相続とは、あらゆる方にとって大切なライフイベントです。しかし「遺言書がない」といったケースでは、相続財産の分割方法について、相続人間で協議し、その内容をまとめた遺産分割協議書を作成する必要があります。
この記事では、相続における遺産分割協議書の基礎知識について解説します。今後発生するであろう相続に向けてしっかりと準備しておきたい方は、ぜひお役立てください。
目次
遺産分割協議書とは?
遺産分割協議書とは、遺産相続に際して、相続人全員がどう遺産を分けるかを合意し、それを書面にまとめたものです。法律上の要件を満たす文書で、きちんと作成し、相続人全員が署名すれば、合意した内容は法的効力をもちます。
遺産分割協議書の役割
遺産分割協議書がなければ、予期せぬトラブルが発生する可能性があります。「そんな約束はしてない」という言い争いを防ぐことができます。
遺産分割協議書には相続人全員の署名と捺印があるため、その存在が確かな合意を証明します。トラブルを避けるため、遺産分割協議が終わったらすぐに作成しましょう。
遺産分割協議書が必要なケース
遺産分割協議が必要となる背景には、遺言がない場合や遺言が不明確な場合、遺産は相続人全員の共有となるため、具体的に誰が何を取得するかが明示されていないことがあります。
法定相続分で分割する場合や、遺言で全ての遺産の相続人が指定されている場合には、遺産分割協議は不要で、遺産分割協議書も作成しません。
遺産分割協議書の作成が必要となるのは、以下のようなケースです。
- 遺言書がない場合、または法定相続分で分けない場合
- 遺言書があるものの、相続人全員がその内容に従わない場合
- 遺言書の内容が大まかな指示(「遺産の半分を○○に」といった内容)である場合
- 遺言書の形式が不備で無効となる場合
など
共有持分を相続する際の遺産分割協議書の書き方
ここからは、共有持分を相続する場合を想定した遺産分割協議書の書き方を解説します。
遺産分割協議書に記載する内容
遺産分割協議書には、以下の内容を記載するのが一般的です。
- 被相続人の情報
- 氏名・生年月日・死亡年月日・本籍地
- 相続人全員が遺産分割協議に合意している旨
- 誰がどの財産を取得するのか
- 相続人の情報
- 住所・氏名
- 作成年月日
- 相続人全員の署名押印
以下より、代表的な箇所の記述例を紹介します。
共通部分の記載例
遺産分割協議書には、基本的な要素として、被相続人の生年月日や亡くなった日・本籍地などを記載します。具体的には、次のとおり。
氏名 【◯◯(被相続人氏名)】
生年月日 昭和〇〇年〇月〇日
死亡日 令和〇年〇月〇日
本籍 東京都中央区
私たち、【◯◯(相続人の全名)】は、【死亡者名】の遺産分割について協議し、以下の通りに遺産を分割することに合意しました。
不動産についての記載例
不動産関連の情報については、次のように登記事項証明書から必要な事項を正確に写しましょう。
【物件の所在地と名称】を【◯◯(相続人の氏名)】が相続する。
【土地】 持分2分の1
所在:〇市〇町〇丁目
地番:〇番〇
地目:宅地
地積:200.00㎡
【建物】
以下の建物について、【◯◯(相続人の氏名)】が取得する。
不動産番号 ◯◯
所在 東京都中央区◯◯
家屋番号 ◯◯番
種類 居宅
構造 木造瓦葺2階建
床面積 1階30.00平方メートル
2階20.00平方メートル
共有持分がある場合の記載例
すでに遺産に共有持分の不動産がある場合には、被相続人の持分割合も記載する必要があります。
以下の土地について、遺産次郎が取得する。
不動産番号 ◯◯
所在 東京都中央区◯◯
地番 6番7
地目 宅地
地積 70.00㎡
遺産太郎持分2分の1
配偶者居住権を設定する際の記載例
配偶者居住権とは、配偶者が被相続人の死亡時点で住んでいた建物を、一定期間の間だけ無償で使用することができる権利を指します。
この配偶者控除権を遺産分割協議書に記載する場合は、以下のように記載します。
【建物】
以下の建物について、分割花子は分割花子の死亡まで配偶者居住権を取得し、【◯◯(相続人の氏名)】は所有権を取得する。
不動産番号 不動産番号 ◯◯
所在 東京都中央区
家屋番号 ◯◯
種類 居宅
構造 木造瓦葺2階建
床面積 1階30.00平方メートル
2階30.00平方メートル
銀行の預貯金の記載例
預貯金についても、ほとんどのケースで遺産分割協議書に記すことになるため、以下に例示します。
【預貯金】
以下の預貯金について、【◯◯(相続人Aの氏名)】が①と②の2分の1を取得し、【◯◯(相続人Bの氏名)】が①の2分の1、【◯◯(相続人Cの氏名)】が②の2分の1を取得する。
① 甲銀行 本店 普通預金 口座番号 ◯◯
② 乙銀行 ◯◯支店 普通預金 口座番号 ◯◯
③ 柄銀行 ◯◯支店 定期預金 口座番号 ◯◯
遺産分割協議書を作成する際の注意点
遺産分割協議書を作成する際には、以下の点にも留意しましょう。
- トラブル防止のために公正証書で作成する
- 「やり直し」は基本的に不可能
- 諸経費の負担割合
次項より、個別に解説します。
トラブル防止のために公正証書で作成する
公正証書で遺産分割協議書を作成することは、相続における将来的な問題を防ぐ。あるいは紛失や改ざんを防ぐための有効な手段となります。
公正証書は公証人によって作成され、契約内容を証明する文書です。遺産分割協議書を公証人により公文書化することで、より強力な証明力を持ちます。
作成した遺産分割協議書の原本は公証役場にて保管されます。そのため、万が一共有者間で偽造や改ざんが発生した場合でも、公証役場で原本の確認が可能なのです。
「やり直し」は基本的に不可能
遺産分割協議書を作成した場合、その内容には法的効力が発生します。
ただし、一部の相続人が、遺産分割協議書に記載した持分割合を間違えて記述してしまった場合、全員の合意により解除し、再協議を行うことが可能。
特に、遺産分割協議書において、持分割合を誤って記載すると、相続税の課税額が他の相続人と異なってしまい、本来納めるべき税金が増減する可能性が懸念されます。
誤って登記してしまった場合は、登記の修正を行う必要も。この際、不動産が金融機関によって担保とされていた場合、金融機関の承認も求められます。
手続きに時間がかかる。あるいは金融機関に拒否される可能性もあるため、留意しましょう。
諸経費の負担割合
遺産分割協議が完了し、共有不動産を相続した場合、各相続人は持分割合に応じて諸費用を支払う必要があります。
たとえば、共有不動産の登記を司法書士に依頼し、その費用が5万円だった場合、持分が1/2であれば、各相続人は2万5,000円を支払わなければなりません。
共有持分を相続したら「相続登記」が必要
共有持分を相続したら、必ず「相続登記」も必要です。
相続登記は、不動産の名義を被相続人から相続人に移転させる手続き(※1)。被相続人の名義のままでは、不動産を担保にした借り入れや、売却、融資によるリフォームができなくなるなどの問題が生じます。
2024年4月1日から相続登記は義務化され、不動産を相続した場合は必ず登記を行う必要があります(※1)。相続登記には複数の書類が必要ですので、これらを法務局に提出し、登記を完了させましょう。
必要書類については、以下のとおりです。
<相続登記で必要な書類>
- 登記申請書
- 遺産分割協議書
- 相続人全員の印鑑証明書
- 被相続人の出生から死亡までの除籍謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
- 相続人の住民票
- 被相続人の住民票の除票
- 被相続人の戸籍の附票の除票
まとめ
遺産分割協議書の作成は、公正証書にすることでトラブル防止や確認の容易さに繋がります。しかし、誤った内容の修正は基本的に難しいため、作成の際には慎重にならなければなりません。
正確に遺産分割協議書を作成するためには、やはり外部専門家の力を借りる必要もあるといえます。信頼できる専門家にも相談しつつ、遺産相続に向けた準備を進めましょう。
<参考>(※URL最終閲覧2023年6月30日)
※1 法務省「所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し(民法・不動産登記法等一部改正法・相続土地国庫帰属法)」https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00343.html