こんにちは。ワケガイ編集部です。
共有名義の不動産を相続したものの、他の共有者が亡くなっており、その相続人が見当たらない。
こうした状況では、亡くなった方の持分だけが宙に浮いた状態となり、物件全体の管理や売却が進められず、残された共有者にとって深刻な足かせとなることがあります。
背景にあるのは、法律上「相続人が存在しない」と見なされる特殊なケースです。相続人が最初からいない場合だけでなく、放棄や相続権の剥奪によって、結果的に誰も承継しないままになることも少なくありません。
本記事では、こうした共有持分の相続人が不存在となるケースとその対応策、必要な法的手続きについてわかりやすく解説します。
目次
共有持分の相続人が不存在とはどういう状況?
共有持分の「相続人不存在」とは、共有不動産の持分を所有していた人が亡くなった際、持分を引き継ぐべき相続人が誰もいない状態を指します。
これは、法定相続人が最初から存在しないケースだけでなく、相続放棄や相続欠格・廃除によって、結果的に承継者がいなくなった場合も含まれます。
相続人が存在しなければ、故人の共有持分は名義を引き継ぐことができず、法的にも実務上も手つかずのまま残ることになります。
その結果、不動産全体の活用や処分が難しくなり、残された共有者の判断や行動にも制約が生じるのです。こうした事態を解消するには、相続財産管理人の選任など、特別な手続きを踏む必要があります。
本当に「相続人不存在」と言えるのはどういう状況までか?
「相続人がいない」と思っても、実際には民法上のルールに従い、順を追って確認する必要があります。感覚的に「誰もいなさそう」と感じても、法的にはまだ“相続人あり”と扱われることもあるのです。
法的に「相続人不存在」とされるには、以下のような条件を満たす必要があります。
- 配偶者、子、親、兄弟姉妹、その代襲者(孫、甥姪など)を含めても該当者がいない
- 相続人がいても、全員が相続放棄をしている
- 欠格や廃除などにより、法的に相続権を失っている
- 遺言による受遺者も存在しない
特別縁故者に該当する者もいない、あるいは分与が終わっている
これらを満たした上で、家庭裁判所に「相続人不存在の確認」を得て、相続財産管理人が選任されることではじめて、“法的に確定した”状態となります。
関連記事:実家を共有名義で相続するとトラブルに?共有不動産の持つリスクについて論考
共有持分の相続人が不存在となるケース
「相続人がいない」という状態は、特殊な例に思えるかもしれませんが、実は意外と身近に起こり得ます。たとえば、独身で子どももおらず、兄弟姉妹とも疎遠なまま亡くなったようなケースでは、誰も遺産を引き継がないまま共有持分が宙に浮いてしまうことがあるのです。
ここでは、相続人が不存在と判断される典型的なパターンを3つ紹介します。
- ケース①:配偶者・子・兄弟姉妹がいない場合(法定相続人が存在しない)
- ケース②:相続放棄により、結果的に誰も引き継がない
- ケース③:不正行為や遺言への干渉で相続権を失った
次項より、個別にみていきましょう。
ケース①:配偶者・子・兄弟姉妹がいない場合(法定相続人が存在しない)
最も単純でわかりやすいのが、法的に「相続できる立場の人が誰もいない」ケースです。
たとえば、配偶者が先立ち、子どももおらず、両親や祖父母もすでに他界。兄弟姉妹もいなければ、民法で定められた相続の順番(直系→兄弟姉妹→甥姪)に該当する人物が一人もいないことになります。
このような場合、共有持分を引き継ぐ人がおらず、持分がそのまま行き場を失ってしまいます。たとえ家族付き合いが希薄だったとしても、「誰もいない」という状態に気づかないまま時間が経過し、共有者や管理者が手を打てないまま放置されてしまうケースも少なくありません。
ケース②:相続放棄により、結果的に誰も引き継がない
法定相続人が存在していても、すべての相続人が「相続放棄」を選んだ場合、結果として相続人が誰もいないという状態が生じます。
たとえば「借金があることがわかっている」「相続してもメリットがないと感じている」「他の家族と関わりたくない」といった理由で放棄が選ばれることがあります。
相続放棄は、相続開始を知った日から3か月以内に家庭裁判所で手続きを行う必要がありますが、形式的な判断だけでなく、心理的な事情も含めて放棄されることが少なくありません。
このようにして誰も財産を引き継がない場合でも、共有持分は自動的に消えるわけではなく、名義が宙に浮いたままとなります。そのため、他の共有者にとっては名義変更も処分もできず、不動産の活用が事実上止まってしまうことになります。
ケース③:不正行為や遺言への干渉で相続権を失った
一見、相続人としての立場にある人がいても、その人が特定の行為をしたことで「相続権を失う」場合があります。これが、民法で定められた「相続欠格」や「相続廃除」によるケースです。
たとえば、被相続人を故意に傷つけたり、遺言の内容に不当に干渉したりした場合などには、法律上、自動的に相続権を失うことになります。また、被相続人が生前の行動に強い不信感を抱き、家庭裁判所を通じて廃除の申し立てを行っていた場合も同様です。
こうして、名目上は「相続人がいるように見えても」、実際には誰も承継できない状態になることがあるのです。事前に気づかずに時間が経てば、その共有持分は誰にも引き継がれないまま、残された人々に管理上の大きな支障を残します。
相続人不存在の共有持分は「誰に」帰属する?
共有持分を持っていた人が亡くなり、その相続人がいないと判断された場合、その持分が誰に帰属するのかは状況によって異なります。
「遺言があるかどうか」「生前にどのような人間関係があったか」などによって、承継先が変わってくるのです。
ここでは、相続人が不存在の場合に共有持分が誰に引き継がれるのかについて、法的なルールに沿って確認していきます。
【遺言がある場合】指定された受遺者に帰属する
まず、故人が生前に遺言書を残していた場合は、その内容が最優先されます。
たとえ法定相続人がいなくても、遺言で「共有持分を○○さんに遺贈する」と明記されていれば、その人が持分を承継できます。
このように、遺言による遺贈は「相続」とは別の仕組みであり、法律上の相続人でなくても財産を受け取ることが可能です。
そのため、独身で相続人がいないと自覚していた方でも、生前に信頼できる人への遺贈を準備しておくことで、共有者や関係者が後々困らないようにすることができます。
関連記事:共有持分を遺言書で相続させることは可能?効力や手続きの流れを詳しく紹介
【特別縁故者が認められた場合】その人物に分与する
遺言がない場合でも、「特別縁故者」として家庭裁判所に認定されれば、共有持分を受け取れる可能性があります。特別縁故者とは、亡くなった人と生前に特別な関係性があった人で、具体的には次のような方が該当します。
- 生計を共にしていた内縁の配偶者
- 長年の療養看護を続けていた知人や親族
- その他、故人から金銭的・精神的支援を受けていた人物
家庭裁判所に申し立てを行い、事情が認められれば、共有持分を分与されることがあります。ただし、あくまでも「裁判所の判断による」ため、必ずしも認められるとは限りません。申立ての内容や証拠の提出が重要になります。
【上記どちらでもない場合】国庫に帰属
遺言による受遺者もおらず、特別縁故者として認定される人もいない場合、故人の共有持分は最終的に国のもの(国庫)になります。この帰属は自動的に発生するもので、誰かが希望して取得できるわけではありません。
一度国庫に帰属してしまうと、その持分は登記上も国の名義となり、他の共有者が不動産を売却・利用する際に大きな障害となることがあります。
そのため、相続人がいないとわかった時点で、できるだけ早く相続財産管理人を選任し、特別縁故者としての申立てを検討することが、残された共有者にとっても重要な対応となります。
共有者が「相続人不存在のまま死亡した」ときに必要な手続き
仮に、相続人が不存在の場合のまま死亡してしまった場合、以下の手続きが必要です。
- 手順①:相続財産管理人の選出
- 手順②:相続人の捜索
- 手順③:特別縁故者の確認
- 手順④:相続人がいない場合は他の共有者に帰属させる
それぞれ個別に解説します。
手順①:相続財産管理人を選出する
最初のステップとして、亡くなった共有者の持分に関わる財産の管理を目的として、家庭裁判所による相続財産管理人の選任が必要となります。
相続財産管理人は、故人の遺産全体を管理し、必要な債務の支払い、特別縁故者への財産分与などを行い、残余財産を適切に分配する役割を担います。この申立ては、共有不動産を持つ共有者を含む利害関係人や検察官によって行われ、選任された管理人は官報に公告されます。
手順②:相続人を捜索してみる
相続人が明らかであっても住所不明や連絡不通の場合があり、その捜索は遺産分割において不可欠です。相続人全員の参加が必要な遺産分割協議を実施するためには、まず相続人の現住所を確認することが求められます。
この際、戸籍謄本や附票の確認が有効で、相続人の本籍地を管轄する市区町村役場からこれらの文書を取得します。さらに、連絡先が不明の場合は、最終確認されている住所に手紙を送付することも1つの手段です。
手紙が宛先不明で返送されるか、受取拒否されるかによって、相続人が現在その住所に住んでいるかどうかの手掛かりを得られるでしょう。
関連記事:遺産分割協議書とは?共有持分を遺言書なしで相続する場合に必要な理由
手順③:特別縁故者を確認する
相続過程において、被相続人と経済的または情緒的に密接な関係にあった者は、特別縁故者として認識されることがあります。例えば、以下のような人。
- 生計を共にしていた者: 被相続人と共同生活を営んでいた内縁の配偶者や、実質的な家族関係にあった養子・養親など。
- 療養看護に尽力した者: 被相続人の最期の時期に、日常生活の支援や看護に尽力した個人。
- その他密接な関係者: 被相続人と親密な友人や知人、被相続人から遺産分与の意向が示された者。
職業上の介護者や看護師は、そのサービスが職務によるものであるため、通常、特別縁故者には該当しない点に注意が必要です。
相続人が不存在のとき、登記手続きは相続財産管理人が行う
相続人が不存在の場合、基本的には相続人不存在が確定した後、選任された相続財産管理人が、故人の共有持分に関する名義変更を行います。
この登記は、管理人が代理人として行う形式となり、「相続財産法人」の名義で登記がなされる場合もあります。申請書には、管理人の氏名・住所のほか、選任を証明する審判書の写しなどを添付し、法務局に提出します。
なお、登記簿上の故人の住所と、住民票などの実際の記録が異なる場合は、住所変更登記を先に済ませてから、相続登記を行う必要があります。
登記に必要な書類と登録免許税の目安
相続財産管理人による登記申請に際して、一般的に必要となる書類は以下のとおりです:
- 登記申請書
- 相続財産管理人選任の審判書(原本または謄本)
- 登記名義人(被相続人)の住民票除票または戸籍の附票
- 登記原因証明情報(管理人としての資格を示す文書)
- 固定資産評価証明書(登録免許税の算出に使用)
登録免許税は、固定資産税評価額に0.4%を乗じた金額が原則です。
また、審判書の取得や登記申請の際には、住民票や証明書類の発行手数料も別途かかるため、事前に確認しておくと安心です。
関連記事:共有持分の「登記費用」はいくら?計算方法や手続きについて解説
相続人がいない共有持分でお困りなら「ワケガイ」へご相談ください
当社(株式会社ネクスウィル)は、共有持分や訳あり不動産の買取に特化した「ワケガイ」というサービスを提供しています。
「相続人が見つからないために登記が進まない」「放置された共有持分があるせいで不動産全体が動かせない」といったお悩みをお持ちの方から、これまで多くのご相談をいただいてきました。
ワケガイでは、相続財産管理人の選任前後を問わず、共有持分の扱いに困っている不動産にも対応可能です。法務・相続分野に精通した専門家とも連携し、複雑な権利関係の調整にも取り組んでいます。
「この状態では売却できないのでは」とあきらめる前に、まずはお気軽に無料査定をご活用ください。
まとめ
共有持分の一部を所有していた方が亡くなり、その相続人が不存在だった場合、不動産全体の活用や売却が滞るリスクがあります。放置すれば、権利関係が複雑化し、後々さらに手がつけられなくなるおそれもあります。
そのため、早い段階で「相続人が本当にいないのか」を確認し、必要であれば相続財産管理人の選任や登記変更などの対応を進めておくことが大切です。
共有者間での将来的な処分計画も含めて、専門家と連携しながら現実的な道筋を立てることが、実務上も精神的にも負担を減らすことにつながります。
相続手続きを進められないまま時間が経過してしまう前に、可能な選択肢を整理し、具体的な一歩を踏み出しましょう。