こんにちは。ワケガイ編集部です。
共有名義の不動産をめぐって、売却や活用をめぐる協議がまとまらないケースでは、時間と資産が無駄に消耗されるだけでなく、相続人間の関係悪化や法的トラブルにもつながるおそれがあります。
その際に実務的な打開策となり得るのが、共有物分割請求です。共有物分割請求とは、民法に基づき、共有状態の不動産を法的に解消するための手続きのこと。話し合いが難航していても、最終的には裁判所の判断により分割や売却が可能になります。
ただし、制度の仕組みを正しく理解していないと、費用や時間の負担が想定以上に膨らんでしまうこともあるため注意が必要です。
本記事では、共有物分割請求の概要や手続きの流れ、メリット・デメリットまでを網羅的に解説します。
目次
共有物分割請求とは?
共有物分割請求とは、不動産を複数人で共有している状態を解消するための法的な手続きのことです。共有名義の不動産は、所有者それぞれが「共有持分」という形で権利を持っていますが、その持分だけでは自由に売却や改築などを行うことはできません。
そうした事態に備え、民法では共有者に対して「共有物の分割を請求する権利」が認められています。具体的には、以下のように定められています。
“五年を超えない期間内は分割をしない旨の契約をすることを妨げない”
この条文により、たとえ他の共有者が話し合いに応じなくても、裁判所を通じて共有状態の解消を求めることが可能です。協議や調停を経てもなお意見が折り合わない場合には、共有物分割請求を通じて、最終的に裁判所が分割方法を判断します。
共有不動産を「利用したいのにできない」「売りたいのに売れない」といった状況を打開する手段として、共有物分割請求は非常に実務的な選択肢といえるでしょう。
共有分割請求が必要なケース
共有状態を維持することで不動産の管理や活用が円滑に行えるのであれば、必ずしも分割請求を行う必要はありません。一方で、以下のようなケースでは共有物分割請求が有効な可能性があります。
- ケース①:共有者との協議がまとまらず不動産を活用できない
- ケース②:相続などで共有者が増え、意思決定が困難になった
次項より、個別に解説します。
ケース①:共有者との協議がまとまらず不動産を活用できない
不動産を売却したい、あるいはリフォームして活用したいと考えても、共有者の一部が反対していると、手続きは一切進みません。不動産の重要な処分や変更には、原則として共有者全員の同意が必要になるためです。
たとえば、老朽化した家屋を取り壊して土地として売りたい場合でも、共有者のうち一人でも反対すれば実現できません。結果として、空き家のまま放置され、資産価値が目減りしてしまうこともあります。
こうした状況では、協議による解決が難しいと判断されるため、共有物分割請求によって法的に共有状態を解消するという選択が現実的になってきます。
ケース②:相続などで共有者が増え、意思決定が困難になった
不動産を複数人で相続すると、持分の分配によって新たな共有関係が生まれます。さらに、相続を繰り返すことで、共有者の数は雪だるま式に増えていくことがあります。
共有者が増えると、合意形成にかかる手間も比例して大きくなります。たとえば、遠方に住む親族同士で連絡がつきにくい、相続関係が複雑で意思確認に時間がかかるといった問題が頻発します。
その結果、誰も活用できないまま時間だけが過ぎていくという事態に陥りがちです。こうした場合にも、共有物分割請求によって関係を整理し、単独名義化や売却などの打開策を講じることが可能になります。
関連記事:共有名義不動産を相続するのは危険?よくあるトラブルや手続き方法を解説
共有物分割請求の3つの分割方法
共有物分割請求をおkなう方法としては、次の3とおりです。
- ①:現物分割
- ②:代償分割
- ③:換価分割
以下より、個別に解説します。
①:現物分割
現物分割とは、不動産を物理的に分けて、各共有者が単独で所有できるようにする方法です。たとえば、更地になっている土地であれば、持分に応じて物理的に区画を分けることが可能です。これを「分筆」と呼びます。
ただし、建物を複数に分けることは現実的に困難なため、実際には建物のない土地に限って適用されるケースがほとんどです。また、分筆しただけでは登記上の所有権は変わらないため、最終的にはお互いに持分を譲渡し合い、単独名義に切り替える必要があります。
関連記事:現物分割とは?メリット・デメリットや検討すべきケースを解説
②:代償分割
代償分割とは、共有者のうち一人が不動産全体を取得し、他の共有者に対してその持分に応じた代償金(金銭)を支払う方法を指します。たとえば、共有者Aが不動産全体を取得し、共有者Bには評価額に応じた現金を渡すという形です。
この方法が裁判所で選択されるのは、以下のような事情があるケースです。
- 現物分割が物理的・実務的に不可能である場
- 不動産を取得する共有者に、代償金を支払える資力がある
- その他、代償金による分配が公平と判断される
一方で、資力のない共有者に対して「借金してでも取得せよ」と裁判所が求めることはありません。
関連記事:「代償分割」とは?共有持分の分割方法方法として選ぶべきケースを解説
③:換価分割
換価分割とは、不動産を第三者に売却し、その売却代金を共有持分の割合に応じて分配する方法です。共有者同士で分割や買取が難しい場合に選択されます。
実務上は、裁判所が強制的に売却を進める「競売」という手続きによって実施されるのが一般的です。しかし競売は以下のようなデメリットがあります。
- 市場価格より大幅に低い価格で売却される傾向がある(通常は6~8割程度)
- 裁判所の関与により、不動産調査や写真撮影が行われ、プライバシーが侵害されることがある
こうした事情から、可能であれば競売ではなく、任意売却や他の分割方法を優先的に検討するのが望ましいとされています。
関連記事:共有持分の「換価分割」とは?メリット・デメリット、選択すべきケースを紹介
共有物分割請求の流れ
共有物分割請求を行う流れは、主に以下の3ステップに分けられます。
- Step1:分割方法について話し合う
- Step2:裁判所に調停を申し立てる
- Step3:訴訟で裁判所の判断を仰ぐ
各手順について、それぞれ個別にみていきましょう。
Step1:分割方法について話し合う
まずは共有者同士で分割方法について協議を行います。前述した「現物分割」「代償分割」「換価分割」のいずれにするかを話し合い、合意が成立すれば、協議に基づいて手続きを進めることが可能です。
この段階で話がまとまれば、訴訟に至ることなく共有状態を解消できます。ただし、意見が折り合わない場合は、次のステップである「調停」へと進むことになります。
Step2:裁判所に調停を申し立てる
裁判所で「共有物分割調停」を申し立てることで「調停」を行えます。
調停では裁判所の調停員が交渉の間に入って進めてくれるため、スムーズに決まる場合があるでしょう。調停によって和解が成立すれば、和解調書も作成されます。
ここでも決着がつかなければ、次の「訴訟」へと進みます。なお、調停は必須ではないため、いきなり訴訟を起こすことも可能です。
Step3:訴訟で裁判所の判断を仰ぐ
協議や調停で解決しない場合、最終段階である訴訟となります。訴訟では、裁判所側が客観的に判断した上で共有物の分割方法を決定します。どのような判決になるかは案件によって異なりますが、優先順位は下記のとおりです。
- 優先順位1:代償分割
- 優先順位2:現物分割
- 優先順位3:換価分割
なお、以前は現物分割が優先されていたときもありましたが、今では現物分割が可能な場合であっても、共有者のうち誰か1人が価格賠償の条件を満たすのであれば、価格賠償が選択されるケースが多くなっています。
共有分割請求のメリット
共有状態を解消する方法として、共有物分割請求は強力な手段となり得ます。共有物分割請求を行うことで得られる代表的なメリットとしては、以下のとおりです。
- メリット①:共有者の同意がなくても手続きを進められる
- メリット②:将来的なトラブルの火種を早期に摘める
- メリット③:売却可能性や活用の自由度が高まる
それぞれ個別に解説します。
メリット①:共有者の同意がなくても手続きを進められる
共有不動産の取り扱いには、原則として全員の合意が必要です。しかし、共有物分割請求を通じて裁判所の判断を仰げば、一部の共有者が反対していても手続きを前に進めることができます。
たとえば、売却に反対する共有者がいて話し合いが膠着している場合でも、分割訴訟を通して最終的には裁判所が適切な分割方法を決定します。これにより、「何もできないまま時間が過ぎる」といった事態から抜け出すことが可能になります。
メリット②:将来的なトラブルの火種を早期に摘める
共有状態を放置しておくと、相続や持分譲渡などによって共有者が増加し、状況がさらに複雑化するおそれがあります。また、共有者の高齢化や判断能力の低下、意見の対立によって不動産の適切な管理が困難になるケースも少なくありません。
こうした問題が顕在化する前に、共有物分割請求を活用して不動産の所有関係を整理しておくことで、将来の紛争や不動産の塩漬けリスクを未然に防ぐことが可能です。
メリット③:売却可能性や活用の自由度が高まる
共有状態を解消して単独名義になれば、売却、賃貸、リフォーム、建て替えなど、あらゆる場面での意思決定がスムーズになります。共有者との調整や同意取り付けの手間が不要になるため、不動産の価値を柔軟に活かせるようになります。
特に、資産としての流動性や収益性を重視する場合、共有状態のままでは大きな足かせとなることが多く、早期の単独化は現実的な戦略といえるでしょう。
関連記事:第三者への共有持分売却で、他の共有者の同意は不要!よくあるトラブルやルールを紹介
共有分割請求のデメリット
共有物分割請求は、共有状態の打開策として非常に有効ですが、手続きを進めるには一定の負担も伴います。特に裁判手続きまで進む場合は、次の事柄に注意しましょう。
- デメリット①:費用や時間がかかる
- デメリット②:関係性がさらに悪化する可能性がある
- デメリット③:必ずしも希望通りの結果になるとは限らない
以下より、個別にみていきましょう
デメリット①:費用や時間がかかる
分割請求にかかる費用や期間は、不動産の性質や共有者間の対立状況によって大きく変動します。弁護士費用、不動産鑑定費用、登記費用などが重なることもあるため、軽い気持ちで踏み出すと「こんなはずではなかった」と感じてしまう可能性があります。
そのため、着手する前に弁護士など専門家へ相談し、ケースに応じた所要時間や費用感を確認することが現実的な準備といえます。
<共有持分割訴訟の費用の目安>
- 弁護士費用(着手金):30万〜50万円程度
- 弁護士費用(成功報酬):経済的利益の10〜15%が目安
- 不動産鑑定費用:20万〜50万円程度
- 登記費用:内容により変動(数万円〜)
- 裁判所への手数料:数千円〜数万円程度
<共有持分割訴訟にかかる期間の目安>
- 協議のみで解決:即日〜数週間
- 調停まで進む:3か月〜半年程度
- 訴訟へ進展:半年〜1年以上
デメリット②:関係性がさらに悪化する可能性がある
調停や訴訟といった法的手段を取ることは、共有者との対立を明確にする行為でもあります。相手が親族や長年の知人である場合、関係性に大きな亀裂が生じることもあります。
一度こじれると今後の相続や生活上のやり取りにも支障をきたすおそれがあるため、人間関係の影響も冷静に見極める必要があります。
デメリット③:必ずしも希望通りの結果になるとは限らない
共有物分割請求は、最終的に裁判所が分割方法を判断する制度です。そのため、当事者の希望があっても、常にそれが通るとは限りません。裁判所は共有者の資力、不動産の性質、分割の実現可能性などを総合的に評価し、中立的な立場から「最も合理的」と考えられる方法を選びます。
たとえば、自分がすべての持分を買い取って単独所有にしたいと希望していても、他の共有者に資力がなければ代償分割は認められず、結果として競売(換価分割)が選択されてしまうことがあります。
共有物分割請求はあくまで「共有状態を解消する」ための手段であり、自身の希望をそのまま叶える仕組みではないことを理解しておきましょう。
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まとめ
共有物分割請求は、共有名義不動産を法的に整理する強力な手段です。とくに話し合いが難航しているケースでは、時間の経過とともに状況がさらに複雑になり、不動産の価値や家族関係に悪影響を及ぼすこともあります。
制度を活用することで、共有者全員の同意が得られなくても、裁判所の判断により現物分割や代償分割、換価分割などの方法で解決を図ることができます。
ただし、手続きには一定の費用や時間がかかるほか、希望通りの分割方法が採用されるとは限りません。
共有不動産の今後に不安を感じている場合は、請求に踏み切る前に、専門家に相談し、自身の状況に最も適した選択肢を検討しましょう。