
土地の範囲を示す筆界は「公法上の境界」とも呼ばれ、土地を活用したり、売買したりする際にはまず念頭におかなければなりません。
今回は筆界が定まっていない状態を指す筆界未確定地について、その概要や売却方法について解説します。
目次
そもそも筆界とは?
筆界は隣地の境目を構成する2点以上の地点と、その2点間を結ぶ直線を指した概念であり、不動産登記法によって定義されています。
筆界の内容は不動産登記として記録されているため、その内容を変更するためには「分筆」「合筆」「所有権移転」などの手続きが必要です。
筆界に類似する言葉として「所有権界」があります。所有権界とは土地の所有者が有する権利範囲を示したもので、、土地所有者が任意で所有権の範囲を変更できるため、筆界と所有権界が一致しないケースも発生します。
所有権界については民法上で概念が認められており、「民法206条・207条」において規定されているため、所有権界は「私法上の境界」として扱われます。
筆界未確定の土地ではできないこと
なぜ筆界未確定の土地が発生するのか?
筆界未確定とは、前述の通り登記された際に本来は定められているべき法的範囲である筆界が定まっていない状態です。
筆界未確定の状態は、一筆ごとの土地について所有者や地番、地目、境界などを確認する「一筆地調査」に、土地所有者が立ち会わない場合や、土地の境界内容に合意しないケースで発生します。
一筆地調査は、市町村などの自治体が主導して行われ、登記簿・公図をもとに調査図を作った上で、実際の土地の形と照らし合わせながら筆界を確定させます。
一筆地調査で確定した筆界は法的にも認められるため、公図に記載することも可能です。
しかし、前述の理由で筆界未確定の土地となってしまうと、土地所有者としての権利は残る一方で「分筆・合筆」「地積更正」「地目変更」が行えなくなります。
分筆・合筆
「分筆」は相続や売却時に所有している土地を分割する手続きであり、「合筆」は自分の土地の隣地を一筆にまとめる行為です。
これらが行えなければ、相続発生時や隣接する筆の所有者が身内である場合に、土地を分割したりまとめたりできなくなります。分筆登記・合筆登記が行えなければ土地の使い勝手は大幅に悪くなり、売却や土地活用においてもネックとなるでしょう。
地積更正
「地積更正」とは登記簿に記載されている土地面積である地積情報が、測量により判明した実際の面積と異なる場合に必要になる修正作業を指します。
区画整理が実施されていないエリアでは、過去の測量面積がそのまま登記簿に記載されているケースが多々あります。そのような場合に該当する土地が筆界未確定で地積更正を行えなければ、正しい情報を登記できないない状態となるため問題です。
地目変更
地目とは、不動産登記の際に登記簿に記載する土地の用途のことです。地目は「宅地」「畑」「雑種地」などからなる、23種類に分けられます(※1)。
この地目変更ができなければ、あらかじめ登録されている用途でしか土地を活用できません。そのため「宅地として登録されている実家で新たに事業を行いたい」などと考えた場合など、目的に応じた柔軟な土地活用ができないことになります。
筆界未確定の土地を売却する際には境界明示の義務がある
筆界未確定の土地を売却する場合、「境界明示義務」が発生する可能性があることには留意が必要です。境界明示義務とは、土地の売買時に、実際に現地で土地の境界線を買い手に示す義務を指し、確認には境界杭やブロック塀などで境界を固定する手法が採られます。
一方で、境界明示義務には法的拘束力はありません。しかし、そのままでは土地の売買契約時に、契約書に記載されている内容に齟齬が発生してしまう可能性があります。そのため、売買契約書に境界の明示に関して義務付けを行うことで、トラブルに繋がるリスクを回避するのが一般的です。
筆界未確定の土地かつ、境界線を明示できないといったケースでも売却自体はできます。しかし、境界を明示しないままの土地は、買い手にとって相当なリスクとなりますので、買い手探しは非常に時間がかかるでしょう。
筆界未確定の土地を売却時には筆界確認書を作成し地図訂正を行う
筆界未確定の土地であったとしても「地図訂正」を行えば、売却も比較的スムーズに進むでしょう。地図訂正とは、法務局に存在し、法的な拘束力を持つ公図を訂正する手続きとなります。一般的に、地図訂正は前述の地積更正と同時に行うのですが、筆界未確定の土地の場合は地図訂正のみの実施もできます。
地図訂正を行うためには、まず「筆界確認書」を作成する必要があります。筆界確認書とは、土地の境界線について、双方の土地のオーナーが承諾したことを確認する書類です。筆界確認書を作成する際には、「筆界確定図」「確定測量図」などと呼ばれる、筆界確認書に記載された土地の境界に関する図面も作られます。
さらに、地図訂正を行うためには現状の公図に誤りがあることを証明するために「土地所在図」「地積測量図」などの図面に加え、申請に必要な書類が必要も揃えなければなりません。
地図訂正を行うメリット
筆界確認書を作成し、地図訂正を行えば売却時に買い手との交渉が難航する可能性を減らせます。
筆界未確定の土地であっても、土地訂正さえ行っていれば、少なくとも隣地の所有者と土地の境界についてトラブルになるリスクはありません。売買契約書にも境界を記載できるため、土地を売買する際の交渉も比較的行いやすいでしょう。
地図訂正を行うデメリット
地図訂正に必要な筆界確認書を作成するためには、土地家屋調査士に調査を依頼しなければなりません。その際には、測量や書面の作成などが求められますので、数十万円単位の依頼料が必要です。
それに加え、実際に筆界確認書地図が完成するまでには数ヶ月単位の時間がかかる点もネックとなります。
まとめ
筆界未確定は本来定められているべき筆界がない土地ですので、そのままでは売却や利活用の手段が限られてしまいます。境界を明示しないまま売却を行うことも可能ですが、買い手にとっては大きなリスクです。
そのため、売却を行う際には、筆界確認書を作成し、地図訂正を実施した上で臨みましょう。
参考:
※1 一般社団法人東京都測量設計業協会「地目(ちもく)」, https://www.sokuryo.or.jp/db/chimoku#:~:text=%E5%9C%B0%E7%9B%AE%E3%81%AF%E3%80%81%E5%9C%9F%E5%9C%B0%E3%81%AE%E7%99%BB%E8%A8%98,%E3%80%81%E5%85%AC%E5%9C%92%E3%80%81%E5%8F%8A%E3%81%B3%E9%9B%91%E7%A8%AE%E5%9C%B0%E3%80%82,(2022/02/23)