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「所有者不明土地」の主な課題とは?注目すべき3点を解説

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土地の所有者が誰であるかがはっきりしない、または所有者が判明してもその所在が分からない「所有者不明土地」は、具体的な対応策がとられないまま年月の経過と共に増加し続けてきました。

日本各地に所有者不明土地が発生することになった大きな要因のひとつが、土地を相続した際に登記手続きを行わないまま放置し、それが代々続くことで名義人が不明となってしまうことにあるといわれています。

さらに、土地を数名で相続したにも関わらず共有者全員の登記手続きを行わなかったことで、数十年の時を経て土地の所有権者が何百人にも及んでしまうこともあります。

社会の少子高齢化が進んでいくにつれ、このままではますます所有者不明土地の面積が増え続けてしまうのではないかということが懸念されています。

そこで今回は、所有者不明土地の主な課題3点を詳しく解説していきます。

■課題① 土地の所有者を探索するためにかかる負担が大きい

所有者不明土地は、その土地を改めて「利用したい」と思う人が現れない限り、そのまま放置され続け、時間の経過と共にどんどん荒廃していってしまうケースも珍しくありません。

一方、売買取引や開発等、その土地を「利用したい」という意向のある人が存在する場合は、その土地の所有者の承諾を得ることが必要になりますが、この「所有者の探索」に莫大な費用や手間がかかる上、多くの時間を費やさなくてはならないといわれています。

以前は、特に地方では地域住民同士のつながりも強く、「あそこの土地は、確か代々○○さんの家が持っているよ」「この林は○○さんの土地だよ」というように、たとえ登記手続きがされていない土地があったとしても、近隣住民への聞き取りを行うことである程度の情報を得ることが可能でした。

しかし、そのような関係性も以前に比べると希薄化してきていることや、都市部への人口流出が進んだことなど、様々な要因により聞き取りによって土地の所有者やその所在を調べることが難しくなってきてしまっています。

また、登記が明治時代など古い年代のまま放置され、情報が更新されずに止まってしまっていることや、比較的新しい年代のものでも情報がかなり不完全(数名で所有している土地であるにも関わらず、所有者のうち1名の氏名しか記されていない等)だったり、複数の台帳で記載されている内容が異なっている例もあるなど、かなり非効率な探索を強いられるケースも多数存在しています。

しかも、有効な情報が手元にあったとしても結果的に真の所有者にたどりつけないことも少なくありません。さらに個人情報保護法の施行等により、探索のための情報を得るための手続き自体も以前に比べ煩雑になっていることも否めません。

また、例え探索の結果所有者を特定できたとしても、その所有者が転居してしまっている場合、その新たな所在地が不明であるというケースもあります。

国内での転居に限らず、海外に移住してしまっている例もあり、地方から都市部への人口流出等に伴って所有者の所在の特定はますます困難なものになってしまっています。

そもそも、自治体にも所有者の探索を十分に行うことのできる時間的・金銭的・人員的余裕が無いことや一連の手続きを円滑に行うノウハウそのものも不足している、という深刻な現実が指摘されています。

■課題② 土地を有効に活用することができない

誰にも利用されずに放置されている土地を何らかの形で活用しようとしても、その土地の権利者が複数存在する場合、全員の承諾を得なければなりません。

しかし、共有で相続したものの登記手続きを行っておらず、そのまま年月を経て権利者の人数が増えていき、かつ親族同士の関係が希薄になってしまったケースでは、土地を売却しようと思ってもお互いの所在が分からなかったり、話をまとめることができなかったりするということが起こります。

このようなことから土地の活用を断念せざるを得ないことも多く、2017年に所有者不明土地問題研究会が発表した資産によると、2040年までの所有者不明土地に関わる経済的損失は、少なくとも約6兆円にものぼるといわれています。

 

所有者が分からない土地は、このように売却等の取引をすることが難しくなるばかりか、放置され続けることで土地の管理そのものが難しくなるケースもあります。

例えば、所有者不明土地に雑草が生い茂ってしまったり、場合によっては古い建物が残ったままになっていたり、不法投棄されたゴミが散乱しているような、いわゆる「管理不全」の土地も珍しくありません。極端なものでは害虫の大量発生や獣害といった例もあげられます。

このような場合、その土地の周辺に住んでいる人達が迷惑を被っていたとしても、所有者に無断で勝手に対処することができないため、「所有者が不明」ということがネックとなり、解決策を見出せないまま問題が深刻化してしまうケースも見受けられ、廃墟化や治安の悪化ということにも繋がりません。

本来なら有効に活用できるはずの土地を、管理することができないために放置せざるをえないという、「非常にもったいない」事態となってしまうのです。

■課題③ 災害からの復旧や復興事業の妨げとなってしまう

地震、台風や豪雨等、日本列島は自然災害と切っても切れない関係にあります。所有者不明土地問題は、災害が起きた際の復旧・復興事業においても大きな足かせとなってしまう可能性があります。

東日本大震災の例

東日本大震災の被災地のひとつである岩手県の大槌町では、その面積の多くを山林が占めていることから、住宅を高台へと移転する「防災集団移転促進事業(防集事業)」が復興事業の柱の一つとなっていました。

しかし、そのための宅地整備のために用地の取得を進めてきたものの、震災から3年経った段階でも、計画面積の半分に満たない面積しか買収することができませんでした。

買収予定地はもともと畑や山林、墓地等が多いこともあり、相続登記手続きができていない土地がかなりの部分を占めていたことが判明し(中には江戸時代末期生まれの男性が所有者のままとなっていた土地も存在)、土地の共有者全員を特定することが難しかった例が数多くありました。

相続登記の手続きが行われていない場合、まずはそれを済ませてもらわなくてはならない上に、相続人が多い場合はそれぞれの持ち分を確定しなくてはなりません。

それができて初めて用地取得のための売買交渉に入ることができますが、そこでも持ち主全員を説得して承諾を得る必要があります。

これだけの作業量に対して自治体の職員だけでは圧倒的に人員が足りないだけでなく、さらに専門的な知識も必要とするために、復興事業の遅れが深刻な問題となりました。

西日本豪雨の例

記憶に新しい2018年の西日本豪雨では、とりわけ中国・四国地方に甚大な被害をもたらし、全国的には2500か所を超える地点で土砂災害が発生しました。この土砂崩れを始めとする被災地での復旧作業も、所有者不明土地問題がその進行の妨げとなってしまうことがありました。

土砂崩れが発生した地点の工事を行う場合、土地の境界線を確定しその地図を作成しなくてはなりません。そして、それを行うには土地の所有者の立ち合いが必要となります。

しかし、土砂崩れの起こるような山間部の場合は土地の所有者が不明であるケースが多く、さらに前述のケースと同じく土地の権利を持つ関係者全員に自治体の担当者が連絡をとり、承諾を得なくてはなりません。

所有者の所在が不明で連絡先を探すのに時間がかかることばかりか、そもそも所有者本人が自身に土地が権利をあることを知らない場合もあり、状況を一から説明しなくてはならないこともあったようです。

災害から3年後の段階では、実際に愛媛県の復旧事業では道路や河川施設で9割以上が完了していたのに対し、所有者不明土地の多い農地や山間部では5~6割程度にとどまっているなど、復旧の進行において大きな障壁となっていることが分かっています。

もちろん、探索の結果土地の所有者を見つけ出すことができなかった場合、収用手続きを行う等の方法がない訳ではありません。

前述の岩手県の例で土地収用手続きに踏み切ったケースでは、土地の権利を持つ人を明治時代に作成された台帳から確認して子孫にあたると思われる人を割り出し、問い合わせを行った結果、所在不明者が数100人にのぼるうえ、連絡のついた人の中でも土地の所有権を証明できる書類を持っている人がいなかったことから、なす術がなく収用手続きに踏み切ったということもあったようです。

このように、探索の結果、最終的に土地収用に踏み切った場合でも、その前段階で既に多大な時間や費用が費やされてしまっているという実態があるのです。

災害からの復旧事業は急を要するものであるにも関わらず、土地の「所有者が不明」ということにより、思うように進めていくことができないという現実があります。

今回ご紹介したのは、ごく一部の例にすぎません。

日本各地に所有者不明土地は散見され、かつ自然災害は日本全国、いつどこで起こってもおかしくはありません。災害からの復旧が道半ばのまま、また新たに災害が起こった場合、土地の所有者を特定することは恐らくさらに難しくなってしまうことになるでしょう。

今後いつ起こるかも分からない自然災害に備え、災害復旧や復興事業に関する所有者土地問題についても、速やかに、かつ負担が少なく用地を取得できるような対策を検討しなくてはならないといえるのではないでしょうか。

■まとめ

土地の所有者を特定すべく奔走する人が多数存在しているにも関わらず、解決するためには多大な負担を要し、土地の有効活用や災害復旧などの妨げにもなっている現状を感じていただけたでしょうか。

増え続けていく所有者不明土地のこのような状況を受け、国も少しずつ具体的な対策を取り始めています。

♦︎ 市町村等が保有している権利者に関する情報にスムーズにアクセスしやすくすることで、所有者の探索をより円滑に行えるような仕組みを整えること。

♦︎  既存制度の運用の改善を図ること。

♦︎  必要な探索を行ったにも関わらず、それでも所有者が不明な土地である場合、円滑に利用できる仕組みを整えること。

♦︎  所有者を確定できなかった場合に行う収用手続きをより簡素・円滑に行えるようにすること

♦︎   公共的事業など、収用手続きの対象とならない場合の対処方法を検討すること。

♦︎  以上の観点等について、国土交通省でも喫緊の課題として検討が重ねられた結果、2018年には「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」が施行され、その効果が少しずつ見えてくることが期待されています。

また費用やコストの面だけでなく人員の面でも負担が多いという点においては、約6割の市町村において用地専門の部署が存在しておらず、 特に小規模市町村ではそれが8割以上ものぼっているという現状があります。

これらを踏まえ、用地取得のノウハウを技術・人的両面において支援することや、現行制度の改善、さらには相談窓口の設置 、補償金算定支援、経験者の派遣等の対策を求める声が現場から上がってきています。

さらに、所有者不明土地が発生する大きな要因ともいえる相続登記については、2021年に法律が改正され、2024年には義務化される見通しとなったため(以降の記事でより詳しく解説する予定です)、年月の経過と共に増え続けてきた所有者不明土地の更なる増加を一定程度食い止めることが期待されます。

そのため、現段階では今までに発生してしまった所有者不明土地を、今後どのような形で減らしていくことができるのかということが注目されるでしょう。

<参考>

国土交通省 「所有者不明土地を取り巻く状況と課題について」https://www.mlit.go.jp/common/001201306.pdf

国土交通省 「所有者不明土地問題に関する最近の取組について」https://www.mlit.go.jp/common/001290035.pdf

所有者不明土地問題研究会 「所有者不明土地問題研究会 最終報告概要」https://www.kok.or.jp/project/pdf/fumei_land171213_02.pdf

大和ハウス工業 「『所有者不明土地』とは?~増加する理由と問題点について~」https://www.daiwahouse.co.jp/tochikatsu/souken/scolumn/sclm341-2.html

東洋経済オンライン 「所有者不明の土地が続出する被災地の実態」
https://toyokeizai.net/articles/-/35587

NHK解説委員室 「西日本豪雨3年 復旧阻む『所有者不明土地』」(時論公論)https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/451970.html

司法書士法人 不動産名義変更手続センター 「【令和6年4月1日より開始】相続登記の義務化(今後どうなる?)」
https://www.meigi-henkou.jp/16130337523182

朝日新聞社運営のポータルサイト 相続会議 「相続登記の申請義務化が決定2024年までに施行される制度を解説」
https://souzoku.asahi.com/article/14336499

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