
不動産売買や遺産相続などで再建築不可物件を取得された方の中には、「もしかしたら何かしらのトラブルに発展するかもしれない」と不安に感じられる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そのような方のために、本稿では再建築不可物件を所有した際に発生しがちなトラブル例について解説します。
目次
再建築不可物件で起こりがちなトラブル
隣地との境界の認識が違う
再建築不可物件は、築古の物件がほとんどであるため、隣地との境界が経年で曖昧になっていたり、そもそも境界が定められていなかったりするケースがあります。そのため、再建築不可物件の取得後に、隣地の所有者と土地間の境界についてトラブルになる場合があります。
隣地の所有者と境界線に関する認識がズレていた場合は、早急に「境界明示図」を確認しなければなりません。
境界明示図は土地の境界について、所有者の異議なく確定したことを示す書類で、「筆界確認書」「土地境界確定書」とも呼ばれます。境界明示には法的拘束力がありますので、隣地の所有者と境界についてトラブルになった場合は、境界明示の有無を確認することがトラブル解決への近道です。
そもそも、不動産取引を行うためには、売主側には境界を明示する義務があり、現地に境界線を明示する杭やプレートを設けておくことが、不動産取引における「物件引渡義務」のひとつとして定められています。
もし、隣地の土地所有者との境界に関する認識に相違が発生した場合は、自分が物件を購入した相手に確認をとったり、それとは逆に隣地の過去の取引記録を洗ったりするようにしましょう。
ブロック塀や植栽などを使って境界を区切っているケースもある
再建築不可物件の場合、隣地との境界を示すための敷居として、ブロック塀や植栽を用いているケースもあります。ブロック塀などが特にそうなのですが、境界が未設定の状態ですと、もし台風や地震などでブロック塀が崩れた際に境目が曖昧な状態になり、トラブルに発展しかねません。
ブロック塀の所有権に関しては、設置費用を負担した人のものとなりますが、共同設置されたものであれば、所有権に関しては両者が持つことになります。
ところが、物件の所有者が変わっているために「誰がいつ境界に敷居を設置したのか」がわからなくなっていると、正規の境界線をあらためて引くためのブロック塀の取り壊し費用を「誰が負担するのか」をなりかねません。
隣地の境界に植栽が用いられている場合もトラブルに発展するケースがあります。植栽に第三者が干渉できるかどうかの扱いは枝と根によって異なるためです。例えば、植栽の枝部分は勝手に切り取れませんが、根の部分は第三者が切り取ることができると、民法第233条で規定されています(※1)。
隣地との正規の境界線を引くために、民法が定める範囲を超えて植栽に手を加えてしまうと思わぬトラブルが発生しかねません。
再建築不可物件が私道だった場合の注意点
購入した再建築不可物件に私道が含まれた場合、水道管・ガス管などの整備にあたって、トラブルに発展しかねない懸念材料がいくつかあります。
水道管が私設の可能性がある
まず、水道管が私設のものである場合、老朽化していたり、水漏れを起こしていたりしても勝手に修繕を行うことができません。
近年、日本においては水道管・ガス管の老朽化が問題とされています。もし、再建築不可物件が私道に面しており、水道管の修繕方法に関して取り決めが行われていない場合には、思わぬトラブルに発展してしまうでしょう。
さらに、度重なる相続の発生で、私道が共有名義になっていて権利関係が複雑な場合は、修繕に当たっては名義人全員の同意が必要です。
水道管を整備する為の費用は自己負担になりかねない
公道の場合は、水道管のようなインフラ整備は地方自治体の管轄であり、必要費用も自治体の予算の中から出されます。一方で、私道に備え付けられている私設の水道管に関しては、整備にかかる費用も自己負担となります。
私道に存在する埋設物は、修繕に必要な費用は所有者が負担するのが一般的で、その場合は物件の売買契約書にも「私道負担」と記載されます。
これは再建築不可物件の売買契約を行う際の重要事項説明のひとつ「私道に関する負担に関する事項」として、宅地建物取引業法第35条において定められています(※2)。
袋地である場合の通行権について
袋地とは、四方を他の土地に囲まれていて、行動に面していない土地のことです。この袋地を囲む土地については囲繞地(いにょうち)と呼ばれます。
購入した再建築不可物件が袋地にあたる場合、公道に出るためにはいずれかの囲繞地を通る必要があります。この権利は「囲繞地通行権」として袋地所有者に保証されており、民法第210条がその根拠となります。
囲繞地や袋地の通行権と通行料について確認
一方で、囲繞地を通行する権利を有する袋地所有者は、その対価として通行料を支払わなければなりません。
そのため、袋地にあたる再建築不可物件を購入する場合は、通行権の確認に加え、通行料の支払いに関して事前に確認しておく必要があります。
民法上で保証されているのは「最低限の通行」であり、ひとりが問題なく通れる幅となります。そのため、例えば「購入した袋地から車を使って公道まで出たい」と考えた場合には、囲繞地の所有者とから合意を取り付けなければなりません。
合意は口頭でも行えますが、トラブルを防ぎたいのであれば「通行地役権」を設定するのが得策です。通行地役権とは、通行目的で登記される地役権(土地利用の権利)のことであり、地役権設定登記を行うと、これにより囲繞地の所有者が変わったとしても通行可能です。
物件調査は専門家へ依頼しよう
再建築不可物件を購入する場合、事前に物件について調べたとしても、独自調査しか実施していなければ購入後に隣地所有者とトラブルになったり、瑕疵(かし)が見つかったりするリスクは拭いきれません。
プロの調査を行わければ、再建築不可物件のようなリスクの高い物件は特に契約後のトラブルに見舞われる可能性があると言えますので、購入にあたっては家屋調査士や既存住宅状況調査技術者、専門家などの専門家に調査を依頼しましょう。
隣地との境界が未設定である場合は、土地境界がある場合には確定測量を行う必要がある点にも留意しなければなりません。
まとめ
再建築不可物件は経年により隣地との境界が曖昧になっていたり、囲繞地に囲まれた袋地になってしまっている可能性があります。そのため、購入後のトラブルを避けるためには、通常の物件よりも事前に確認しておくべき要素は多いと言えます。
再建築不可物件を取得した後に余計なトラブルに巻き込まれないようにも、事前調査では専門家の手を借りるのが賢明です。
参考:
※1 e-Gov 法令検索,「民法」,https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089,(2022/02/25)
※2 e-Gov 法令検索,「宅地建物取引業法」,https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=327AC1000000176,(2022/02/25)