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法定地上権とは? 地上権や賃借権とのちがいや成立するケースを解説

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不動産を所有するにあたって覚えておきたい権利のひとつが「法定地上権」です。聞いたことがない、という方も少なくないのではないでしょうか。

「法定地上権」とは簡潔に言えば、自分の土地が競売にかけられたときに建物を守ることができる権利です。

今回はこの「法定地上権」について詳しく解説するとともに、混合されがちな地上権や賃借権とのちがいと、法定地上権が成立するケースなどもあわせてご紹介します。

目次

■法定地上権とは?

法定地上権とはいったい何なのでしょうか?地上権や賃借権とのちがいについても解説します。

 

・法定地上権とは

法定地上権とは、土地の上に建物があり土地と建物を所有していたが、抵当権の実行などによりそれぞれ別々の持ち主になった場合に、自動的に発生する地上権です。

 

・なぜ法定地上権が必要なのか?

土地と建物は、それぞれに抵当権を設定することができます。そのため、仮に土地が競売された場合、建物所有者は建物を活用することができなくなってしまいます。建物の下には土地があり、その土地の所有権は持っていないからです。

しかし、そうなると建物所有者の不利益が大きいため、これを守るために「法定地上権」が設定されます。法定地上権があることで、土地が別の所有者になったとしても建物所有者は建物に住んだり賃貸に出したりすることができるのです。

 

・地上権と法定地上権のちがいとは

法定地上権は地上権の1種だと言えます。地上権とは、他人が所有している土地を使う権利です。土地の所有者の許諾がなくても、原則的には貸したり建物を売却したり担保を設定したりすることができます。地上権が設定されている限り、土地所有者から建物収去や土地明け渡し請求をされることはありません。

 

・地上権と賃借権とのちがいとは

地上権と賃借権はどちらも借地権の一種です。借地権の中に地上権と賃借権が含まれるイメージでお考えください。「借地権」とは土地を借りる権利のことで、広い意味合いを持つ言葉だと言えるでしょう。

地上権は、上述したように土地所有者の許諾がなくても、原則的には貸したり売却をしたり担保の設定をしたりすることが可能です。一方、賃借権は他人が所有している土地を使う権利という意味では同じものの、土地所有者の許諾を得ないと原則的には建て替えや建物の売却はできません。

地上権が物権的な権利で、賃借権が債権的な権利と言えます。

 

・土地所有者は地上権か賃借権どちらを設定してもよい

土地利用契約をする際に、土地所有者は地上権と賃借権のどちらを設定してもいいことになっています。ただし、地上権は土地所有者の同意なしに賃借権を第三者に譲渡したり地上権を登記したりできるため、土地所有者の権利を圧迫しかねません。そのため、賃借権を設定することが一般的です。

 

 

■法定地上権が成立するケースとは

地上権は土地所有者と建物所有者が合意したときのみ成立しますが、法定地上権は法律上自動的に発生する地上権だと上記でお伝えしました。それでは、どのようなときに法定地上権が成立するのでしょうか?そのケースをご紹介します。

 

・抵当権を設定して支払いができず競売が起こった場合

土地と建物は別々に抵当権を設定できるのですが、支払いをしないと抵当権を設定したものを競売にかけられてしまいます。競売によって土地と建物の所有者が別々になった場合、法定地上権が成立します。

もし法定地上権が成立しなければ、土地上の建物を競落しても不法占拠状態になってしまいます。そうなると誰も買おうと思わないでしょう。このような不都合を避けるために、建物所有者には当然に地上権が認められるのです。

 

・土地または建物が強制競売にかかった場合

土地や建物を所有している人が借金をし、支払いを滞納している場合、抵当権を設定していなくても競売にかけられることがあります。債権者が裁判を起こし、不動産の強制競売を申し立て、これが認められれば競売となってしまうのです。そして、このときに強制競売によって土地と建物が別々の所有者になった場合、法定地上権が成立します。

 

・税金を滞納し強制処分を受けた場合

不動産を所有している人が税金を滞納すると、強制処分を受けることがあります。所有している不動産が公売にかけられるのです。

公売とは、国税局や税務署などの「国」が差し押さえた財産を入札などによって売却する制度のことで、原則として入札はだれでも参加することができます。公売も競売同様、土地と建物が別々の所有者になった場合、法定地上権が成立します。

 

■法定地上権が成立するための4つの条件

どのような不動産でも法定地上権が成立するわけではありません。下記4つの条件をクリアすることが必要となります。

 

・条件①抵当権設定当時に土地の上に建物が存在していた

抵当権を設定した時点で、土地の上に建物が存在していた事実が必要です。土地に抵当権を設定してから建物を建てた場合は、土地が別の所有者になったとしても法定地上権は成立しません。この場合、建物を撤去し土地を明け渡すしか方法はありません。

 

・条件②抵当権設定当時に土地と建物の所有者が同じ

競売によって法定地上権を成立するためには、抵当権を設定したときに土地と建物の所有者が同じ人である必要があります。抵当権を設定した時点で土地と建物の所有者が別の場合は、その際に地上権または賃借権が設定されていたことになります。法定地上権の必要性がないため成立しません。

 

・条件③土地・建物の一方または双方に抵当権が設定されていること

土地や建物に抵当権が設定されている場合に、担保不動産競売が起こり、法定地上権が成立する流れとなります。ただし「法定地上権が成立するケースとは」でお伝えした通り、強制競売や公売の場合は、抵当権が設定されていなくても法定地上権が成立する流れとなるケースがあります。

 

・条件④競売によって土地と建物の所有者が別々になること

もし競売によって土地と建物が同一人物の所有になった場合は問題ないため、法定地上権は成立しません。土地と建物の所有者が別々になった場合のみ、法定地上権が必要になります。

 

 

■法定地上権が成立するか否か ケース別に回答

法定地上権を成立するためには、上記4つを満たす必要があります。つまり、更地の場合は成立しません。他にも「このような場合はどうなるのか?」というケースを解説します。

 

・登記されていない不動産は法定地上権が成立するのか?

結論から言うと、未登記不動産の場合でも法定地上権は成立します。上記「条件①抵当権設定当時に土地の上に建物が存在する」という「建物」は、登記の有無は問わないのです。抵当権を設定した時点で建物があれば、土地の抵当権者は建物があることを前提に価額等を評価していることがその理由となります。

 

・抵当権設定後に建物を建て替えた場合は法定地上権が成立するのか?

上記で「条件①抵当権設定当時に土地の上に建物が存在すること」とお伝えしましたが、抵当権を設定した際に建っていた建物を取り壊して再建築した場合はどうなるのでしょうか?この場合、原則として法定地上権は成立しません。しかし、例外として法定地上権が認められるケースもあるため確認するといいでしょう。

 

・土地や建物が共有状態の場合は法定地上権が成立するのか?

不動産は、1人ではなく2人以上で共有することが可能です。それでは共有状態の場合、法定地上権はどうなるのでしょうか?

共有には色々なパターンがありますが、例えば土地と建物を複数人で共有していて、すべてに抵当権が設定された場合、法定地上権は成立します。すべてが共有であることから、所有者が1人の状態と同じように考えることができるからです。

 

■法定地上権成立後の地代の決め方

地代とは、土地を使用するために支払う賃借料のことです。法定地上権成立後の地代について説明します。

 

・地代の金額は当事者間で話し合う

地代の金額は、土地所有者と建物所有者の双方合意のもと決められます。法律上定められた金額はないため、近隣の相場を参考にするのが一般的です。

 

・合意しない場合は地代確定請求訴訟

話し合いをしても合意しない場合、裁判となります。裁判所で地代確定請求訴訟を起こし、適正な地代を決めてもらうことになることが多いです。

 

■法定地上権の期限

法定地上権には期限が設けられています。詳しく説明します。

 

・借地借家法により「30年」

法定地上権の成立時期は代金を完納した時期であり、存続期間は借地借家法によって「30年」と定められています。つまり、法定地上権が成立した後、最低30年は建物所有者に対して建物収去や土地明け渡しを要求することができないということです。

 

・更新拒絶しなければさらに「20年」

30年が経過したときに更新拒絶しなければ借地権は自動更新される仕組みとなっています。その後の存続期間は20年です。さらに、その20年が経過して自動更新されると、次は10年間毎となります。

 

・正当な事由がなければ更新拒絶はできない

地上権は強力な権利であり、正当な理由がなければ更新拒絶はできません。現実的には多額の立ち退き料を支払うケースが多くなっています。

 

 

■法定地上権成立後、立ち退き要求できるケース

上述したように、地上権は強力な権利であり、正当な理由がなければ解除することができません。それでは「正当な理由」とは何でしょうか?

 

立ち退き要求できるケース①地代を長期的に滞納している場合

法定地上権が成立すると、土地所有者に対して地代を払わなければいけません。しかし、長期間にわたって滞納している場合は、賃貸人から立ち退きを要求できます。家賃滞納期間については明確な基準がありませんが、1ヶ月や2ヶ月では認められない場合が多くなっています。3ヶ月を目安にするといいでしょう。

 

立ち退き要求できるケース⓶お互いに合意のもと解除する場合

土地所有者と建物所有者の双方が合意をしている場合は、30年に満たない間でも解除することができます。建物を土地所有者が買い取るか、建物を収去するかなどの解除条件も話し合いで決めることが可能です。設定を解除すれば、建物所有者に対して立ち退きを要求できます。

 

立ち退きを要求できるケース③建物が老朽化した場合

建物が老朽化している場合などは、30年に満たなくても解除を申し入れることができるケースがあります。今にも倒壊しそうな場合など、建物収去を要求できます。建物がなくなることで法定地上権もなくなるため、土地を明け渡してもらうことができるでしょう。

 

立ち退き要求できるケース④建物の使用を必要とする事情があって、立ち退き料を支払う場合

建物の使用が必要となる事情がある場合、立ち退きを要求することができます。ただし、自己都合による立ち退き要求には、一定の金銭的補償(立ち退き料)がなければ認められない場合が多くなっています。立ち退き料については、次に説明します。

 

立ち退き料とは?

立ち退き料とは、賃貸人側の都合で退去してもらう場合に賃借人に渡すものです。しかし、立ち退き料を支払うことで同意を得られなければ無理に退去させることはできません。

また立ち退き料はあくまでも通例であり、法律上の支払い義務があるわけではありません。

 

立ち退き料の目安

立ち退き料に明確な決まりはありませんが、引っ越し代や新居の敷金・礼金・仲介手数料などにあててもらうことが目的です。そのため「家賃6ヶ月分+引っ越し費用」を支払うケースが多くなっています。

しかし、必要な費用には個人差があるため「これだけでは足りない」となれば、立ち退き料値上げを交渉される可能性もあります。

■不動産のことでお困りの場合は、プロにご相談を

今回は法定地上権について解説しました。法定地上権は、競売にかけられたときに大きな不利益を被らないようにするための権利です。

しかし法律で守られているとはいえ、実際には土地所有者と建物所有者が異なるとあらゆる問題が起こることもあるでしょう。

「建物所有者に退去してもらいたい」「煩わしい権利関係から脱するために不動産を売却したい」などとお考えの場合、プロに相談することをおすすめします。

客観的な視点と専門的な知識で、最適な方法を提案してくれるでしょう。

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