袋地の不動産は法的制限があるため、「建て替えたい」と思った場合でも再建築することが難しい物件とされています。また、あらゆるデメリットから、住みづらかったり売却しづらかったりします。
そこで今回は、袋地のメリット・デメリットと再建築できない理由についてご紹介します。
さらに再建築するための方法や売却しやすくなる方法についてもあわせてお伝えしますので、袋地を所有している方はぜひ参考にしてください。
目次
■袋地とは
「袋地(ふくろち)」とは、どのような土地を指すのでしょうか?まずは袋地について説明いたします。
・袋地とは?
「袋地」とは、他の土地に囲まれていて自分の敷地からでは道路に出られない土地のことです。「無道路地」や「盲地(めくらじ)」と呼ばれることもあります。
袋地を囲んでいる周りの土地のことを「囲繞地(いにょうち)」と言います。
・準袋地も袋地と同じ扱い
池や沼・河川・海洋などを利用しないと道路などに出られない土地や、土地と公道の間に崖などによる著しい高低差がある土地のことを「準袋地」と言います。準袋地も袋地と同じ扱いになるため、ここではまとめて袋地としてご紹介いたします。
・なぜ袋地が存在するのか?
昔、建築基準法に準じた道路の整備がされないまま、ひとつの大きな土地を分割して売却や譲渡などを行ったことが多くの原因です。分割した内の中央の土地が、道路に接することなく袋地として存在しています。
■袋地での通行方法
袋地は周りが他人の土地に囲まれており、道路に接していないため、一見すると「通行不可」のように思えます。そこで、袋地での通行方法についてお伝えします。
・袋地の所有者には囲繞地を通る権利がある
民法では袋地の所有者に対し、このような権利が与えられています。
【民法210条】
1.他の土地に囲まれて公道に通じない土地の所有者は、公道に至るため、その土地を囲んでいる他の土地を通行することができる。
2.池沼、河川、水路もしくは海を通らなければ公道に至ることができないとき、又は崖があって土地と公道とに著しい高低差があるときも、前項と同様とする。
つまり、袋地の所有者は他の土地(囲繞地)を通って道路に出ることが法律的に認められている、ということです。このとき、囲繞地所有者の合意を得る必要はありません。
・囲繞地所有者に通行料を支払わなければいけない
袋地の所有者には「囲繞地通行権」があるため、他の土地を利用して通行することが可能です。しかし、そのためには囲繞地の所有者に通行料を支払う必要があります。条文は下記の通りです。
【民法第212条】
第210条の規定による通行権を有する者は、その通行する他の土地の損害に対して償金を支払わなければならない。ただし、通路の開設のために生じた損害に対するものを除き、一年ごとにその償金を支払うことができる。
金額は囲繞地所有者との話し合いによって決め、1年ごとにまとめて支払うことが一般的です。通行料を決める際には、地域の囲繞地通行権の通行料相場や近隣の駐車場相場を参考にして算出します。
–通行料を支払わないケース
原則として法律でも定められている通り、囲繞地所有者に通行料を支払う必要があるのですが、例外として支払わないケースがあります。
それは、分筆や共有物分割などによって袋地が発生した場合です。袋地から道路までの囲繞地通行権が発生することを理解した上で袋地をつくった、ということになるため、通行料が発生しません。ただし、話し合いによって通行料を支払う場合もあります。
また、昔から無償で使用している場合も、引き続き無償で通行することができます。この場合、「囲繞地通行権」ではなく「通行地役権」という解釈になり、口頭での合意という既成事実によって成立します。
–囲繞地通行権と通行地役権のちがいとは?
「通行地役権」とは、袋地の所有者が道路へ出るために他人が所有する土地を通行できる権利のことです。一見、「囲繞地通行権」と同じように思えますが、ちがいがあります。
まずは「合意の有無のちがい」です。囲繞地通行権は、囲繞地所有者の合意を得る必要はありませんが、地役通行権は契約や合意が必要です。
さらに、囲繞地通行権は原則として通行料が発生することに対して、地役通行権は契約によって通行料無料にすることもできます。また地役通行権は通行できる範囲や期限も契約によって自由に決めることが可能です。ただし、登記を行う必要があります。
・「通行料を支払ったから」と自由に囲繞地を使えるわけではない
「通行料を支払ったら、囲繞地を好きに使ってもいいのか」というと、そうではありません。下記の通り定められています。
【民法第211条】
通行の場所及び方法は、同条の規定による通行権を有する者のために必要であり、かつ他の土地のために損害が最も少ないものを選ばなければならない。
つまり、囲繞通行権が適用される範囲は定められており、できる限り囲繞地所有者への損害が少ない場所を通らなければいけない、ということです。
通行できる幅は、一般的に接道義務の広さである「2m」とされています。
■袋地のメリット・デメリット
袋地にはメリットもあればデメリットもあります。それぞれご紹介いたします。
・袋地のメリット
まずは袋地のメリットをお伝えします。
-1.人通り・車通りが少ない
袋地の近辺は、囲繞地住人や配達員・来客くらいしか通ることがないため、静かな住環境であることがメリットです。また道路に接していないことから車通りも少ないため、小さな子どもが家の前で遊んでいても比較的安心して見ていられるでしょう。
-2.固定資産税が低いケースがある
固定資産税は不動産の資産価値よって金額が異なります。袋地は不動産の評価額が低い場合が多いため、固定資産税も低くなる可能性があります。評価額が低いことは売却時にデメリットになりますが、納税額が低いという面を見ればメリットだと言えるでしょう。
・袋地のデメリット
続いて袋地のデメリットをお伝えします。
-1.囲繞地の住人に気をつかう
権利があり通行料を支払っていたとしても、他人の土地を使うことには気を遣うでしょう。なんらかのトラブルで囲繞地住人との関係性が悪化すれば、通行しづらくなることもあるかもしれません。
-2.火災などの非常時にリスクがある
道路に接していないため、火災や急病などの際に消防車や救急車などが入ってこられず、対応が遅くなってしまう可能性があります。
また住居に囲まれた袋地であれば、火災時に隣家へ延焼してしまうかもしれません。
-3.日当たりが悪い
建物が密集している袋地の場合、日当たりが悪い可能性があります。また場所によっては風通しなども悪く、洗濯や住居環境を保つことに不便さを感じるでしょう。
-4.空き巣被害リスクがある
袋地は人の目が届きにくく、空き巣が狙いやすい場合があります。防犯カメラや防犯対策をしっかり行う必要があるでしょう。
-5.再建築できない
袋地は再建築ができません。一度建物を解体してしまったら、新たに住居を建てることができないのです。「建て替える予定はないから大丈夫」と思っていても、火災や地震など思わぬ災害によって倒壊する可能性はゼロではありません。なぜ再建築ができないのか、のちほど詳しくお伝えします。
-6.売却しづらい
このように袋地はデメリットが多い土地です。そのため不動産としての価値が低く、売りに出しても買い手がつきづらくなっています。売れた場合でも、安い価格での売却となってしまうでしょう。袋地は同じエリアの整形地の価格の4割程度安くなると言われています。袋地を売却する方法については、のちほどご紹介いたします。
■袋地の不動産が再建築できない理由
袋地の不動産は接道義務を果たしていないため、再建築不可物件となってしまいます。
接道義務とは、建築基準法第43条の規定により、「建築物の敷地が4m以上の幅員を持つ道路に2m以上接しなければならない」とする義務のことです。
この義務を果たさない敷地は再建築することができません。袋地は道路にまったく接していないため建て替えができない、ということです。
■旗竿地も再建築不可となるケースがある
袋地と似た形の敷地で、「旗竿地(はたざおち)」というものがあります。
旗竿地とは、道路に接する間口が狭く、細長く延びる敷地の先に住居があり、周りを他人の土地に囲まれている袋地のような形状の土地のことです。土地の形が旗竿のように見えることから、「旗竿地」と呼ばれています。
接している道路が建築基準法で定められた道路であり、敷地が2m以上接しているのであれば、再建築が可能です。しかし、接している道路幅が2m未満であれば接道義務を果たしていないとし、袋地と同じ再建築不可物件となります。
■袋地の不動産を再建築する方法
袋地の不動産を再建築したい場合の対処法をご紹介します。
・通路敷地分を取得する
通路として使用している敷地分を取得して接道義務をクリアすれば、再建築可能となります。しかし、囲繞地所有者が通路敷地分の売却に対して合意しなければ成立しません。また土地購入代金や登記などの諸費用もかかるため、資金が必要になるでしょう。通路敷地分を取得する際は、道路と接する面が2m以上になるよう気をつけましょう。
・隣家と等価交換をする
等価交換とは、同じ面積の土地を交換することを言います。道路に接している2m以上の敷地と、自分が所有している袋地の一部を交換することで再建築ができるでしょう。隣家の合意が必要ですが、土地購入よりも資金がかからない方法です。
・隣家の土地の一部に通行地役権を設定する
隣家の土地の幅2m以上を通行地役権設定する方法です。通行地役権とは、上述したように双方の合意で契約することができます。合意があれば無償で設定することも可能です。
・リフォームをする
再建築不可物件は、一度解体してしまうと建てることができませんが、リフォームであれば可能です。「水回りの設備だけを新しいものに交換する」や「外壁だけを修繕する」というリフォームはもちろん、柱と梁だけを残して総取り替えをする、フルリフォームまで行うことができます。ただし、床面積が増えるリフォームは建築確認が必要になります。再建築不可物件は建築確認申請ができないため、増築はできません。
■袋地の不動産を売却する方法
袋地は不動産価値が低くなるため、売却が難しいと上述しました。袋地を売却しやすくする方法をご紹介します。
・隣地の所有者に売却する
袋地は一般の人にとって価値は低くなってしまいますが、隣家の人にとっての価値は変わってきます。「敷地を広くしたい」「増築したい」と考えていれば、袋地の敷地を買い取ってくれるかもしれません。囲繞地の所有者に打診してみるといいでしょう。
・リフォームをする
袋地は再建築できないが、リフォームなら可能だと上述しました。不動産売却時も古い状態で売りに出すより、綺麗な状態で売った方が買い手がつきやすくなるでしょう。フルリフォームで住居の内装や設備を新しくすれば、新築のような状態にすることが可能です。
・専門業者に買い取ってもらう
袋地が売却できない場合、買い取り専門の不動産業者に売却することもひとつの方法です。売り値は安くなってしまうかもしれませんが、そのまま所有していると固定資産税や維持費などがかかり負担は増えていく一方です。また個人に売ることとはちがい、ビジネスライクに進むため、スムーズな売却が実現するでしょう。
■囲繞地も売却しづらいケースがある
接道義務を果たしている囲繞地であれば、再建築不可にはなりません。しかし、袋地の所有者に対して「囲繞地通行権」が認められているため、自分の土地を他人が通行する、という事実が発生します。そのため、何の制約もない土地と比べると売却しづらく、場合によっては売却額が低くなることもあります。この場合も買い取り専門の不動産業者に相談するといいでしょう。
■袋地や囲繞地のことでお困りの場合は、プロに相談を
「袋地を所有しており、再建築できなくて困っている」「袋地・囲繞地が売却できない」など、お困りの場合はプロに頼ることをおすすめします。
袋地で無理に再建築してしまうと「違法建築」となってしまい、ローンが借りられないことはもちろん、是正指導をされてしまいます。適切な方法で最適な対処をするために、独断で行う前にプロに相談するといいでしょう。