共有持分は、単独の所有者だけの意向では利活用ができない不動産であるため、「所有自体がリスク」であるといえます。
その際に検討される問題解決の方法の1つが「所有権の移転」です。各共有者の持分を1つにまとめることで、売却やリフォームなどの運用が行いやすくなります。
ただし、不動産の所有権移転や名義変更などには、さまざまな法的手続きが伴うことが懸念点。これらの手続きや費用を理解し、適切に対応することは、共有持分の取扱いで損をしないためのポイントといえるでしょう。
そこで本記事では、「持分移転登記にどのような費用がかかるのか」を詳しく説明します。共有持分の移転登記を検討されている方は、ぜひお役立てください。
目次
共有持分の移転登記とは?
不動産が一人だけの名義(単有)でない場合、二人以上の名義で登記することを「共有」と状態となります。つまり、共有持分とは、それぞれが所有する権利の割合を示す言葉です。
共有持分移転登記は、共有持分が他人へ移行する際に名義を変更する手続きのこと。この登記を行えば、登記簿に記載されている共有者の名前を変更することが可能となります。
不動産の所有権が移行するときは「所有権移転登記」が必要です。不動産が共有名義であるときは、所有権移転登記に加えて「共有持分移転登記」が求められます。
単独で不動産を所有している場合は所有権移転登記が、共有名義であれば更に共有持分移転登記が求められると認識しましょう。
関連記事:持分移転登記とは?手続き方法や費用、リスクについて解説
共有持分の移転登記の種類
共有持分を移転する際の登記には、さまざまな種類が存在します。代表的なものをピックアップすると、以下のとおり。
- ①:所有権移転登記
- ②:建物表題登記
- ③:抵当権設定登記
- ④:地目変更登記
次項より、個別にみていきましょう。
①:所有権移転登記
所有権移転登記は、対象の不動産の所有権を初めて登記する際に行います。たとえば、新築の建物を建てたときなどが一般的でしょう。
所有権移転登記は、建物表題登記のように義務化されている訳ではありません。しかし、登記を行わないと、不動産の所有権を第三者に対して主張することが不可能となります。
そのため、所有権移転登記は「この不動産は間違いなく私のものである」と証明し、自由に使用・収益・処分できることを確認するための登記といえます。登記を行わないデメリットは大きいため、しっかりと登記を行いましょう。
所有権移転登記は権利に関する登記であるため、司法書士が代行してもらうのが一般的です。
②:建物表題登記
建物表題登記は、新築の建物を建てる。あるいは登記されていない建物を取得する際に必要となる登記です。建物表題登記では「建物の所在や用途」「構造」「床面積」などの物理的情報を登録します。
建物の所在地を記載する際は、住所ではなく土地の地番を記載することが必要。建物表題登記は、建物の所有者の「義務」とされています。
期限は建物の完成後または、建物を購入後1カ月以内です。登記を忘れると、10万円以下の過料が課せられますので留意しましょう
建物表題登記は通常、土地家屋調査士が代理で申請するのが一般的です。
③:抵当権設定登記
抵当権の設定登記は、住宅ローンやその他の融資を利用して不動産を購入する際に行う登記です。抵当権とは、借り手が債務不履行となった場合、設定された不動産を債権者が差し押さえ、先に優先的に弁済を受けることができる権利のこと。
「不動産を担保にローンを借りる」とは「不動産に抵当権を設定する」ことを意味し、抵当権設定登記を行うと、登記簿には様々な情報が記載されます。
登記は権利に関するものなので、通常は司法書士が代行するのが一般的です。特に、夫婦で共有名義のローンを組む場合、登記の申請は2つ必要となり、それに伴う司法書士への報酬も増える可能性があるため、事前に確認しておきましょう。
④:地目変更登記
地目変更登記とは、土地の利用目的が変わる際に行う登記のことです。例えば、農地を住宅地に変更する場合など。
土地の用途が変わった日から1ヵ月以内に申請しなければならず、違反した場合には罰金が課せられますので留意しましょう。
共有持分の移転登記で発生する費用
共有持分の移転登記で発生する費用としては、以下のようなものがあります。
- 登録免許税
- 司法書士への費用
- 土地調査士への報酬
- 必要書類の取得費
それぞれについて、個別にみていきましょう。
登録免許税
登録免許税は、不動産の登記に際して必ず発生する税金で、地方法務局に納めます。
計算方法は「固定資産税評価額 × 登録免許税率」で、評価額の確認は、自治体から届く固定資産税納税通知書などで行えます。
共有持分移転登記の場合、対象となるのは“移転する持分”のみ。例えば不動産全体の評価額が2,000万円で、移転するのが1/2の持分であれば、計算の対象はその半分、1,000万円です。
税率は登記の原因によって変わります。以下が代表的なケースです。
<建物の登記>
内容 | 税率 |
---|---|
所有権の保存 | 0.4% |
売買または競売による所有権の移転 | 2% |
相続または法人の合併による所有権の移転 | 0.4% |
その他の所有権の移転(贈与・交換・収用等) | 2% |
税率だけを見ると、相続とそれ以外とで負担に大きな差があります。たとえば、同じ1,000万円の評価額でも、売買なら20万円、相続なら4万円です。
なお、登録免許税のほかにも、取得原因に応じて別の税金が発生する場合があります(譲渡所得税、相続税、贈与税など)。
こうした登記外の費用は想定外になりがちで、「思ったよりお金がかかった」と感じる方も少なくありません。
ご自身のケースでどれくらいの税負担になるのか不安な場合は、税理士や司法書士へ早めに相談しましょう。
関連記事:共有持分にかかる税金一覧!計算方法や控除制度もセットで徹底解説
司法書士への費用
共有持分移転登記の手続きは自分で行うことも可能ですが、多くの場合、専門的な知識を持った司法書士に依頼します。
その費用は依頼先により異なりますが、概ね1件あたり5~20万円程度となっています。複数の共有持分移転を行う際には、各手続きごとに異なる費用が必要ですので留意しましょう。
土地調査士への報酬
共有持分の移転登記にあたっては、対象となる建物に「表題登記」がまだされていない場合、先にこの手続きを行う必要があります。
この表題登記は「権利」に関する登記とは異なり、土地家屋調査士の専門領域とされており、申請には測量や図面作成などの専門的な作業が含まれます。そのため、所有者自身が行うのは難しく、通常は土地家屋調査士に依頼することになります。報酬の相場は6万円~10万円程度ですが、物件の状況によって変動するため、事前に複数の専門家に相談しておくと安心です。
必要書類の取得費
共有持分移転登記の際には、必要な書類の取得費用も発生します。住民票や印鑑登録証明書などが該当。
特に、相続の場合は多くの戸籍謄本が必要となることがありますので、各種費用の取得費用も忘れずに考慮しましょう。
- 住民票:250~300円程度
- 印鑑登録証明書:250円~300円程度
- 戸籍謄本:450円程度
- 除籍謄本、改正原戸籍謄本:750円程度
共有持分の移転登記って絶対必要?登記しないリスクとは
共有持分の移転登記は「名義変更」にあたる手続きです。そのため、きちんと実施しなければ以下のようなリスクが発生します。
- リスク①:第三者に所有権を主張できない
- リスク②:後のトラブルや訴訟リスクが増す
- リスク③:税務処理や不動産取引に支障が出る
次項より、個別に解説します。
リスク①:第三者に所有権を主張できない
不動産の登記制度は、「誰がどの不動産をどれだけ所有しているのか」を公に示すためのものです。たとえ売買や贈与が成立していたとしても、登記をしていなければ、その権利を第三者に対して主張できません。
たとえば、自分が買い取ったつもりの共有持分が、登記上はまだ旧所有者のままであれば、その旧所有者が他人に勝手に売却した場合でも、あなたの権利は守られません。「契約書があるから大丈夫」と思っていても、登記がなければ法的な保護は限定的です。
リスク②:後のトラブルや訴訟リスクが増す
登記をしないまま時間が経つと、「この不動産は誰のものか」が曖昧な状態になり、後々のトラブルの原因になります。たとえば、他の共有者が知らないうちに第三者に持分を売却した場合、登記がなければ自分の主張が通りにくくなります。
また、相続や離婚などのタイミングで、口約束の取り決めが原因で紛争が発生することもあります。訴訟に発展すれば、費用や時間だけでなく、精神的な負担も大きくのしかかります。「あのとき登記しておけばよかった」と後悔する人が少なくないのが実情です。
リスク③:税務処理や不動産取引に支障が出る
不動産の名義が登記簿上と現実で一致していないと、税務手続きが複雑になります。固定資産税の通知が旧所有者に届き続けたり、譲渡所得税の申告で必要な証明書がそろわなかったりといった形で支障が出るのです。
また、売却を検討する際には、登記を済ませていないと「まず登記からやり直して」と買主に言われ、時間と費用の両面で負担が発生することになります。不動産の活用や処分をスムーズに行うためにも、早めの登記は欠かせません。
共有持分の移転登記を自分で行う手順
すべての書類準備や計算、申請までを自力で行う必要があるものの、司法書士に依頼せず、自分で登記を行うことも可能です。
ここでは基本的な3つのステップに分けて、実務の流れをご紹介します。
- 手順①:必要書類を揃える
- 手順②:登録免許税を計算・納付する
- 手順③:法務局に登記申請する
次項より、個別にみていきましょう。
手順①:必要書類を揃える
登記の根拠となる「登記原因証明情報」は、登記申請時に必ず添付しなければならない重要書類です。これは、どのような事情で持分が移転したのかを法務局に対して明らかにする役割を果たします。
不備があると登記が却下されたり、補正を求められる可能性があるため、記載内容や書式にも十分注意が必要です。
持分移転登記別の代表的な添付書類は、以下のとおりです。
<ケース別の必要書類>
登記原因 | 必要書類の例 |
売買 |
|
贈与 |
|
相続 |
|
財産分与 |
|
登記原因証明情報は登記申請の根拠となるため、不備や不足があると受理されない可能性があります。記載内容や書類形式に問題がないか、事前にチェックしておくことが重要です。
手順②:登録免許税を計算・納付する
費用面については前述のとおりですが、登記を自力で行う場合でも登録免許税は必須です。金額を正しく計算し、必要な分の収入印紙を法務局または郵便局などで購入し、登記申請書に貼り付けて納付します。
このステップでミスがあると受付自体ができなくなるため、税率の適用根拠や評価額の確認は慎重に行いましょう。
手順③:法務局に登記申請する
書類が揃い、登録免許税も納付できたら、管轄の法務局に申請します。原則は窓口持参または郵送による受付で、申請書類一式に不備がないかが審査されます。
なお、登記は「通ったら終わり」ではなく、完了後に登記完了証や新しい登記識別情報を受け取るまでが手続きです。
登記内容や記載ミスによる補正通知が来るケースもあるため、申請後もしばらくは連絡が取れる状態にしておくと安心です。
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まとめ
共有持分の移転登記には、登記原因や方法に応じて多様な費用がかかります。
特に、固定資産税評価額を基準とした登録免許税は金額が大きくなりやすく、加えて税務上の課税(譲渡所得税や贈与税など)が発生するケースもあります。
登記を専門家に依頼する場合は司法書士への報酬も必要ですが、知識がないまま自力で手続きを進めると、申請ミスや補正によってかえって時間や費用がかさむこともあります。
費用を正しく見積もるには、登記原因の整理と、必要な専門家への早めの相談が大切です。
後戻りのできない登記手続きだからこそ、見落としを防ぎ、現実的な範囲で負担を抑える形で進めていきましょう。