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遺産相続で不動産を取得した場合、承継時の状況によっては「土地と建物だけ名義人が異なる」というケースは往々にして存在します。人によっては「すぐに売却して現金化したいが、できるかどうかわからない」という方もいらっしゃるでしょう。
そこで本記事では、土地と建物の名義が異なる物件について、具体的な売却方法や想定されるケースごとの対応方法を解説します。所有物件の取扱いについてお悩みの方は、ぜひお役立てください。
目次
土地と建物の名義が異なる物件の売却方法
土地と建物の名義が異なる物件の売却方法としては、以下のようなものがあります。
- 名義を揃えてから売却する
- それぞれを別々に売却する
- 建物・土地を「同時売却」する
それぞれについて、個別にみていきましょう。
名義を揃えてから売却する
土地と建物の名義が異なる場合の一般的な売却手段としています。土地か建物のどちらかを購入し、名義を一元化する手続きのこと。
これにより、売却を検討した際、買主は土地と建物の全権利を得られ、権利関係の混乱を心配する必要がなくなります。
それぞれを別々に売却する
土地と建物の名義が違うからといって、売却が不可能だと考えている方もいらっしゃるでしょう。しかし、土地と建物の権利は分割されているため、各所有者が個別に売却可能です。
個別の売却は、基本的に双方の同意は不要です。しかしながら、実際に名義が違う土地と建物が個別に売却されることはほとんどありません。
建物だけを取得した場合、敷地が賃貸の場合、土地の所有者から明渡しの請求を受ける可能性があります。逆に、賃貸になっている土地だけを取得しても、自由に土地を利用できないという状況になりかねないでしょう。
親子や夫婦間などで土地と建物の名義が違い、賃貸となっている場合、売却後の問題が発生する可能性があります。そのため、個別の売却は稀といえます。
それでも名義が違うまま売却したい場合、法律に詳しい専門家に相談しましょう。
建物・土地を「同時売却」する
土地や建物を購入し名義を一致させるためには資金が必要となります。しかし、その資金を集めるのが難しい場合もあります。そのような場合は、双方が売却意向を確認した上での「同時売却」が選択肢となります。
名義を一致させる売却方法と異なる点は、買主が土地と建物について2つの契約を結ぶこと。各売買契約は「他方の契約が成立した時点で初めて有効になる」という特殊な関係になります。
しかし、この方法では手続きが複雑になる点がネック。不適切な手続きにより売買契約が正しく成立せず、問題が発生する可能性があります。
もし同時売却を検討しているなら、同時売却の経験がある不動産会社に相談することをおすすめします。
土地と建物の名義を揃える手順
土地と建物の名義を揃える手順は、以下のとおりです。
- 手順①:名義変更に関する合意形成
- 手順②:(必要なら)買取金額について交渉する
- 手順③:所有権移転登記を行う
次項より、具体的に解説します。
手順①:名義変更に関する合意形成
まず、双方が名義を一致させることについて合意を得ます。この段階で、どちらの名義に一致させるかを話し合います。親子間であれば、子供の名義で一致させることが多いですが、こちらについてはケースバイケースです。
名義を売却を主導する人にしておくと、今後の手続きがスムーズに進むでしょう。
手順②:(必要なら)買取金額について交渉する
金銭のやり取りなしに不動産の名義を変更すると、贈与とみなされ、贈与税が課税されます。そのため、親子間や夫婦間でも不動産売買のように買取価格を設定し、取引を行う必要があります。
ただし、単にお金のやり取りがあれば良いわけではありません。不動産売買を適正価格以下で行うと「みなし贈与」と見なされるリスクもあります。
「大幅に低い」という基準は曖昧ですが、目安として市場価格の80%があります。それ以下で取引すると「みなし贈与」とみなされる可能性が高まりますので、留意しましょう。
手順③:所有権移転登記を行う
契約後には、代金の決済と所有権の移転登記を行います。事前に買取を確定していれば、契約書を作成しましょう。法的には口頭契約でも成立しますが、後日のトラブルを避けるためにも、書面で契約するのが通例。
代金の決済と登記は同時に行う必要があるため、決済日には必要な書類をすべて準備しておくことが大切です。
仲介業者を利用せずに売買をすると、後日、物件の欠陥に関するトラブルに対応できない可能性があります。特に親族でない他人同士の取引では、仲介業者に依頼しましょう。
土地と建物の名義が異なる物件のケース別の対処方法
ここからは、想定されるケース別に土地と建物の名義が異なる物件の対処法を解説します。例えば、以下のような事態が考えられるでしょう。
- 住宅ローンの残債がある
- 片方の名義人が行方不明
- 片方の名義人が認知症
- 建物に借地権がついている
次項より、個別に説明します。
住宅ローンの残債がある
住宅ローンの返済が未完の場合、金融機関との合意の下で名義変更が必要です。マイホームを取得する際、住宅ローンを利用すると、金融機関は通常、建物と同時にその建物が建つ土地にも抵当権を設定します。
建物と名義が異なるにもかかわらず、土地を抵当に入れる場合、土地の名義人を「物上保証人」と呼びます。この方法は親の土地に子が建物を建てる場合などによく利用されます。
「抵当」とは借金の担保ということで、抵当権が設定された土地や建物の名義を勝手に変更することは通常、ローンの借入では禁止されています。
もし名義を勝手に変更してしまった場合、「ローン契約違反」となり、期限の利益(分割払いが可能な利益)を失う可能性があります。加えて、残債を一括返済する要求を受けるリスクも。
そのため、土地または建物のいずれかの所有者が他方を買い取りたい場合などは、必ず事前に金融機関に相談するようにしましょう
具体的な処理方法としては以下のようなものがあります。
- 残債が少額であれば完済し、抵当権を抹消して金融機関との関連性を解消する。
- 債務者ではない当事者が債務者所有の物件を買い取る場合、金融機関が許可すれば、借り換えなどで債務者を変更する。
所有者を変更しても自動的に債務者が変わるわけではないため、借り換えで債務者を変更する場合などは、新たな債務者の信用状況を金融機関が審査する必要があります。
金融機関が融資を行う場合、基本的には債務者が所有権や持分を保有していることが条件とされることが多いため、当事者が思ったとおりの名義変更ができない場合もある点には留意しましょう。
片方の名義人が行方不明
土地や建物の名義人の一方が行方不明や連絡不能となっているケースでは、家庭裁判所に申立てを行い、「不在者財産管理人」を任命する方法があります。
不在者財産管理人は、民法第25条で「住所や居所を去り、財産管理人を置かなかった人について、特定の申立人が家庭裁判所に申立てを行い、その不在の間の管理人を任命し、不在者の財産を適切に保つ」と定められています。
この制度では、「不在者の財産を守ること」が本来の目的であるという点に注意が必要です。
そのため、周囲の人々が不在者の財産を買い取りたいと考え、不在者財産管理人を任命してもらったとしても、家庭裁判所が買い取りを認めない可能性もあります。
加えて、裁判所に納める予納金など、数十万円の費用を申立人が負担しなければならない点についても把握しておきましょう。
片方の名義人が認知症
土地・建物の名義人が認知症で判断能力が衰えている場合、家庭裁判所に申立てを行い、「成年後見人」を選任する方法があります。
しかし、成年後見人制度は、判断能力が衰えている本人(例えば認知症の患者)の財産を保護するためのものであり、親族や不動産売却を希望する人の意向通りに売却できるとは限らない点に注意が必要です。
特に、「成年被後見人(認知症等の本人)の居住用財産」の売却、あるいは売却に準ずる処分をする場合は、家庭裁判所の許可が必要となるため、厳格な対応が求められます。
成年後見制度の申立て手続きは煩雑であり、医師の鑑定が必要な場合などは、費用もまとまった金額(例えば20万円程度)が必要。また、家庭裁判所が後見人を選任すると、報酬が発生する可能性もあります(被後見人の財産により金額が異なります)。
そして、売却等の目的で成年後見人を選任した後も、原則として被後見人の死亡まで後見人は職務を継続しなければならない点も留意しましょう。
建物に借地権がついている
借地権(賃借権)が設定されている建物を売却する場合、地主と相談し、売却についての同意を得る必要があります。
他人の土地上に建てられた建物には、何らかの土地利用権が設定されており、利用権が「賃借権」である場合は、民法で以下のように規定されています。
『賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる。』引用:民法「第六百十二条」
地主自身に建物を買い取ってもらうことも可能ですが、いずれの場合も、まずは地主に相談する必要があります。この事を念頭に置いておきましょう。
まとめ
土地と建物の名義が異なる物件の取扱いについては、住宅ローンの残債、名義人の行方不明や認知症、借地権の有無など、それぞれの状況に応じて、金融機関との調整や不在者財産管理人や成年後見人の選任、地主との協議などが必要となります。
こういった手続きは法的な知識と経験が求められますので、一人で抱え込むことなく、専門家の助けを借りることも大切。一連の手続きは複雑であり、誤った手順は重大な法的リスクをもたらす可能性がありますので、外部専門家と連携しましょう。
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