借地権付きの建物に住んでいる場合、「売却したいけれど、どうしたらいいのかわからない」というケースがあるのではないでしょうか?
借地権の売却は法的な権利関係を理解した上で進めなければ、地主とトラブルになってしまう可能性があります。
「地主が借地権の買い取りをしてくれない」というケースや「売却の承諾をしてくれない」というケースを含め、どのように借地権付き住宅を手放せばいいのか、その方法を解説します。
目次
■借地権とは?
そもそも「借地権」とは何でしょうか?まずは借地権と、それに付随する権利について説明します。
・借地権とは?
借地権とは、土地を借りる権利のことを指します。「借地権付き建物」とは、建物だけを所有し、建物が建っている土地の所有権は地主にある、ということです。そのため定期的に土地の使用料(地代)を地主に支払う必要があります。土地を借りる人のことを「借地人」と、呼ぶことがあります。
・借地権と共に守られている権利
他人から土地を借りる場合、「地上権」や「賃借権」が設定されます。地上権と賃借権とは、下記の通りです。
【地上権】
地上権とは、住宅などの建築物を所有するために他人の土地を使う権利のことです。地上権設定者と地上権者の間で地代が定められた場合は、支払う義務が生じます。
地上権を得た人はその土地を使えるほか、他の人に地上権を譲渡したり土地を貸したりすることができます。
【賃借権】
賃借権とは、賃貸借契約に基づく賃借人の権利のことです。売却や相続などで賃貸人が代わったとしても、賃借人は賃借権によって居住することを主張できます。
賃借人は居住する権利を持つ一方で、賃料の支払い義務を負うことになります。
■借地権付き住宅のメリット・デメリット
借地権付き住宅は、借地人(土地を借りる人)にとってどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか?それぞれご紹介します。
・借地権付き住宅のメリット
借地権付き住宅のメリットをご紹介します。
–メリット①地代が安い
賃貸マンションや賃貸アパートを借りるよりも、地代が安い場合が多くなっています。建物代を含めたとしても支出がおさえられるケースが多いため、入手しやすいということがメリットです。
–メリット②土地にかかる固定資産税がかからない
土地にかかる固定資産税や都市計画税は、土地所有者である地主に課税されるため、借地人にはかかりません。ただし、建物に対する固定資産税や都市計画税は課税されます。
–メリット③土地を長く使用できる
借地借家法にて借地権者の権利は守られています。地主の自己都合で「土地を返還してほしい」と、要求されたとしても権利で守られているため、それを拒むことができるのです。
また土地を借りる権利である「借地権」には2種類あり、更新し続けることで長く使用することも可能です。借地権の種類は下記の通りとなっています。
【普通借地権】
最初の更新で20年以上の長期契約ができます。2回目以降の更新では、10年以上の更新が可能です。
【定期借地権】
土地の更新ができない権利です。契約が終了すると、更地にして土地を地主に返す必要があります。
・借地権付き住宅のデメリット
借地権付き住宅のデメリットをご紹介します。
–デメリット①地代を支払う必要がある
土地の使用料金である地代を、毎月地主に支払う必要があります。地代は双方合意のもとであれば変更することができます。
–デメリット②増改築時に承諾とコストが発生する
建物は借地人の所有物ですが、自由に増改築できるわけではありません。劣化部分を修繕する程度のリフォームであれば問題ありませんが、床面積が変わる増改築などは地主の承諾が必要となります。その際、「増改築承諾料」を要求される場合があります。料金は地主との話し合いで決めることが一般的です。
–デメリット③建て替え時にも承諾とコストが発生する
増改築だけでなく建て替えをする際にも、地主の承諾と承諾料が発生します。他にも、木造等の建物から鉄筋など堅固な建物に建て替える場合、借地契約の条件が変わるため「条件変更料」が発生することもあります。
–デメリット④更新料がかかる
契約を更新する際には更新料が発生する場合があります。目安は「底地の時価3~5%」と言われています。これも地主との話し合いで料金を決めることが可能です。首都圏では高くなる傾向があります。
–デメリット⑤自由に活用できない
土地が自分の所有物ではないことから、リフォームや建て替え時には地主の許可が必要になります。またデメリット①~④でご紹介したように、その都度あらゆるコストが発生することも借地人にとって負担となるでしょう。
–デメリット⑥担保としての価値が低い
借地権付き住宅は不動産価値が低いため、建て替え時などにローンを組もうと考えた場合、融資を受けられない可能性があります。通常、ローンの担保は土地や建物に抵当権を設定しますが、土地の所有権がないため抵当権を設定できず、建物のみでは価値が低いと判断されてしまうからです。
■借地権付き住宅の売却方法
「借地権付き住宅を手放したい」と考えたときに、売却する方法をご紹介します。
・売却方法①地主に借地権を買い取ってもらう
借地権を地主に買い戻してもらう方法です。地主には優先的に借地権を買い戻せる権利があるため、最もスムーズな方法だと言えるでしょう。実際に、この方法で借地権付き住宅を手放す人が大半を占めています。
建物が老朽化している場合、更地にして借地権のみを買い取ってもらうことが一般的です。
解体費用は、通常借地人が負担しますが、賃貸借契約書の内容によっては地主が負担するケースもあります。一度確認してみるといいでしょう。
・売却方法②地主に借地権と建物を買い取ってもらう
地主に借地権を買い取ってもらう場合、上述したように更地にして売却することが一般的ですが、建物が新しい場合は建物ごと買い取ってもらえることがあります。
解体する前に地主に建物も買い取ってもらえないか相談し、不動産業者に査定をしてもらった後に価格交渉をするといいでしょう。
・売却方法③等価交換をする
借地権と底地を交換することで借地権を手放すという方法があります。このとき、土地を分筆して分けることも可能です。
自分の権利割合を多くしたい場合は金銭(交換差金)を支払えば、金額に応じた権利割合に変更することができます。しかし、この場合は「等価交換」とはならず譲渡所得税などの課税対象となってしまうため気をつけましょう。
・売却方法④借地権と底地をいっしょに売却する
地主と借地人が協力して、第三者に売却する方法です。借地権や底地を単独で売却すると、価値が低くなり安価での売却となってしまいますが、同時に売却できれば通常の市場価値で売却できる場合があります。
底地と借地権を同時に売却する際には、地主と借地人の配分は借地権割合に基づいて算出することが一般的です。しかし、双方同意のもとであれば割合は自由に変えることができます。
しかし、これは地主も「売却したい」と思っていることが前提の方法であるため、スムーズに進むとは限りません。地主が売却に積極的ではない場合、市場価値で売却できるというメリットを伝えるといいでしょう。
・売却方法⑤不動産業者に売却する
地主が買い取りに応じてくれない場合、第三者である不動産業者に売却することができます。個人に売ることも可能ではありますが、借地権買い取りを希望する人はなかなかいないため、買い手を見つけるまでに時間がかかってしまうかもしれません。
借地権を専門的に扱う不動産会社であれば、スムーズに売却できるでしょう。
–不動産業者に売却する際の注意点
地主に相談なく、いきなり不動産業者などの第三者に売却するとトラブルになってしまう可能性があります。必ず先に、地主に借地権買い取りの相談や売却の同意を得るようにしましょう。
また不動産業者などに売却する際には、「譲渡の承諾」「建物建て替えの承諾」「抵当権設定の承諾」を地主に得る必要があります。言葉の意味は下記の通りです。
【譲渡の承諾・名義書き換えの承諾】
売却することを承諾してもらうこと。
【建物建て替えの承諾】
売却によって建て替えたり増改築したりする場合、事前に承諾をもらうこと。
【抵当権設定の承諾】
新しい買主が金融機関で融資を受ける際、建物に抵当権を設定するための承諾をもらうこと。
■借地権付き住宅を売るときの流れ
借地権付き住宅を売却するときの流れをご紹介します。
・売却の流れ①地主に借地権の買い取りを打診する
いきなり不動産業者などに売却することはできません。必ず先に、地主に相談しましょう。借地権の売却は、地主の意向が第一優先となります。
まず、地主自身に「借地権を買い取ってもらえないか?」を聞き、買い取りが難しい場合で地主も底地を手放す予定がある場合は、協力して借地権と底地を売却する方法を打診するといいでしょう。
・売却の流れ②地主に売却の許可を得る
地主が買い取る意思や底地と同時に売却する意思がない場合は、借地権を第三者に売却する許可を得ましょう。
・売却の流れ③不動産会社に相談・査定
地主に売却の許可を得たら、不動産会社に相談をします。借地権買い取りの実績がある不動産会社を選ぶといいでしょう。
借地権は不動産価値が低いため、査定額が低くなる場合がありますが、専門の不動産業者であれば納得のいく説明をしてくれたり少しでも高く売却できる方法などをアドバイスしてくれたりするかもしれません。
・売却の流れ④地主に譲渡承諾料を支払う
借地権を譲渡する際には、地主に譲渡承諾料を支払う必要があります。目安は「借地権価格の10%」ほどだと言われています。あくまでも目安のため、金額は地主と話し合って決めるといいでしょう。
・売却の流れ⑤売買契約をする
地主に譲渡承諾料を支払ったら、不動産会社と借地権の売買契約を交わします。決済・引き渡しをすれば、借地権付き住宅の売却が完了です。
■地主が売却を拒否する場合の対処法
上記の「借地権付き住宅を売るときの流れ」は、地主が売却の承諾をしているケースです。もし、借地権売却を拒否されたらどうしたらいいのでしょうか?
・裁判所に申し立てをする
地主から売却の承諾が得られない場合、裁判所に申し立てをしましょう。借地人は「借地借家法」の「借地権譲渡承諾に代わる許可制度」によって、裁判所から売却の許可を得ることができます。その場合の流れは下記の通りです。
–流れ①裁判所に申し立て
地主に売却を拒否されたら、裁判所に申し立てを行います。
–流れ②裁判所が精査・判断
裁判所が精査し、問題ないと判断すれば「借地権譲渡承諾に代わる許可制度」によって譲渡承諾許可がおります。
–流れ③地主に譲渡承諾料を支払う
裁判所から譲渡承諾許可がおりた場合でも、地主に譲渡承諾料を支払う必要があります。
■借地権の買い取り相場とは?
借地権は、一体いくらくらいで売れるのでしょうか?買い取り相場をご紹介します。
・不動産の50%程度
借地権に明確な相場はありませんが、一般的には借地権買い取り相場は「不動産の50%」ほどだと言われています。しかし、専門業者による借地権買い取りは再利用が前提のため、再利用による収益に見合った金額となります。取引相場よりも低くなるケースがあることを念頭に置いておきましょう。
・借地権割合をもとに計算
借地権の買い取り相場は、「借地権割合」をもとに概算を算出することもできます。借地権割合とは、ひとつの土地の権利の内、借地が占める割合のことです。相続税や贈与税を算出する際にも活用されます。借地権割合は国税庁のホームページの「路線価図・評価倍率表」から調べることができます。
算出方法は、下記の通りです。
【算出方法】
更地評価-(更地評価×借地権割合)
■借地権付き住宅でお困りの場合は、プロに相談を
「借地権付き住宅を地主が買い取ってくれない」「売却の承諾をしてくれない」などでお困りの場合はプロに相談しましょう。
借地権付き住宅は、地主にも借地人にもあらゆる権利が設定されているため、理解した上で進めないとトラブルになってしまうことがあります。
借地権に精通しているプロに頼ることで、地主との関係悪化を防ぎながらスムーズに手放すことが可能となるでしょう。