相続によって不動産を兄弟や家族で共有名義にすることは珍しくありません。しかしその一方で、「売却したいのに全員の合意が得られない」「管理や維持の負担が不公平」といったトラブルが、時間の経過とともに表面化するケースもあります。
こうした状況を避けるためには、共有名義という仕組みを正しく理解し、将来の問題を見越した対策を講じることが求められます。本記事では、そんな共有名義状態を解消するための現実的な6つの方法について、わかりやすく解説していきます。
目次
不動産の共有名義とは
不動産の共有名義とは、ひとつの不動産に対して複数の人が所有権を持っている状態を指します。それぞれの所有者は「共有持分」と呼ばれる割合で権利を保有しており、登記簿にもその持分が明記されます。
共有者は単独で利用できる権利を持つ一方で、売却や大規模な改築など、重要な判断には原則として全員の同意が必要になります。この点が、後々のトラブルや管理負担の原因になることもあるのです。
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共有名義状態を解消しないまま放置するリスク
土地を共有名義のまま所有していると、以下のようなデメリットが発生します。
- リスク①:売却などの処分に全員の同意が必要
- リスク②:管理や利用に共有者同士の協議が必要
- リスク③:相続で権利関係がどんどん複雑化する
それぞれについて、個別にみていきましょう。
リスク①:売却などの処分に全員の同意が必要
土地を共有している場合、売却などの大きな処分を考える際には、全ての共有者の同意が必要です。
特に、共有者が多い場合、一致する意見を得るのは一筋縄ではいきません。加えて、共有者間での関係が悪化していると、単純な話し合いすら難しく、土地が長期間利用されずに放置されるリスクが高まります。
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リスク②:管理や利用に共有者同士の協議が必要
土地の利用や管理に関しても、共有者との間での合意が求められます。例えば、賃貸借契約の解除や賃料の見直しには、共有者の過半数以上の賛成が要されることが多々あります。
共有地の維持や管理にかかる固定資産税や管理費の負担者を決める。あるいは突発的に発生する費用の分担についても、共有者間での取り決めが必要です。
始めは関係が良好でも、時が経つにつれ関係性が変わることもあり、円滑なコミュニケーションが取れなくなる可能性も考慮しなければなりません。
関連記事:共有持分の管理行為とは?できること・できないことと対処法をわかりやすく解説
リスク③:相続で権利関係がどんどん複雑化する
共有名義の土地における最大の課題は、相続によって持分の権利関係が複雑化することです。
共有者の死亡時、その持分は相続人に移行し、これが繰り返されることで、共有者の数や構成が増え、複雑になります。
結果、どのような共有状態になっているのかを明確に把握することが困難になり、土地の適切な管理や利用が難しくなることが考えられます。
土地の共有名義を解消する6つの方法
では、土地の共有状態を解消するためにはどのような方法があるのでしょうか。具体的には、次の手法が挙げられます。
- 方法①:共有持分の「売却」
- 方法②:無償で持分を渡す「贈与」
- 方法③:共有者間での「譲渡」
- 方法④:共有持分の「放棄」
- 方法⑤:共有者同士での「持分交換」
- 方法⑥:土地を物理的に分ける「分筆」
以下より、個別に解説します。
方法①:共有持分の「売却」
共有状態を解消する手段として、もっとも現実的かつ多く利用されているのが「売却」です。
売却には「共有者全員で不動産を売却する方法」「自分の持分だけを第三者に売却する方法」の2つがあります。
前者は市場価格での売却が見込める一方、全員の合意が前提となるため、1人でも反対すれば実現できません。一方、後者では自分の共有持分だけを手放すことができ、共有者との調整が困難な場合でも有効です。
通常の買い手は見つかりにくいですが、訳あり不動産に特化した専門業者であれば買取が可能なケースもあります。持分の処分によって精神的・金銭的な負担から解放される場合もあるため、状況に応じて柔軟に検討することが重要です。
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方法②:無償で持分を渡す「贈与」
土地の持分を他の共有者に譲る、あるいは共有者から持分を受け取る方法として「贈与」が考えられます。
具体例として、兄と弟でそれぞれ2分の1の持分を保有している土地において、兄が持分を全て弟に譲ることで、弟が完全に土地を独占する形となり、共有状態が終了します。
この方法は、ある共有者が土地を手に入れたい一方、他の共有者がそれにこだわりがない場合に適しています。ただし、贈与という行為は贈与税の対象となるため、税金を節約するための策略として、毎年の基礎控除額を最大限活用する計画的な贈与が推奨されます。
また、兄弟間での贈与の場合、親子間での贈与に適用される特例税率よりも高い一般税率が適用されるので、税額の計算に注意が必要です。
各区分の贈与税の税率は、以下のとおり。
<一般贈与財産用>(一般税率)
課税価格範囲(基礎控除後) | 税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | – |
200万円超〜300万円以下 | 15% | 10万円 |
300万円超〜400万円以下 | 20% | 25万円 |
400万円超〜6,000万円以下 | 30% | 65万円 |
6,000万円超〜1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
1,000万円超〜1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
1,500万円超〜3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
3,000万円超 | 55% | 400万円 |
なお、贈与税には親や祖父母などから、子や孫への贈与といった特定の条件を満たす場合に適用される「特例贈与財産用(特例税率)」があります。
これは、住宅取得資金や教育資金などの支援を想定した制度で、税率が一般贈与よりも低く設定されています。
ただし、兄弟間の贈与はこの特例の対象にはならず、通常は「一般税率」が適用されますので、贈与前には税理士など専門家に相談することをおすすめします。
関連記事:共有持分を贈与する際の「贈与税の計算方法」をわかりやすく解説!
方法③:共有者間での「譲渡」
持分を他の共有者に売却する、または共有者から持分を購入することで、共有名義を単独所有に変更できます。
一方の共有者が土地を欲しがり、他方が資金を必要とする場面での適切な方法といえます。ただし、持分の購入に際しては、住宅ローンの利用が難しい点や、譲渡所得税の問題、不動産取得税などの税金に関連する課題が浮上する可能性も。
税率や税額は所有期間や売却金額により異なるため、適切なアドバイスを受けながら手続きを進めることが望ましいといえます。
所得税 | 住民税 | 復興特別所得税 | 合計 | |
短期譲渡所得(5年以内) | 30% | 9% | 0.63% | 39.63% |
長期譲渡所得(5年超) | 15% | 5% | 0.32% | 20.32% |
関連記事:共有持分を譲渡する3つの方法とは?注意点も交えて易しく解説
方法④:共有持分の「放棄」
共有者が持つ持分を放棄する。あるいは他の共有者から放棄を依頼することで、共有名義の土地を単独所有にすることが可能です。
この方法は贈与とは異なり、持分の受け取る相手を明示しない点が特徴。しかし、税務的な取り扱いは贈与と似ており、放棄を受けた共有者に贈与税や不動産取得税が課される場面が考えられます。
持分を放棄する行為は、他の共有者の同意を必要としないものの、登記の際には共有者全員の協力が必要です。もし、協力が得られない場合には、裁判所を通じて登記を実行するという方法もあります。
関連記事:共有持分の放棄の同意を得られない場合の「訴訟」について詳しく紹介
方法⑤:共有者同士での「持分交換」
複数の土地において、同じ共有者間での共有状態が継続している場合、持分の交換を考慮することで共有の問題を解消できます。
例として、土地Aと土地Bが兄弟の間で共有されている状態を想定します。持分を交換することで、土地Aは兄の単独所有、土地Bは弟の単独所有と変更可能。
このような持分の交換には、所得税が発生する可能性があります。ただし、一定の要件を満たす場合、所得税法に基づき税の非課税措置が受けられます。
この方法は、資金の準備や取引の手間が少なく、かつ税金の面でもメリットがあるため、共有者双方にとって有益な選択となる可能性が高いでしょう。
方法⑥:土地を物理的に分ける「分筆」
「分筆」とは、1つの土地をいくつかの部分に区分する手続きを指し、共有持分が土地の状態である場合に選択可能です。
例えば、兄弟2人で土地を等分して共有している場合、それぞれが半分ずつの土地を独占する形で分筆すれば、それぞれの土地に対する権利が明確となり、共有に伴う問題(例:話し合いの必要性や相続問題など)が生じるリスクを軽減できます。
この手法は、全員が該当の土地を保持したい場面に適しています。重要な点として、分筆により土地を単独所有としても、贈与税は生じないことを確認しておきましょう。ただ、このプロセスは所得税の課税の観点から見ると、懸念材料となる場合があります。
そうした懸念に対応するため、所得税法には分筆に関する特別な取り扱いが定められており、要件を満たす場合は所得税は課税されないとの規定があります。
関連記事:共有名義の土地を分筆する方法とは?ルールや手順、費用についてわかりやすく解説
こんなときどうする?特殊な状況下での共有名義の解消方法
土地の共有名義を解消する方法については以上のとおりですが、実際には次の事柄にも留意する必要があります。
- ケース①:共有者の誰かが認知症である
- ケース②:行方不明の共有者がいる
- ケース③:共有者の1人が死亡した
それぞれについて詳しくみていきましょう。
ケース①:共有者の誰かが認知症である
共有者のひとりが認知症などで判断能力を失ってしまった場合、合意による持分の売却や分筆といった手続きを進めることができなくなります。これは、共有者本人の「意思表示」ができなくなるためで、共有関係の解消が事実上ストップしてしまうのです。
こうした場合には、家庭裁判所に「成年後見人」の選任を申し立てる方法があります。成年後見人が就任すれば、共有者本人に代わって不動産処分や登記手続きなどを進めることが可能になります。ただし、売却や贈与のような「財産を手放す」行為には、家庭裁判所の許可が必要です。
この制度はあくまで本人の財産保護が目的のため、単なる家族間の都合では認められないこともある点には留意しましょう。
ケース②:行方不明の共有者がいる
共有者の一人が長期間にわたって音信不通で、所在もわからない場合、「その人の意思が確認できない」という点で、共有関係の整理が進められなくなってしまいます。このようなケースでは、不在者財産管理人の選任を家庭裁判所に申し立てる方法が有効です。
不在者財産管理人は、行方不明の共有者に代わって持分を管理する権限を持つため、管理人が裁判所の許可を得れば、売却や分割の手続きも可能になります。管理人には多くの場合、弁護士が就任し、報酬も発生するため、コストと手間の面からも事前の見積もりが重要です。
選任には、「6ヶ月以上の不在」「居所不明であることの証明」など一定の条件があります。家庭裁判所の審理も含めると、数ヶ月〜半年以上かかることもありますが、「放置せざるを得ない状況」に光が見える選択肢となります。
関連記事:共有者が行方不明の場合の対処方法について詳しく解説
ケース③:共有者の1人が死亡した
共有者のうち1人が亡くなった場合、その持分は法定相続人に引き継がれます。すると、相続人全員が新たな共有者となり、さらに権利関係が複雑になるのが実情です。たとえば、兄と弟の共有だった土地が、弟の死によってその配偶者と子どもたちが相続すると、見知らぬ人との共有状態になることも起こりえます。
この場合は、まず相続登記を行って、誰がその持分を相続したのかを明確にする必要があります。そのうえで、他の共有者との間で「持分を買い取る」「放棄してもらう」「換価分割をする」など、解消に向けた手続きを進めていくことになります。
共有者の死亡によって関係者が増えると、調整に時間も労力もかかります。将来を見越して、早期に共有名義を整理しておくことが、トラブル予防の観点からも非常に重要です。
そもそも相続不動産を共有名義にしない方法はある?
「とりあえず兄弟全員で共有登記しておこう」という対応は、のちに思わぬトラブルを招くおそれがあります。
相続不動産をはじめから単独名義にするためには、主に3つの対応策があります。
- 対応策①:遺言書で相続人を1人に指定しておく
- 対応策②:死後事前契約(遺言代用信託や死因贈与契約)を活用する
- 対応策③:生前に贈与・売買・持分整理をしておく
次項より、個別にみていきましょう。
対応策①:遺言書で相続人を1人に指定しておく
相続が発生した際に共有名義を避けるための基本的な方法が、遺言書による指定です。例えば、「長男に土地をすべて相続させる」といった形で、単独の相続人を明記しておけば、相続登記の段階で共有状態になるのを防げます。
特に、公正証書遺言で作成しておけば、法的なトラブルも少なく確実性が高まります。ただし、他の相続人の遺留分に配慮した内容にしておくことが望ましく、事前に専門家のアドバイスを受けると安心です。
関連記事:共有持分を遺言書で相続させることは可能?効力や手続きの流れを詳しく紹介
対応策②:死後事前契約(遺言代用信託や死因贈与契約)を活用する
「死後事前契約」とは、生前のうちに、自身の死後に財産を誰に・どのように渡すかをあらかじめ契約で定めておく仕組みのことです。
これにより、相続が発生した際も遺言書によらず、契約内容に従ってスムーズに資産の承継が行えます。
具体的な手段としては、「遺言代用信託」や「死因贈与契約」があります。いずれも契約者の死後に特定の受取人が土地を単独で取得できるよう手配できます。
遺言よりも即効性があり、金融機関との連携や法的整備も進んでいるため、家族間の相続トラブルを回避する手段です。
対応策③:生前に贈与・売買・持分整理をしておく
そもそも相続時に土地を共有名義にしないためには、生前に名義を一本化しておくという方法もあります。
たとえば、親が元気なうちに特定の子に持分を贈与したり、売買の形で整理したりすることで、相続後の手続きが格段に簡素化されます。
贈与税や不動産取得税などの課税リスクには注意が必要ですが、専門家と相談しながら進めれば、家族間での合意形成も含めてスムーズな承継が可能となるでしょう。
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当社(株式会社ネクスウィル)は、共有名義や持分不動産などの訳あり物件に特化した買取サービス「ワケガイ」を提供しています。
共有者間で意見が合わずに売却が進まない、相続後に名義が分散して手続きが複雑になっている。こうした状況でも、ワケガイなら対応可能です。
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まとめ
共有名義は相続や贈与などで生じやすい一方、時間の経過とともに関係者の数が増え、話し合いが難しくなる傾向があります。「今は問題ないから」と放置しておくと、いざ売却や活用を考えた際に大きな障壁となる可能性も否めません。
将来的なトラブルを未然に防ぐためにも、自分のケースに合った方法で早めに共有名義の解消を検討ましょう。
まずは現状を整理し、関係者と冷静に対話を進めること。その上で、必要に応じて、司法書士や税理士といった専門家の支援を受けることが、スムーズな問題解決への第一歩となります。