のリスク、適切な分割方法などを理解しておくことは、トラブルを未然に防ぐ上で非常に重要です。
本記事では、共同相続人の定義から、不動産相続における具体的な手続きや注意点、売却時の留意点に至るまで、実務に即して詳しく解説します。
目次
共同相続人とは
相続が発生し、相続人が複数いる場合、その全員が一時的に「共同相続人」という立場になります。これは、誰がどの財産を相続するかが決まっていない段階で、すべての財産が相続人全員の「共有」として扱われることを意味します。
たとえば、被相続人に配偶者と2人の子どもがいた場合、3人が共同相続人となります。この時点で、被相続人が所有していた不動産や預貯金は、誰か一人のものになるわけではなく、相続人全員が共同で所有している状態とみなされます。
この原則は、民法第898条に明記されています。
“相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する”
引用:民法 |898条
つまり、共同相続人とは、相続財産を一時的に共同で保有・管理する相続人たちを指す法律用語です。
この共有状態は、遺産分割協議によって誰が何を受け取るかを決めるまで続きます。協議がまとまると、不動産であれば所有権の移転登記、預貯金であれば名義変更などが行われ、初めて個別の財産としての帰属が明確になります。
共同相続人と法定相続人の違い
法定相続人とは、民法によって定められた「相続の権利を持つ人」のことです。配偶者、子ども、親、兄弟姉妹などがこれに該当し、被相続人の死亡によって当然に相続の資格が生じます。誰が法定相続人になるかは、家族構成や続柄によって決まり、相続順位も法律により明確に定められています。
一方、共同相続人は、すべての財産が全相続人の共有財産となり、その管理や処分には共同相続人全員の関与が求められます。
つまり、法定相続人は「相続の資格がある人」であり、共同相続人は「複数の相続人で財産を共有している状態にある人たち」という違いがあります。両者は重なることもありますが、用語としての意味は異なるため、相続手続きの場面では区別して理解することが重要です。
共同相続人の調べ方
共同相続人を正確に把握するには、まず被相続人の戸籍をたどる必要があります。遺産分割や登記などの手続きでは、相続人全員の同意が求められるため、早い段階で確認しておきましょう。
調査の流れは、以下のとおりです。
手順 | 内容 | 補足 |
① 被相続人の戸籍を収集 | 出生から死亡までの連続した戸籍を取得 | 除籍・改製原戸籍も含める。役所で「相続用」と伝えるとスムーズ |
② 相続人を特定 | 戸籍から配偶者・子・孫・親族などを確認 | 法定相続人の範囲を民法に照らして確認 |
③ 相続関係説明図の作成 | 相続関係を図で整理 | 遺産分割協議書の添付資料としても有効 |
家族関係が複雑な場合や、離婚・再婚・認知などを伴う場合は、戸籍の読み取りにも注意が必要です。判断が難しい場合は、早めに専門家に相談しましょう。
関連記事:相続人不存在の共有持分はどうなる?帰属のルールや必要手続きを丁寧に解説
【ケース別】共同相続人の決まり方
共同相続人の決まり方を挙げると、以下の3パターンに分けられます。
- 一般的な場合
- 共同相続人が相続放棄した場合
- 共同相続人が相続完了前に亡くなった場合
それぞれ、個別にみていきましょう。
一般的なケース
配偶者は、特別な状況がない限り、常に相続人の資格を持ちます。しかし、相続人は配偶者だけにとどまりません。亡くなった人の子どもは、第1順位の相続人として認識されます。子どもが複数いる場合、全員が平等に相続の資格を持つことになります。
先立たれた子どもが存在する場合、その子どもの子、すなわち孫が相続権を継承します。これを「代襲相続」と称します。さらに孫も亡くなっているケースでは、次の世代が相続の権利を持つ場合があります。
第1順位に該当する者がいないの場合、次は第2順位の親が相続人として認識されるのが通例。親がすでに亡くなっている場合、祖父母や更に上の世代が相続人となることも考えられます。
もし、第2順位にも該当者がいない場合、第3順位の兄弟姉妹が相続人となります。その上で、先立たれた兄弟姉妹の子、つまり甥や姪が代襲の資格を持ちます。ただし、兄弟姉妹の代襲は一代のみとされます。
共同相続人が相続放棄したケース
相続権を持つ共同相続人が相続を放棄した場合、次の順位の者が相続権を持つこととなります。
例として、第1順位の子どもが相続を放棄した場合、孫がいても、次の第2順位の親が相続人となります。これは、相続放棄した者は初めから相続人でなかったという扱いになるためです。
共同相続人が相続完了前に亡くなったケース
共同相続人が遺産の分割が完了する前に亡くなった場合、その者の相続権は、その者の相続人に引き継がれます。
一例として、父の遺産を相続する際、相続人として母、長男、次男の3人がいたとしましょう。遺産分割前に長男が亡くなった場合、長男の相続人である彼の妻や子どもが、長男の代わりに遺産分割協議に参加することとなります。
この結果、この父の遺産の相続人は母、次男、長男の妻、そして長男の子どもという4人となります。
不動産を共同相続するリスク
不動産を共同相続するリスクとしては、以下のものが考えられるでしょう。
- リスク①:利活用や売却には他の共有者の同意が必要
- リスク②:固定資産税の支払いで揉める
- リスク③:経年とともに権利関係が複雑化する
ここからは、それぞれ個別に解説します。
リスク①:利活用や売却には他の共有者の同意が必要
共有された不動産においては、使用方法や売却などの決定が難しくなるケースが多々あります。とりわけ相続に関連する場合、相続人間での意見の不一致がトラブルの原因となり得ます。
法的に、共有の不動産を売却するには共同相続人全員の同意が必要。これは、たとえ一人の相続人が反対すれば、売却は難しくなることを意味します。一人だけの持分を売ることは可能ですが、実際には買い手を見つけることは困難となり得ます。
空き家として放置された共有の不動産は、管理上のトラブルが生じやすいのも実情。これは、維持や修繕に関する責任をめぐる相続人間の対立や、共有状態での所有意識の希薄化から来るものです。
その結果、建物が荒廃し、近隣でのトラブルや不法投棄、火災などのリスクが高まることが考えられます。これを防ぐためには、共有状態を速やかに解消し、明確な責任を持つ者が管理を行うことが求められます。
関連記事:共有不動産の管理費用の分担方法とは?費用を払わない共有者がいる場合の対応手段について
リスク②:固定資産税の支払いで揉める
共有のままの不動産では、固定資産税の負担がトラブルの原因となることが一般的です。通常、固定資産税の納付書は共同相続人の代表者へと送られ、その代表者が他の相続人からの支払いを集めて納税することが求められます。
しかし、支払いを拒否する、あるいは支払う能力がない相続人が現れることも少なくありません。このような場合、連帯納税義務に基づき、他の共有者が負担を負うこととなります。
関連記事:固定資産税を支払わない共有者がいる場合、どのように対処したらいい?
リスク③:経年とともに権利関係が複雑化する
共有状態が継続する中で、共同相続人の一部が亡くなると、その相続人が新たな共同相続人として加わり、所有者が増加するという問題が生じます。
前述の例では、父の自宅を共同相続人として所有していた母・長男・次男の3人のうち、長男が亡くなった場合、長男の妻と子どもも新たな共同相続人として加わり、所有者は4人に増加します。これにより、様々なトラブルのリスクが増えることが考えられます。
共同相続人がいる場合の相続手続きの手順
共同相続人がいる場合、相続財産は一時的に共有の状態となるため、単独での名義変更や処分はできません。とくに不動産を含む相続では、手続きの流れを正しく理解しておくことで、後々のトラブルを回避しやすくなります。
ここからは、共同相続人による相続手続きの基本的な流れを3つのステップで紹介します。
- 手順①:相続人と財産の全体像を把握する
- 手順②:遺産分割協議を行い、書類を整える
- 手順③:名義変更と相続税申告を行う
それぞれ個別にみていきましょう。
手順①:相続人と財産の全体像を把握する
相続の最初のステップは、「誰が相続人なのか」「何を相続するのか」を調べることです。とはいえ、実際にはこの段階で止まってしまう方も少なくありません。
たとえば、「父に前妻との子どもがいるかもしれない」「疎遠な兄がどこに住んでいるか分からない」といった事情があると、調査の範囲や順序に戸惑うことが多くあります。
基本的には、以下のような調査が必要です。
調べる対象 | 具体的な作業内容 |
相続人の確定 | 被相続人の出生から死亡までの戸籍(除籍・改製原戸籍を含む)を取得 |
財産の調査 | 不動産の登記事項証明書、固定資産評価証明書、預貯金残高証明などを収集 |
戸籍の取り寄せは、市区町村の窓口や郵送で可能です。「相続手続きで使う戸籍をすべて取りたい」と伝えれば、必要な範囲を教えてもらえます。
相続人の関係性が複雑な場合は、専門家に依頼して「相続関係説明図」を作成することで、次の手続きがスムーズになります。
手順②:遺産分割協議を行い、書類を整える
相続人全員で話し合い、財産の分け方を決めていきます。不動産の取り扱いでは、「売却して現金化する」「誰かが引き取って代償金を払う」「共有のまま保有する」といった選択肢が出てきますが、意見の一致が得られないことも少なくありません。
とくに、「一人だけ反対している」「音信不通の相続人がいる」といったケースでは、話し合いの継続が難しくなります。その場合は、家庭裁判所の調停や審判を利用する方法もあります。
協議が成立した場合は、以下の書類を準備しましょう。
- 遺産分割協議書(全員の署名・実印)
- 相続人全員の印鑑証明書
- 相続関係説明図(登記用)
分割方法に関しても、現物分割・代償分割・換価分割など、それぞれのメリットとリスクを比較しながら、家庭の事情に合った方法を選ぶ必要があります。
関連記事:遺産分割協議書とは?共有持分を遺言書なしで相続する場合に必要な理由
手順③:名義変更と相続税申告を行う
協議が整ったら、名義変更などの各種手続きを行います。とくに不動産については、登記を放置すると後々の売却や相続に支障が出るため、早めの対応が求められます。
相続財産の合計額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人数)を超える場合は、相続税の申告も必要です。申告期限は、相続開始を知った日の翌日から10か月以内と定められています。
- 所有権移転登記:法務局へ申請する。相続人全員の書類が必要。
- 金融資産の手続き:各銀行・証券会社に相続届を提出する。
- 相続税申告:税理士に依頼するか、自分で書類を整える。
家族内で進行役が不在の場合、作業が滞りがちです。一人が全体を整理し、必要なサポートを外部から得るだけでも、手続きの負担を大きく減らせるでしょう。
共同相続した不動産の分割方法
共同相続における遺産分割の方法としては、次のとおりです。
- 現物分割
- 代償分割
- 換価分割
以下より、詳しく解説します。
現物分割
現物分割とは、遺産をそのままの形で相続人間で分け合う方法です。例えば、土地や家、車などの物理的な資産をそのままの形で分割することを指します。現物分割は最も直接的な分割方法であり、具体的な財産を特定の相続人に割り当てることができます。
ただし、全ての財産が均等に分割できるわけではないため、特定の財産について相続人間の意見が一致しない場合、トラブルの原因となるケースもあります。
関連記事:現物分割とは?メリット・デメリットや検討すべきケースを解説
代償分割
代償分割は、一部の相続人が遺産の一部を全て取得する代わりに、他の相続人に金銭などでの補償を行う方法です。具体例を挙げると、ある土地を一人の相続人が全て取得する代わりに、他の相続人に一定の金額を支払う、といった方法で遺産を分割します。
代償分割は、代償の額や方法についての合意が難しくなる場合や、補償金の支払いが滞ることでトラブルが生じる可能性がある点に留意が必要です。
関連記事:「代償分割」とは?共有持分の分割方法方法として選ぶべきケースを解説
換価分割
換価分割は、遺産を売却し、その売却額をもとに相続人間で分割する方法です。具体的な財産に執着がない場合や、現物での分割が困難な場合に有効な選択肢となります。売却によって得られた金銭を基に、相続人間で分配します。
ただし、財産の売却価格が相続人の期待を下回る場合や、売却までの時間がかかることで遺産分割が遅れる可能性が懸念されます。また、売却に伴う税金や手数料などの負担も考慮する必要があるでしょう。
関連記事:共有持分の「換価分割」とは?メリット・デメリット、選択すべきケースを紹介
共同相続人がいる不動産は売却可能?
結論からいえば、共同相続人が全員合意すれば、共有状態の不動産でも売却は行えます。
しかし、現実には全員の意見が一致せず、スムーズに売却に至らないケースが多く見られます。
不動産の売却は「管理行為」や「処分行為」に該当するため、民法のルール上、共有者全員の同意が必要です。一人でも反対する相続人がいれば、売却手続きは進められません。とくに、疎遠な相続人や遠方に住む人がいる場合、話し合い自体が成立しにくくなります。
一部だけを売ることはできるのか?
共有状態の不動産では、自分の持分のみを第三者に売却すること自体は可能です。ただし、他の相続人と共有している状態の不動産は、一般市場では敬遠されがちであり、実際に買い手がつくことは稀です。
このため、持分のみを売却したい場合は、共有不動産を専門に扱う買取業者などに相談する必要があります。
関連記事:第三者への共有持分売却で、他の共有者の同意は不要!よくあるトラブルやルールを紹介
売却できない場合はどうすればいい?
「全員の合意が得られない」「話し合いが平行線をたどる」といった状況では、最終的に家庭裁判所に「共有物分割請求」を行うという選択肢もあります。これは、裁判所を通じて不動産の売却や分割を強制的に実現する手続きです。
ただし、調停・審判には時間や費用がかかるため、まずは任意の協議や、専門業者の査定を通じて現実的な落としどころを探る方が、負担の少ない解決につながることもあります。
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まとめ
不動産を複数人で相続した場合、名義や管理の面で意思統一が必要となり、処分や活用が自由にできない状態に陥りがちです。こうした共同相続の場面では、まず「誰が相続人か」「財産は何か」を正確に把握し、相続人全員で冷静な協議を行うことが基本となります。
また、共有状態を続けることで将来的に権利関係が複雑化し、トラブルに発展するリスクもあります。早い段階で遺産分割を行い、管理責任の所在を明確にすることが望まれます。
もし協議が難航する場合には、調停や審判も視野に入れて、感情的な対立を避けつつ現実的な着地点を探る姿勢が必要です。制度や手続きに対する正しい理解と段取りをもって、着実に対応していきましょう。