
これまでの民法では「瑕疵担保責任」が規定されていましたが、2020年の改正と共に廃止となりました。そこで瑕疵担保責任に代わって導入されたものが「契約不適合責任」です。
今回は、なぜ「瑕疵担保責任」が廃止されたのか、そして新しく導入された「契約不適合責任」とはどのような権利なのかをわかりやすく解説します。
今後、不動産取引をする予定がある方や、近年不動産購入をした方はぜひご覧ください。
目次
■従来の民法「瑕疵担保責任」とは?
まず、これまでの民法で定められていた「瑕疵担保責任」について説明します。
・「瑕疵」とは?
瑕疵とは、傷や欠点のことを指します。他、法律上なんらかの欠陥がある場合や意思表示に詐欺あるいは脅迫などの事由がある場合も「瑕疵」と言います。
・「瑕疵担保責任」とは?
瑕疵担保責任とは、傷物や欠陥品を売ったり作ったりしたときに負うことになる責任のことです。契約時に買主が把握できていなかった欠陥があり、後日発覚すると、売主は「瑕疵担保責任」を負わねばなりません。住宅の場合で言うと、雨漏りやシロアリなどのトラブルが典型です。
・「瑕疵担保責任」が発生すると
契約後に瑕疵が発覚すると、売主は瑕疵担保責任を負うことになります。買主は売主に対して「解除」または「損害賠償請求」が可能とされてきました。
■新しく導入された「契約不適合責任」とは?
2020年の改正によって、「瑕疵担保責任」は「契約不適合責任」へと変わりました。ここでは「契約不適合責任」について解説します。
・「契約不適合」とは?
改正民法の新たな用語である「契約不適合」とは、民法562条1項によって「種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないもの」とされています。用語は変更となりましたが、実質的な内容については変わらないとされています。
・「契約不適合責任」とは?
契約不適合責任とは、「売買の対象物が契約目的に合致していないときに売主に発生する責任」です。つまり、目的に合っていなければ責任が発生します。「目的に合っているかどうか」という判断は、売買契約締結の経緯などを考慮して判断されます。
・「契約不適合責任」が発生すると
契約不適合責任が発生すると、買主は売主に対してこのような請求をすることができます。
-1.追完請求
追完請求とは、引き渡された物が種類や品質または数量において契約不適合であるときに、買主が売主に対し、目的物の修補や代替物の引渡し、または不足分の引渡しを請求することです。例えば、雨漏りがする住宅であればこれを修繕するよう請求することができます。
-2.代金減額請求
追完請求しても応えてもらえない場合、買主は売主へ問題の程度に応じて代金減額請求が可能です。代金減額請求をする場合は、それより先に「追完請求」を行う必要があります。
ただし、下記の場合は追完請求を行わずに代金減額請求ができます。
【すぐに代金減額請求ができるケース】
1.履行の追完が不可能な場合
2.売主が履行の追完を拒絶したとき
3.契約の性質や、当事者の意思表示によって一定の期間内に履行しなければ契約の目的が達成されない場合で、その期間を経過しているとき
4.その他、買主が催促しても売主から追完を受ける見込みがないとき
-3.損害賠償
引き渡されたものの欠陥によって買主が損害を受けた場合、買主は売主へ損害賠償請求ができます。ただし、損害賠償請求するためには、買主が欠陥などについて「知っていた」事実が必要です。例えば、雨漏りがあることを知っていながら隠ぺいして売却した場合、売主の故意や過失があったとして損害賠償金を求めることができます。
-4.催告解除
催告解除とは、当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないとき、契約解除ができることです。
契約不適合の場合、契約解除ができるものの、そのためには相当期間を設けなくてはいけません。そして期間内に履行が行われない場合にはじめて解除ができます。解除が有効となれば、支払い済みの代金を返還してもらうことが可能です。
-5.無催告解除
催告をしても契約の履行が不可能な場合や、売主が契約に従った履行を明確に拒絶している場合などには、買主は催告なしに解除することができます。例えば、購入した物件に契約不適合があり修繕を求めたものの「修繕に応じない」とされた場合、買主は催告なしに契約解除ができます。
・「契約不適合責任」が発生しないケース
たとえ住宅が雨漏りをしていたとしても、契約不適合責任が発生しないケースがあります。それは、契約書に「雨漏りがします」と書かれてあり、買主も同意した上で購入した場合です。つまり、「契約書への記載内容」が重要なポイントとなるため、これから不動産購入をお考えの方はきちんと契約書を確認するようにしましょう。
■法改正された理由
法改正された理由は、「瑕疵」から「契約不適合」に変わり、担保責任の法的性質に関する考え方が変わったことにあります。瑕疵担保責任の内容も「損害賠償請求」と「解除」しかなく、さらに「解除は契約目的を達成できない場合に限られる」など、買主にとって納得のいく結果にならないことも往々にしてありました。
契約不適合責任は、一般の人にもわかりやすく、かつ取引の実情にマッチできるよう改正されたのです。瑕疵担保責任よりも買主が有利に変更されている点が多々あることも特徴です。
■瑕疵担保責任と契約不適合責任のちがい
瑕疵担保責任と契約不適合責任のちがいについて説明します。
・買主に認められる権利内容がちがう
瑕疵担保責任の場合、瑕疵が認められても、買主ができることは「解除」と「損害賠償請求」だけでした。一方、契約不適合責任では「追完請求」や「代金減額請求」もできるようになり、権利の幅が広げられたと言えます。
・契約解除の内容がちがう
瑕疵担保責任の場合、解除は「目的を達成できない場合」に限定されていましたが、瑕疵担保責任で解除ができないのは「不適合が軽微な場合」のみとなっています。
・不適合発生の期間がちがう
瑕疵担保責任の場合、「契約時に存在した瑕疵」にしか適用されませんでした。しかし、現実には契約をした後から引き渡しまでの間に傷や欠陥が生じる場合もあります。そこで、契約不適合責任は「引き渡し時までに発生したトラブル」に対して適用されることになりました。
・損害賠償の範囲がちがう
瑕疵担保責任の場合、損害賠償の範囲は「信頼利益」に限られていましたが、契約不適合責任は信頼利益だけではなく履行利益まで「損害」に含まれるようになりました。
履行利益とは、履行がされていれば得られるはずであった利益のことを指します。例えば、宝石を転売目的で購入したところ、売主のミスで壊れ転売できなかった場合、転売利益が履行利益となります。
信頼利益とは、契約が有効であると信じたために発生する損害を指します。例えば、宝石を購入する際に、その購入代金として借入れをしていた場合、その借入利息は信頼利益となります。
・損害賠償請求できる要件がちがう
瑕疵担保責任は無過失責任だったため、売主に故意や過失がなくても買主は売主へ損害賠償請求ができました。一方、契約不適合責任の場合、売主に故意や過失がないと買主は損害賠償請求ができません。
・権利行使できる期間がちがう
瑕疵担保責任は、引き渡し後1年間という期間制限がありました。つまり、その期間内に請求や解除をするなど権利を実現する必要があったのです。一方、契約不適合責任では、引き渡し後1年以内に「通知」さえすれば実際に権利を実現するのはその後でも良いということになりました。買主が権利行使できる期間が長くなったと言えるでしょう。
■契約不適合責任は任意で規定を設けられる
瑕疵担保責任も契約不適合責任も、その規定は「任意規定」となります。詳しく解説します。
・任意規定とは
任意規定とは、契約当事者同士が合意すれば、その特約は有効になるという規定のことです。例えば、売主と買主が合意すれば瑕疵担保責任を一部または全部免責することができます。築年数が古い建物を売却する場合には、「責任を一切負わない全部免責をする」というケースがあります。このように売主と買主の合意により、一部免責や全部免責をする特約をつけることが有効です。他にも、「追完請求は修補請求のみ」や「損害賠償の限度は〇〇万円」などと定めることが可能です。
・売主が宅地建物取引業者の場合は免除できない
売主が宅地建物取引業者の場合、契約不適合責任を勝手に免除することはできません。引き渡し後、最低2年間はすべての契約不適合責任を負うことになります。
宅建業法40条により、「宅建業者の契約不適合責任は2年より短くできない」「契約不適合責任を買主に不利に変更できない」と定められている通りです。
たとえば「瑕疵担保責任は1年間」や「修補請求不可」などと契約書に記載されていたとしても、特約は無効です。
ただし宅建業者同士の取引の場合は、この制限が適用されません。契約不適合責任の免除も可能です。
■契約不適合責任における注意点
それでは、自分が不動産を売る立場になったときは、どのようなことに気をつけたらいいでしょうか?契約不適合責任における注意点を解説します。
・1.特約・容認事項を契約書に明記する
契約不適合責任では、売買契約書の特約・容認事項をしっかり書くことがポイントとなります。売買契約書には、定型的な条文の他、個々の物件の条件に合わせて特約・容認事項が記載できる欄があります。
例えば、追完請求が発生したときに具体的にどういった方法で追完してほしいのか買主に指定してもらいたい場合、「追完の方法は買主が指定する」などと定めておかねばなりません。また民法の原則では、契約不適合責任を追及する期間は「引き渡し後1年以内に通知」することとなっていますが、これを「引き渡し後半年以内」などにすることもできます。
・2.心理的瑕疵や環境的瑕疵も明記する
心理的瑕疵とは、購入者が住むことで心理的に障害となる問題のことです。例えば、過去に自殺や殺人事件があった物件や火災などによって死亡事故があった物件などのことを指します。
環境的瑕疵とは、物件の周辺環境の瑕疵のことです。例えば、異臭や騒音・公害が発生する懸念のある施設や治安が悪化する可能性がある施設を指します。心理的瑕疵や環境的瑕疵を抱えた物件は、必ず契約書内で問題点を買主へ告知し、買主の了承を得た上で取引を行いましょう。
・3.設備に関しての責任を明確にしておくこと
不動産の売買では、設備も売却対象となります。中古住宅の設備は多少の不具合があることが多いため、軽微な設備の不具合に対して厳密に契約不適合責任を適用すると、スムーズな取引が難しくなるかもしれません。
設備に関しては一切の契約不適合責任を負わないことを契約条文に記載しましょう。「付帯設備の故障や不具合については、修補・損害賠償その他一切の責任を負わないものとする」と書かれている売買契約書は多いです。
・4.目的物をはっきりさせる
契約不適合責任では、目的物が何かをはっきりさせる必要があるため、特約・容認事項の欄に「目的物はどのようなものであるか」をしっかりと書くことが重要です。
・5.インスペクションを行う
既存住宅を売却・購入する際のインスペクションとは、「建物状況調査」や「住宅診断」のことを指します。
建築士の資格をもつ専門家が、第三者的な立場で目視や動作確認、聞き取りなどにより住宅の検査を行います。
インスペクションを行うことで、目的物や契約書に記載することが明確化するでしょう。
■お困りの場合は、プロにご相談を
民法改正によって、瑕疵担保責任から契約不適合責任へと変わりましたが、本質的な意味は大きく変わりません。ただ、契約書に記載されていることが重要なこととなるため、不動産購入前にはよく確認して締結するようにしましょう。
売主の場合、不動産の状態をよく把握してから、特約や容認事項、責任の範囲を明確にしておくといいでしょう。あいまいなままで締結をすると、あとで契約不適合責任を追及されてしまう可能性があります。心配な場合は、プロに相談をするといいでしょう。
