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登記簿に記載されている土地のうち、約20%を占めるとされているのが「所有者不明土地」です。昨今、なにかと耳にする機会の多い空き家問題と同様に、「所有者不明土地」も珍しいものでは無くなってきています。
ゴミの不法投棄や草木が生い茂ってしまっているなど、土地の管理が行き届いていないことで近隣住民が実際に迷惑を被っていても、土地の所有者が分からないために対処できずに困ってしまうという事例も耳にします。
今回は、「所有者不明土地」の現状と日本全国で支障になっている事例を具体的に紹介します。
目次
「所有者不明土地」とは
「所有者不明土地」とは、国土交通省「所有者不明土地を取り巻く状況と課題について」の定義によると、「不動産登記簿等の所有者台帳により、所有者が直ちに判明しない、又は判明しても所有者に連絡がつかない土地」を指します。
文字通り「所有者が誰だかはっきりしない土地」のことですが、より詳しくは以下のような状況のものが当てはまります。
- 所有者は判明しているが転居してしまっており、連絡先が不明なもの
- 土地の名義人が亡くなり、登記されないまま相続されてしまった。さらに、それが数代に渡り続いたことで相続人が多くなり、全員に連絡することができないもの
- 所有者を探すための台帳が更新されていない等の理由により、所有者(またはその相続人)の特定を速やかに行うことが困難なもの
- 所有者を探すための台帳に、土地の全ての共有者の氏名が記載されていないもの
法務省「不動産登記簿における相続未了土地調査」によると、全国で10の地点に分散する約10万筆の土地のうち、最終登記から既に50年以上が経過した土地の比率が地域によって異なっています。
具体的には、大都市圏ではその割合が6.6%なのに対し、大都市圏外では26.6%と、後者の方が明らかに高いことが確認されています。
さらに、国土交通省「所有者不明土地実態把握の状況について」によれば、最後のの登記日からの経過年数が多くなるにつれ、不動産登記簿での所有者の所在が特定しづらくなる傾向が見られます。
例えば、登記後の0~29年ではその割合が21%でありますが、70~89年が経過した土地では、なんと79%にも昇ります。
所有者不明土地が増加している背景
2017年に所有者不明土地問題研究会が発表したデータによれば、2016年の時点で、所有者が特定できない土地の面積は、九州の土地面積(約367万ha)を上回るとの推計が出されています。
さらに、我が国の高齢化が進行する中、この問題は今後もさらに深刻化すると見られており、何も手を打たなければ、2040年にはその面積が北海道全体(約720万ha)と同程度まで拡大する可能性があると指摘されています。
この所有者不明土地がこれほどの規模に拡大してしまった背景には、いくつかの複雑な要因が絡み合っていますが、以下の3点が主な原因として考えられています。
①:社会構造の変化
近年、人口の減少、高齢化の進行、そして都市部への人口集中といった社会構造の変化が進んでいます。これに伴い、かつては強固であった血縁や地縁のつながりが弱化してきました。特に地方では、土地を「貴重な資産」としての認識や、それを活用するニーズが減少してきているといえます。
国土交通省の令和2年度「土地に対する国民の意識調査」によれば、「土地は預貯金や株式に比べて有利な資産と感じるか」との問いに対して、21.5%の人が「そう思う」と回答。一方、27.3%が「そうは思わない」と回答し、31.2%は「どちらともいえない」と答えました。
これらのデータから、土地を価値ある資産と捉える人々の割合が以前よりも減少していることが確認できます。
関連記事:「所有者不明土地」の主な課題とは?注目すべき3点を解説
②:相続登記の申請が義務ではない
土地の相続時、登記の申請が義務付けられていない現行制度のもと、特に直ちに登記する必要性を感じないケースが多く、結果として土地が放置される状況が生じています。時間の経過とともに、代々の相続で相続人が増え、所有者が不明瞭になることが増えていきました。
この状況を受けて、相続登記を義務化する動きが現れました。令和3年4月21日に「民法等の一部を改正する法律」と「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」が成立し、令和6年4月から施行予定となっています。
③:土地所有者の探索にかかる労力が大きい
土地の所有者を特定するための手続き、戸籍の収集や住民票の取得、現地調査などは、相当な時間とコストがかかります。特に、複数人が共有する土地の場合、遺産分割を経ずに相続が繰り返されると、共有者の数は増加し、それに伴う手間やコストも増大します。
多数の共有者が存在する場合、土地の管理や利用の合意を取ることは難しく、所在不明の共有者が増えるとその困難さはさらに増します。結果的に、土地が管理されず放置されるケースが増えています。
支障となっている事例
土地の所有者が不明瞭になる要因は多岐にわたります。その結果、所有者不明の土地の売買や利用が困難となるばかりか、所有者の特定には膨大な手間やコストが掛かる問題が浮き彫りになっています。
ここで、国土交通省「所有者不明土地を取り巻く状況と課題について」より、全国で支障となっている事例をいくつか具体的に紹介します。
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①:相続人が特定できなかったケース
- 一般国道新設事業 のために用地交渉を開始。
- 土地の名義人が明治生まれの女性(故人)のまま相続登記がされていなかった。
- 相続調査の結果、法定相続人が148名もいることが判明。
- 中には戸籍が現存しない人や、海外移住後に死亡したためその遺族を法定相続人として特定することができない人もおり、133名に対して面会、郵送による協議を計180回も行ったものの、すべての法定相続人を特定することはできなかった。
- 多数の法定相続人に対して任意協議と収用手続きを実施した結果、土地の取得に約3年間を要することとなった。
②:相続人が膨大な人数となるケース
- 河川改良事業のため、約560㎡の墓地の用地交渉を開始。
- 登記名義人が約40名の共有、かつ最終登記が昭和33年であり、その後の相続登記がされていなかったために多数の相続人探索を要した。
- 相続調査の結果、相続人は計242名いることが判明したが、このうちの3名が所在不明の用地の取得が困難となってしまった。
- 資料発表当時、用地交渉開始から既に1年10ヶ月が経過していたが未解決。所在不明者の探索を継続しながら解決方法の検討を続けることとなった。
③:登記名義人が解散した法人であるケース
- 急傾斜地崩壊対策事業のために5,280㎡の山林の使用貸借を試みるも、登記名義人が既に解散した3つの法人であることが判明。
- 最終登記日がそれぞれ昭和55・57年と平成7年で、会社解散時の精算で処理されずに法的に放置されたままであったため、所有者が不明となった。
- 裁判所に申し立てるなどの手法が考えられるものの、費用・手続き上の負担から資料発表当時は未だ解決方法を検討中で事業の着手は困難となってしまった。
④:方針を立てることができないケース
- 最終的には公園として整備、当面は広場等として利用の意向がある約18haの土地について、地権者約170名のうち40名ほどの相続登記がされていないことが判明。
- 暫定的に広場として利用していきたいものの、所有者が多数不明のため具体的な樹木の伐採などの整備を行う方針を立てることができず、景観の悪化やゴミの不法投棄などの2次的被害も発生してしまっている。
⑤:廃棄物の処分ができないケース
- 土地所有者の現住所が不明となっている土地に大量の家電製品等が投棄されている。
- 所有者に確認が取れないため、不法投棄なのか保管をしているのか確定することができず、自治体側も処分することができない。
- 廃棄物自体は増え続けてしまっているが、現状差し迫った危険があるわけではないため行政代執行による対応をとることは困難とされ、資料発表時は警察による定期的な不法投棄パトロールを行うという対応のみに留まってしまっている。
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「土地の所有者が分からない」という事態は、土地利用の停滞や取引の不活性、税金の未納といった問題だけでなく、土地のメンテナンスが行われないことから、放置された土地が荒れ、不法投棄が増加。結果として獣害や治安の悪化などの問題が生じるケースも少なくありません。
これらの事例を通じて感じる共通点は、所有者の特定や土地の活用に向けた取り組みに直接反対する人は少ないものの、時が経つことで解決が難しくなり、高額なコストが発生しているという現状です。
「土地を所有する」ことへの負担感が強い現状
国や自治体は所有者不明土地問題を深刻に受け止め、増加の歯止めをかけるべく法改正や政策を進めています。しかし、個人の視点では、土地の所有や管理が「重荷」と感じられる意識が根付いており、今後の相続問題に対して早急に取り組むべきとの認識はあまり高まっていないようです。
実際に、国土交通省 「令和2年度『土地問題に関する国民の意識調査』の概要」からもそのような現状を読み取れるでしょう。
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■「未利用地を保有することで負担を感じている、又は感じると思うこと」についての回答
- 「草刈り等の管理作業に負担を感じている、または感じると思う」→56.4%
- 「税金や管理費用の金銭的な負担を感じている、または感じると思う」→40.0%
■「(居住も利用もしておらず、誰も管理を行っていない土地を所有している人に対して)
なぜ管理を行っていないのか」についての回答
- 「土地の管理は必要ない(しなくても問題にならない)と思っているため」→51.6%
- 「草刈り等の管理作業に負担を感じるため」→32.3%
- 「遠方にあり、わざわざ行くことに負担を感じるため」 →29.0%
■「現在または将来の土地や住宅の相続について対応しているか」についての回答
- 「何も対応していない」→58.3%
- 「親や家族との話し合いや専門家等との検討を行っている」→19.6%
(※人口規模別にみると「何も対応していない」という回答は人口10万人以上の都市で割合が高い。 )
■「(相続について何も対応していないと答えた人に対して)何も対応していない理由」についての回答
- 「時期尚早だと思っているから」→44.4%
- 「特に理由はない」→27.8%
- 「相続制度や手続のことが分からないから」→16.9%
(※人口規模別にみると「相続制度や手続のことが分からないから」という回答は人口20万人以上の都市で高くなっている。)
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まとめ
以上の現状を踏まえると、個人レベルにおいては「いざ土地の所有者が亡くなってしまった時にどうすれば良いのか分からない」という状況に陥ってしまうことのないように、日頃から家族・親族・関係者間で現在や将来の土地の所有について相談・話し合いをしておくことが求められるといえるのではないでしょうか。
相続の手続きや土地の管理などについて、「よく分からない・面倒に感じるから何となく放置してそのまま歳月が流れてしまった」という事態に陥らないよう、プロの手を借りることも選択肢として持っておくことも求めましょう。
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<参考>(※URL最終閲覧2024年1月24日)
国土交通省 「所有者不明土地を取り巻く状況と課題について」https://www.mlit.go.jp/common/001201306.pdf
法務省「不動産登記簿における相続登記未了土地調査について」https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00291.html
国土交通省 「所有者不明土地実態把握の状況について」https://www.mlit.go.jp/common/001201304.pdf
国土交通省 「令和2年度『土地問題に関する国民の意識調査』の概要」https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/content/001408334.pdf
大和ハウス工業 「『所有者不明土地』とは?~増加する理由と問題点について~」https://www.daiwahouse.co.jp/tochikatsu/souken/scolumn/sclm341-2.html
司法書士法人 不動産名義変更手続センター「【令和6年4月1日より開始】相続登記の義務化(今後どうなる?)」https://www.meigi-henkou.jp/16130337523182
朝日新聞社運営のポータルサイト 相続会議「相続登記の申請義務化が決定2024年までに施行される制度を解説」https://souzoku.asahi.com/article/14336499
運営団体 株式会社ネクスウィル 2019年1月29日設立。訳あり不動産の買取を行う不動産会社。相続やペアローンによる共有持分、空き家、再建築不可物件、借地、底地など、権利関係が複雑な不動産を買い取り、法的知識や専門知識を以って、再度市場に流通させている。 |