共有持分は所有しているだけでは負担が大きいため「誰かに譲渡したい」とお考えの方は多々いらっしゃるでしょう。
ただし、共有持分の譲渡は、所有者間での合意形成や正確な持分の把握など、注意するべき事柄が多く存在します。さらには、不動産や税法に関する専門的な知識も必要。
そこで当記事では、共有持分の譲渡に向けて知っておくべき事柄ついて、詳しく説明します。これから共有持分の譲渡を検討していらっしゃる方は、ぜひお役立てください。
目次
まずは共有持分の特性について知っておこう
共有持分とは、何人かで共有している不動産の所有割合を示すものです。例を出すと、3人の兄弟が実家を均等に相続する場合、その家に対する各人の共有持分は「1/3」となります。
多人数で財産を共有する際には、それぞれの共有持分やそれに伴う各種の権利が発生します。共有持分権者が持つ権利は、「持分が半分なら建物の半分が自分のもの」という具体的な内容ではなく、「全体の不動産に対して半分の権利を持つ」という抽象的な概念となります。
共有持分者に与えられた権利とは?
不動産の所有者は以下の権利を持つことができます。
- 変更(処分)行為…売却や贈与、長期賃貸借など。
- 管理行為…賃貸借契約の締結や利用方法の決定など。
- 保存行為…修繕や明渡し請求、抹消登記請求など。
しかし、共有不動産においては、「単独で実行可能な行為」と「そうでない行為」が存在します。そのため、共有持分は通常の不動産に比べて非常に使い勝手が悪いのです。
例えば、不動産の売却について決定する際、共有持分が大きい者の意見が重視されることがあります。さらには、賃料収入などの利益も、共有持分の割合により分配されるのが特徴です。
共有持分は、相続や贈与、売買などによって譲渡され、その際には税金や手続きなどの規定に従う必要もあります。
共有持分を譲渡する方法とは?
共有持分を譲渡する方法としては、以下のようなものがあります。
- 売却
- 贈与
- 持分の放棄
- 持分の分割
次項より個別にみていきましょう。
売却・贈与
一般的な不動産譲渡と同じように、共有持分の売買や譲渡も可能です。売却は有償の譲渡手段で、共有持分と引き換えに金銭等の対価を得られます。
共有持分の売却方法としては、以下のようなもの。
- 全ての共有者が合意して不動産全体を売却する
- 他の共有者に自分の持分だけを売却する
- 不動産を分割して売却する(※土地の場合)
- 自分の持分を第三者に売却する
売却が難しいときには「贈与」という選択肢もあるでしょう。贈与は無償の譲渡方法で、対価を求めずに共有持分を譲渡できます。
売却にはその売却益に対して譲渡所得税が課税され、売却した方が申告と納税義務を負います。贈与にはその受贈者に贈与税が課税せられ、受け取った方が申告と納税義務を負います。
持分の放棄
共有不動産を保持することがリスクとなる場合、持分放棄が許されています。持分放棄を行うと、その権利は他の共有者に自動的に移行します。
これは民法第255条で「共有者の一人が、その持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属する」と規定されているとおりです。
さらに、移転登記にはAの協力が必要であり、協力を得られない場合は成立しない可能性もあります。
持分を受け取る側は無償で財産を得ることになるため、「みなし贈与」と判断され、贈与税が課税される可能性があるため留意しましょう。
持分の分割
不動産の共有者は誰でも共有物の分割を要求する権利があります。相談から始まり、合意に至らない場合には、裁判を通じて強制的な解決を求めることも可能。分割方法としては以下のようなものがあります。
- 現物分割…不動産を物理的に分割する方法。
- 代償分割…一人の共有者が全ての持分を買い取り、他の共有者に代償金を支払う方法。
- 換価分割…共有不動産を第三者に売却し、その利益を共有持分の割合に応じて全ての共有者に分配する方法。
上記の現物分割は、現実的には「土地のみ」の共有持分に多く適用されます。物理的な分割が不可能で、代償分割を選択できない場合(資力がない等)、換価分割が裁判所によって選ばれることが一般的です。
共有持分の譲渡ではどのような税金が発生する?
では、上記のいずれかの方法で共有持分を譲渡した場合、どのような税金が発生するのでしょうか。ここからは、各ケース別に解説します。
売却の場合
共有持分を売却した場合、売却者と購入者とで税金が異なります。自分が売却者であっても、「購入者がどのような税金を支払うのか」を理解しておくと、価格交渉をスムーズに進行できるでしょう。
売った側の税金
共有持分を売却した場合、その収益に対する譲渡所得税がかかります。これは通常の不動産売却と同様の扱い。
譲渡所得は所得税と住民税の対象となりますが、他の所得とは合算されずに計算される「分離課税」によります。売却した不動産の所有期間によって、譲渡所得税の税率が変わります。
以下のような税率となりますので、それぞれ把握しておきましょう。
所得税 | 住民税 | 復興特別所得税 | 合計 | |
短期譲渡所得(5年以内) | 30% | 9% | 0.63% | 39.63% |
長期譲渡所得(5年超) | 15% | 5% | 0.32% | 20.32% |
買った側の税金
共有持分を購入した場合、購入した共有持分に対する登録免許税と不動産取得税がかかります。これらは登記に関連する税金で、登記申請時に法務局に支払う必要があります。
登録免許税の計算式は以下のとおりです。
- 登録免許税 = 固定資産税評価額 × 登録免許税率
なお、登録免許税率は次のようになります。(※3)。
相続人による相続の場合 | 4% |
---|---|
贈与の場合 | 2% |
遺贈の場合 | 2% |
離婚による財産分与の場合 | 2% |
都道府県が課税する不動産取得税も発生します。取得後6ヶ月から1年半で納税通知書が届き、金融機関で納付します。
不動産取得税の計算式は次のとおりですので、登録免許税とあわせて覚えておきましょう。
- 土地・建物の税額 = 固定資産税評価額 × 4%(標準税率)
なお、特例措置により、通常4%の部分が3%になり、宅地評価の土地の場合は固定資産税評価額を1/2に減額して計算します。
贈与の場合
贈与を行った場合、贈与をした側は税金を支払う必要はありません。しかし、贈与を受けた側は贈与税がかかることがあり、名義を変更する際には登録免許税も発生します(※5)。
贈与税の税率は以下のとおりで、一般贈与財産と特例贈与財産によって異なります。特例贈与財産とは、18歳以上で直系尊属から贈与を受けた者が該当するため、念頭においておきましょう。
一般贈与財産と特例贈与財産の税率については以下の表を参照ください。
<一般贈与財産用(一般税率)>
課税価格範囲(基礎控除後) | 税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | – |
200万円超〜300万円以下 | 15% | 10万円 |
300万円超〜400万円以下 | 20% | 25万円 |
400万円超〜6,000万円以下 | 30% | 65万円 |
6,000万円超〜1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
1,000万円超〜1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
1,500万円超〜3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
3,000万円超 | 55% | 400万円 |
<特例贈与財産用(特例税率)>
課税価格範囲(基礎控除後) | 税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | – |
200万円超〜400万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円超〜600万円以下 | 20% | 30万円 |
600万円超〜1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,000万円超〜1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
1,500万円超〜3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
3,000万円超〜4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4,500万円超 | 55% | 640万円 |
持分放棄の場合
共有持分を放棄した場合、放棄者は何も得ていないため、税金は発生しません。ただし、共有持分を放棄された側は贈与と同様に登録免許税と贈与税の対象となる点については、留意が必要です。
共有分割の場合
共有物分割は「持分権の売買または交換」と解釈されます。そのため、価格賠償によって共有持分を移転した場合、売買と同様の税金が発生します。
つまり、分割によって代金を受け取った者には譲渡所得税が課税され、共有持分を取得した者は登録免許税と不動産取得税を支払わなければなりません。
共有持分を譲渡する際の留意事項
共有持分を譲渡する前には、事前に以下の点にも留意しましょう。
- 他の共有者との合意形成
- 自身の持分の把握
次項より、個別に解説します。
他の共有者との合意形成
自分が所有する共有持分だけを譲渡する際には、他の共有者との合意形成が重要です。可能なら、自分が共有持分を譲渡したいという意向を他の共有者に対して事前に伝えておくことが望ましいでしょう。
これを怠って譲渡を進めると、後で予期しないトラブルにつながる可能性があります。自身の意向を伝えると同時に、他の共有者の意向もしっかり確認するのが賢明です。
自身の持分の把握
共有持分を譲渡する前に、自分が所有している持分の割合を正確に把握しておきましょう。共有持分の買取や仲介を依頼する際に、物件の価値を査定するための必要な情報であるためです。
自分の持分の割合を確認するためには、「登記事項証明書」の取得が必要。登記事項証明書は、最寄りの法務局で取得できます。
もし、相続登記や遺産分割協議を終えていないため、自分の持分が正確に分からない場合は、共有持分の専門業者に被相続人と自身の関係を説明し、自身の持分比率を把握しましょう。
まとめ
共有持分の譲渡は、譲渡方法によって発生する税金が異なるため、滞りなく手続きを進める上では不動産や税法に関する専門的な知識が求められます。特に、遺産が共有状態にある場合は、自分の持分比率を正確に把握することが重要です。
このように、共有持分の譲渡には法令・税制に関する知識が不可欠ですので、実際に手続きを進める際には、必ず専門家に相談しましょう。
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