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債務と債権のちがいとは? 不動産取引での事例もあわせて解説

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金銭を支払うときや不動産取引をする際に「債務」と「債権」という言葉を聞いたことがある人は少なくないでしょう。債務と債権、言葉が似ていることから混合されがちですが、正しく理解していないと、いざというときに困るかもしれません。

そこで今回は、債務と債権のちがいと付随して出てくる言葉の意味や、不動産取引での事例などをあわせて解説します。

■債務と債権のちがい

まずは、債務と債権のちがいについて解説します。

 

・債務とは?

債務とは、特定の人に特定の行為や給付を提供しなくてはならない義務です。義務を負う人のことを「債務者」と言います。複数の人が同じ債務を負う際は「連帯債務」と言います。

 

・債権とは?

債権とは、特定の人に特定の行為や給付を請求できる権利です。 権利を持つ人のことを「債権者」と言います。

 

債務と債権のちがいとは

金銭で物を購入する際に、売主は買主に対して代金支払いを主張できる「債権」を獲得します。そして買主は、代金を支払う「債務」を負うことになります。

しかし、債務と債権は表裏一体であり、裏から見れば売主は買主に対して「目的物を引き渡す債務を負う」ことになります。そして買主は「目的物を渡してください」と主張できる「債権」を獲得できるのです。

つまり、債務と債権は視点を変えればその立場が入れ替わるため、その時々において自分がどの立場なのかを把握することが大切だと言えるでしょう。

 

■債権と物権のちがい

債権と似ている言葉として「物権」があります。物権の意味と債権とのちがいについて解説します。

 

・物権とは

物権とは、物を直接支配する権利のことを言います。債権が人に対して発生する権利であることに対して、物権は物に対して発生する権利だと言えるでしょう。

主な例として、所有権や地上権・占有権・抵当権が挙げられます。

 

・債権と物権のちがい

両方とも財産を支配する権利と言えるでしょう。債権と物権のちがいは、第三者に対して権利を主張できるかどうかということです。

債権は特定の人に要求する権利であり、第三者に対しては権利を主張できません。しかし、物権はすべての人に対して権利を主張できます。

 

■債務と債権の発生事例

それでは、再び債務と債権について解説いたします。債務と債権はどのようなときに発生するのでしょうか?事例を説明します。

 

・日常生活の中でも債権・債務関係は発生する

債務や債権と聞くと大事のように感じるかもしれませんが、実は日常生活の中でも当たり前のように債権・債務関係は生まれているのです。例えば、コンビニでおにぎりを買う際には、コンビニに対して代金を支払う債務を負います。そしておにぎりを受け取る債権を得ることができるのです。

 

・売買契約

売買契約時には債権・債務関係が生まれます。例えば、不動産取引の際には売主は買主に「代金の債権」がある一方で「不動産引き渡しの債務」が生じます。買主は売主に「不動産引き渡しの債権」を持つ一方で「代金の債務」を負う、ということになります。

 

・労働契約

物の取引だけでなく、報酬の代償として労力を提供する際にも債務と債権が発生します。

例えば小売店の場合、雇い主である店長は従業員に対して労働を要求する権利(債権)があり、同時に労働の対価に見合った給与を支払う債務を負うことになります。

一方、従業員は店長に対して給与を請求する権利(債権)があり、給与に見合った労働を提供する義務(債務)が発生します。

 

・賃貸借契約

賃貸借契約とは、物件を使用させる代わりに賃料を支払うという契約です。借りる人は賃料を支払う債務があり、物件所有者は提供する債務があります。

 

・事務管理

契約以外でも債務と債権が発生する場合があります。そのひとつが「事務管理」です。事務管理とは、法律上の義務がない者が他人のために他人の事務の管理を行うことを言います。

例えば、留守中の隣家が災害に遭い、頼まれたわけでもないのにそのときに壊れたものを修理してあげたり、自分の敷地に迷い込んだ犬を保護して餌をあげたりするなどがあります。「頼んだわけでもないから、修理代や餌代を支払う義務はない」と思うかもしれませんが、要件を満たせば事務管理としての債権・債務関係が成立します。

 

・不当利得

不当利得とは法律上受け取る権利がないにも関わらず、他人の財産又は労務によって受けた利益のことを言います。例として「過払い金請求」が挙げられます。過払い金請求とは、カードローンやキャッシングなどで貸金業者に支払い過ぎていた利息を返還してもらうことです。貸金業者側は、過払い金返還請求をされたら「過払い利息を支払う」債務を負うことになります。

 

・不法行為

不法行為とは、故意や過失によって相手に損害を発生させることです。不法行為を行った場合、その人は相手に対し損害賠償をしなければなりません。つまり、不法行為をした者は損害賠償をする債務を負う、ということになります。

ただし、不法行為が成立するためには「行為と損害に因果関係があること」と「責任能力があること」、さらに「正当防衛ではなく違法性があること」が必要です。

 

債権・債務関係は様々なときに発生する

上述した事例以外にも、請負契約や交換契約・和解契約時などにも債権・債務関係は発生します。

 

■債務と債権の関係

債務と債権の関係について解説します。

 

・双務(そうむ)契約

双務契約とは、契約を結んだ当事者が双方共に債権者であると同時に債務者である契約のことです。例えば、売買契約や労働契約・賃貸借契約がこれにあたります。売買契約を締結することにより、売主は物の引渡し債務を負い、買主は代金の支払い債務を負うことになるため、両者が債務者となり、裏を返せば両者が債権者となるのです。

 

・片務(へんむ)契約

上記の双務契約に対して「片方のみ」が義務を負うことを片務契約と言います。代表的なものが贈与契約です。贈与契約は、授与者(もらう側)は何も提供しないため、贈与者(あげる側)だけが一方的に義務を負うことになります。

他にも、消費賃貸契約も片務契約に含まれます。消費賃借契約とは、借主が貸主からある物を消費する目的で借り、貸主へ借りた物をそのままの状態で返す契約のことです。例えば、バス代がないAさんがBさんに1000円借り、その場ではバス代として消費しますが、あとからBさんに対して1000円返さなければいけません(債務)。BさんはAさんに1000円をもらう債権がありますが債務はないため、片務契約となります。

 

・相殺(そうさい)

相殺とは、相手に対して同種の債権を持っている場合に債権と債務を帳消しにする行為のことです。民法505条で「二人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合において、双方の債務が弁済期にあるときは、各債務者は、その対当額について相殺によってその債務を免れることができる。ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。」と定められている通りです。

代表的なものとして、合併による相殺(債権者と債務者の同一)や、破産手続きにおける相殺などが挙げられます。

 

 

【出典:https://www.photo-ac.com/

 

■双務(そうむ)契約時の民法上の規定

双務契約とは、上述したように両者が義務と権利があるため公平な関係であるべきです。何か不足の事態が起きたときに不公平にならないよう、民法上の規定があるため、ご紹介します。

 

・危険負担

危険負担とは、売買等の双務契約が成立した後に、債務者の責任ではない事で目的物が滅失・毀損(きそん)等してしまった場合、そのリスクを当事者のいずれが負担するかという問題のことを言います。

滅失とは物理的に全てなくなることで、毀損とは一部の滅失や壊れることを言います。

例えば、不動産引き渡し直前に地震が発生し住宅が倒壊してしまったときなど、売主か買主、どちらがリスクを負うことになるのでしょうか?ケースによって異なるため、それぞれ解説します。

 

特定物に関する物権の設定または移転を目的とする双務契約の場合

不動産の所有権移転などがこれにあたります。契約後に目的物が「滅失」「毀損」したら、売主の責任ではない場合は買主(目的物引渡しにおける債権者)がリスクを負うことになり、代金の支払いを拒むことができません。

 

特定物に関する物権の設定または移転を目的とする双務契約が「停止条件付」である場合

「停止条件付」とは、契約時に「この条件が成就したら契約成立」とすることで締結段階では契約成立していない状態での契約のことです。この場合「滅失」した場合は債務者がリスクを負うことになり、売主は買主に代金を請求することができないことになります。ただし「毀損」した場合は債権者がリスクを負い、売主は毀損した物をそのまま渡し、買主は代金支払い義務を免れないことになります。

 

■債務を果たさない場合の対応方法

もし相手が債務を果たさない場合、どうなるのでしょうか?債務不履行が生じたときの対応やリスク回避する方法もあわせて解説します。

 

・債務不履行

債務を負っていながら、故意または過失によって債務を履行しないことを「債務不履行」と言います。債務不履行には3種類あります。

 

【債務不履行の種類】

・履行遅滞:債務の履行に遅れが生じること

・履行不能:債務の履行が不可能になること

・不完全履行:一応債務は履行されたものの約束した通りではなかったこと

 

・債務不履行が起こった場合の対応方法

債務不履行が生じた場合、損害賠償を請求したり契約解除を求めたりすることができます。これらに応じない場合は裁判所を通して強制執行をすることも可能です。

 

第415条で「債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。」と定められている通り、債務者の責任ではない理由があるときは損害賠償請求できない可能性もあります。

 

・同時履行の抗弁権

双務契約の場合であれば相手が債務を果たさない場合、自分も債務を履行しないという「同時履行の抗弁権」があります。

例えば、不動産取引で相手が代金を支払わない場合、不動産を引き渡す義務を拒むことができるのです。同時履行の抗弁権がある間は、期限を過ぎて債務を履行していなくても履行遅滞とはならず、損害賠償義務や相手方の契約解除権は発生しません。

 

・不動産取引における同時履行の流れ

不動産は高額なため、同時履行が確保されるかどうかは両者にとって大きな問題です。もし代金を支払っても所有権を移転してもらえなかったら何千万円という損失になってしまいます。この心配を解消するための流れをご紹介します。

 

【不動産売買時の一般的な流れ】

・新規融資の金融機関
↓(融資)
・買主
↓(代金支払い)
・売主
↓(借入金返済)
・既存融資の金融機関

 

これと同時に下記の登記を行います。

・既存の抵当権の抹消登記

・所有権移転登記

・新たな融資の抵当権設定登記

 

これらを同時に行うことで、売主と買主・それぞれの銀行が各々の権利を同時に行使できます。

 

 

【出典:https://www.photo-ac.com/

 

■債務と債権の相続について

債権は原則として相続対象になります。ただし、年金の受給権や養育費の請求権は相続対象とはなりません。

また相続人は債権だけを引き継ぐことはできず、債務も同時に相続する必要があります。

そのため債権と債務を整理した上で、相続するかどうかよく検討するといいでしょう。

■お困りの場合はプロにご相談を

債務と債権のちがいや債権・債務関係が発生する事例などについて説明しました。上述したように表裏一体の関係であるために、両者がかみ合わなくなればトラブルに発展することも稀ではありません。

「金銭を支払ったのに目的物を引き渡してくれない」「不動産所有権を移転したのに金銭が支払われない」などの問題が起こることもあるでしょう。そのようなときはプロに相談することをおすすめします。

双方で解決できない場合、問題が複雑化してしまう可能性があります。第三者に介入してもらうことで精神的負担を軽減しながらスムーズに進めることができるため、抱え込まないようにするといいでしょう。

 

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